96話 探偵!トッシュとさっちゃん⓶
まず捜査の基本は脚だ。聞き込み調査を地道に続けることで証拠を集める。事件が起きたのは3年前の11月20日。その日の夜に、マリアは犯人の左目を抉り取り、逆上した犯人に殺害され、埋められている。その事件の日以降に、目の治療をしたり、眼帯をしたり、もうダイレクトに左目がなくなっていたり、そんな人物がいないか、ひたすら靴を潰す勢いで聞き込みをする。
「あ!」
突然、さっちゃんが思い出したかのように声をあげた。
「大事なことわすれてた!ふたりともついてきて!」
駆け出すさっちゃん。一体彼女はなにを思い出したのだろうか。彼女たちの目的地とは。
~ファッションセンターむらしま~
「やっぱまず形から入らないとね」
・厚底の編み上げロングブーツ(色:ブラウン)
・膝あたりまでの長さのクラシカルなトレンチコート(色:ベージュ)
・ふわふわのキャスケット帽(色:ブラウン)
・ユニセックスな白のブラウスに黒のネクタイ
・オリーブ色のショートパンンツ
・いつもと違うアンダーリムの赤フレームのメガネ
「どう?探偵みたいでしょ?」
「おおー、かわいいです!」
「でしょでしょ」
「ね?トシさん?」
探偵風ファッションに身を包んださっちゃんに、まりやも興奮しトッシュにも同意を促す。
「おお…ほう…」
「反応薄いー、もっと褒めないとダメですよーもてませんよー」
「そんなこと言われても…ねぇ?」
「なんでそこで君は私に振るのかな!?素直に褒めてよ!」
「いや、なんかさっちゃんキャラ変わってない?大人しいイメージだったんだけど」
「そう?あんまり意識してないからピンと来ないかなぁ。で、似合う?あとさっちゃん言うな」
「うん…似合ってると思うよ、うん」
「よし、よくできました!」
トッシュが素直に褒めたことでさっちゃんも笑顔が盛れる。その笑みを誤魔化すように、トッシュの背中をバシバシ叩くさっちゃん。普段こんなバシバシ叩かれたらイラっとするトッシュだが、今回は不思議と嫌な気持ちにならなかった。そんなトッシュとリンクしているまりや、何かに気付く。
(むむむー!?もしかしてトシさん…!)
・
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「まぁ形から入るってのは大事だよな。俺もこんなん用意したぞ」
トッシュが懐から出したのは名刺だ。
探偵事務所タルタロス
主任 ギャミ・シャガール
「このギャミってのは君なの?」
「そそ、偽名ね」
「タルタロスって…まぁちょうどいいか」
タルタロス、奈落の神。骨になってたまりやを起こしたトッシュにはちょうどいいのかもしれない。
「そっか、君は死者の声がわかるんだもんね。いいんじゃない」
さっちゃんも探偵事務所タルタロスに乗り気だ。この3人、探偵ごっこに気が流行って冷静な判断を失っている。止める者がいない故に、コスプレやら変な事務所やら作ってしまった。果たしてこのまま捜査に乗り出すのだろうか。
「ほんとにいいの?」
トッシュがストップをかけた。3人の中で最も年長者だ。トッシュは二人に再度確認する。
「タルタロスでいい?他にもあるよ。コキュートスとか、ジュゲッカとか、ダイダロスとか」
トッシュの提案はあまりにもあまりだった。しかしさすがにこれには二人も冷静を取り戻すに違いない」
「ジュデッカとかコキュートスまで行くとやりすぎね」
「ダイダロスって大工とかそんなんじゃないっけ?探偵事務所には合わないんじゃないかな」
「んー、そっか。じゃあ俺らは探偵事務所タルタロスだ!」
「私のことはミス・シャーロックと呼びなさいよギャミくん」
「りょ、シャっちゃんね」
「シャっちゃん言うな!」
「いいなー、私も探偵やりたいなー」
ナチュラルハイなテンションのまま、3人の捜査がついに始まる!