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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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96話 探偵!トッシュとさっちゃん③

 3年前


「地元の女子中学生が帰ってこないと親御さんより通報がありました。何かの事件に巻き込まれたかもしれません。竜崎警部補と一緒にまずは通学路を調べてください」


 暑からの連絡。非番だったが俺はすぐに被害者の通っていた中学校へと向かった。


「山田、非番中にすまないな」

「いえ、こんな事件が発生したら非番どころじゃないですよ」


 先輩警察騎士の竜崎警部補。男社会の警察期したいにおいて、珍しい女性警官、しかもキャリアだ。優秀な景観だが、頭がかたいことで評判である。そして、美人さんだ。こんな優秀な美人先輩と組まされて嬉しくないと言えばウソになる。被害者の出た事件で不謹慎だが、竜崎先輩に良いところを見せようと、俺ははりきって捜査に乗り出した。


「あそこ、道端の草むらに自転車が。もしかしたら被害者のものかもしれんな」

「防犯登録を確認、被害者の乗っていた自転車に間違いないです」

「破損があるな。車と事故ったか?」

「遺体を処理しようとしたのかも。しかし隠してるとはいえ自転車を残してるのはおかしいですね」


 このローシャ市近隣には人攫いの山賊も潜伏してるとの噂もある。自転車が発見された場所は夜間明りも無く人通りも少ない。が、人里近いこの辺りに山賊が潜伏してるとは思えないし、こんな所まで出張に来るとも思えない。思い込みはいけないが、慎重に捜査をしなくては。


「捜査中止ってどういうことですか!?説明してください所長!!」

「今言った通りだ。これは事件ではない。大方交際相手と喧嘩でもして家出したんだろう」

「だろう、じゃないです!その判断の根拠を説明してくださいと言っているんです!!」

「状況証拠がそう伝えている。竜崎くん、くれぐれも勝手な真似はしないように」

「なんでそんな判断になるんですか!?自転車には車との接触の痕跡もあるんですよ!!どう考えてもこれは事件です!!私は一人でも捜査します!!」

「竜崎くん!待ちなさい!…はぁ、行ってしまったか」


 俺派、所長と竜崎先輩の良い愛を偶然耳にした。捜査が中止になったことは朝礼で伝えられていたことだ。そして竜崎先輩は、それに憤っていた。朝礼のあと、この事件、犯人は警察関係者か、貴族か、資産家か、そういった警察に圧力をかけることができる者の犯行ではないか、と同僚たちの間で噂になった。それもあって、所長に食い下がったのかもしれない。先輩は頭がかたくて、曲がったことが大嫌いだから。


「先輩。俺も手伝いますよ」

「山田…気持ちは有り難いがやめておけ。お前も目を付けられるぞ」

「そんなの関係ないです。俺は先輩の力になりたいんです!」

「そうか、じゃあ、頼らせてもらうかな」


 先輩が力なく笑う。俺は絶対に先輩を支えていくと決意した。


「異動!そんな…」

「山田巡査。君は今日からミズイ町の交番勤務だ。さっそく今から行ってくれたまえ」

「署長…そんなに事件の捜査をされては困るんですか?」

「何のことだね山田巡査。これは君の為だよ。竜崎警部補の勝手に巻き込まれたら、君も警官を続けられなくなるかもしれんのだぞ」

「なにを…!」


 そこで俺を止めたのは竜崎先輩だった。


「先輩、なんでここに?」

「お前が署長室に呼ばれたと聞いてね。来てよかったよ、お前署長殴ろうとしただろ」

「い、いや…そこまでやろうとは思ってないですよ!?先輩じゃないんだし!」

「竜崎警部補、君は呼んでいないんだがね。勝手に入って来ては困るよ」

「あら、間一髪でしたよ?山田が署長殴ろうとしてたんですから」

「…もういい。山田巡査。すぐにミズイ町の交番に向かいたまえ」

「くっ…!」


 まじで署長をぶん殴ろうと考えて始めていたが、先輩が俺に声をかけてくる。


「やめなさい山田。もういいから」

「先輩…」


 署長室を出た俺は、荷物を整理する。先輩も一緒に手伝ってくれている。


「先輩、勤務場所が変わっても俺は先輩に協力しますから」

「…そっか。気持ちだけ受け取っておくよ」

「気持ちだけじゃだめですよ。きっと署長、いやその上にいる何者かが焦っているに違いないです。先輩は犯人を追い詰めてるんですよ」

「そうだといいな。いや、そんな弱気じゃいけないな。犯人は必ず捕まえる。山田にも手伝ってもらうこともあるかもね」

「遠慮なく言ってくださいね。俺は先輩の力になりたいんですから」

「ありがとう。じゃあ、これからもよろしくね」

「はい、山田巡査!ミズイ町交番へ出向します!」


 それが、竜崎先輩との最後の会話だった。それから二日後。竜崎先輩が遺体となって発見された。遺体には着衣の乱れがあり、複数の男たちに乱暴された形跡もあったことから若い女性を狙った強姦事件として捜査され、先輩が捜査していた事件とは無関係と処理された。


「あれから3年ちょいか…」


 先輩が殺された理由は間違いなく女子中学生が消息を絶った事件を捜査していたからだ。先輩の遺志を継いで事件の真相を暴く…なんて熱意は、もう俺にはなかった。申し訳ない話だが、俺は被害者のためではなく先輩のために捜査を協力していたにすぎない。先輩が殺されて、俺は心が折れてしまった。もう刑事部に戻るという気力もなく、日々をこの交番で過ごすだけ。先輩が見たら激怒するだろうな。そんなダラダラと仕事をするな、って。でもモチベの源がなくなったんだから仕方ない。いっそなんかの事件に介入して犯人にうっかり刺されて殉職してしまいたいとすら思っている。まぁ、そんな大層な事件なんて、こんな田舎じゃ起きやしないのだが。


「山田ー、通報があったから行くぞー。なんか男が女を引っ張ってどっか連れて行こうとしてるんだとさー」


 田中先輩から呼ばれ、準備をする。起きる事件は、こんな一般人の揉め事ばかり。大きな事件でも起きないかなぁ…不謹慎だなぁ…と思考をぐるぐるさせ、竜崎先輩ならこう言うんだろうなぁこうするんだろうなぁと想像する。そんな毎日だ。


「うぃー、了解っすー」

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