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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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95話 宝物、守護りたい人④

「ボスー、もう帰らね?」

「せやなー。うちのチームもほぼ壊滅だしまず立て直ししないとなー」


 ジャスティスよりちょい先に、宇宙要塞ネオデビルクロスに放り込まれた二人。宇宙傭兵の隊長と副隊長のお二人である。正直今後ズオーから仕事を寄越されても、ヒトデ不足で業務に支障をきたすため契約続行不能で帰ろうかと考えている。


「じゃあ、俺らのスペースシップに乗って帰りますか」


 副隊長がドッグへと向かおうとしたときである。二人ともその場で倒れ込む。お互いが同時に倒れるという異常な事態、その原因はすぐにわかった。


「逃がさん…」


 脳内に響く音声。聞き覚えのある音声。それはズオーの声だ。実際はズオーと同じ声かどうかはわからないが、『それ』が二人の脳にその声をズオーのものだと認識させているため、そうのように感じるのだ。


「お前たちはわがズオー軍団の一因となるのだ…さぁ機械生命体として新たなボディを授かるのだ…」


 二人は抵抗したいが、できない。完全に肉体の支配を奪われている。ロイコクロリディウムに寄生された蝸牛のように、二人はズオーの部屋の奥にある機械化装置へと導かれていくのだった。

 ・

 ・

 ・

「どしたん?」

「…」


 ローシャ市を練り歩くトッシュたち一行。ふと、マリアが足を止め、掲示板を凝視する。視線の先には行方不明者の情報提供を呼び掛ける張り紙。トッシュはその張り紙に掲載されている少女が誰なのかわからなかったが、すぐにそれがマリアのことだと気付いた。


「あー…そっか、骨の状態しか知らんしな。今のガワは別人だし」

「ちょっと家に寄ってもいいかな?」

「うん、それは構わないけど…辛くない?」

「どっちにしても辛いのは変わらないよ」

「…そだね」


 マリアの案内で到着したその家は、ごくごく普通の一軒家だ。事件は部活の帰り、夜の19時ごろだった。1人で自転車に乗ってこの家を目指していたマリアに、突如一台の車がぶつかってきた。事故に巻き込まれたことにゾッとしたが、幸い体には大きなケガはなさそうで、すぐに起き上がれそうだった。が、彼女の不運はそこからだった。


 犯人とおぼしき男に突如抱えられ、車に放り込まれる。事故のショックで思考が追いつかず、声を上げることもできなかった。男は呼吸が荒い。そのまま車は山奥へと向かっていく。人気の無い場所で車は止まった。


「だ、だいじょうぶだから。ご、ごめんねいきなり車でぶつかって」


 言葉と裏腹に、男の手はマリアの体をまさぐる。マリアは、己の運命を悟った。私はレイプされるんだ、と。マリアの初めての男は、父親くらいの歳が離れた男だった。


 汗で匂う中年男性の手と唇が、マリアのほぼ全身に触れた。男の欲望がマリアの中に吐き出された。事が済み、男は無言で煙草を吸っている。乱れた着衣を直す気も起きないマリアだったが、胸のポッケに入れていたボールペンが手元に転がっていた。男は長時間動いた後で心地よさそうな疲労感で油断マンマンである。マリアは怒りに任せて、ボールペンを男の眼球へと突き刺した。


 激昂した男は、マリアをその手にかけた。


 あの日帰りたかった家。怒りに任せてあんなことしなければ帰れたかもしれない。が、欲望のままに汚されてあのまま泣き寝入りはしたくなかった。ボールペンを引き抜いたとき、眼球がいっしょにずるっと出てきたときは、スカッとした。けど、その結果、両親を悲しませてしまった。


 ピンポーン。マリア宅のチャイムが響く。家の中から足音が玄関に向かってくる。ガチャ。扉が開くと同時に、はーいと、母の声が耳に届く。


「えっと、どちらさまかしら?」


 母の顔。最後に見たときから数年が経過したが、それ以上に老けたように見える。きっと娘が行方不明になり、いろいろあったのだろう。あの張り紙には車にぶつけられて壊れた自転車と、その弾みで落としたメガネが映っていた。それを手掛かりで、探していたのだろうということは簡単に想像できる。


「あ、あの…私、マリアさんの同級生で…その…」

「…そう、なのね。ありがとうね。よかったら上がっていくかしら?」

「はい…」


 その様子をトッシュは眺めている。マリアを殺めた犯人。何者かはわからないが、トッシュはマリアと契約しその無念を晴らすと約束した。死者を操るこの死体操術は未練を持つ死者との契約で効果を生み出す場合もある。例えば地縛霊はその場から動けないが、その呪いを除去するために新たな呪い、つまり契約が必要なのだ。これを破ったらその呪いがトッシュに帰って来る。


「わざわざそんな契約をする必要あったのかい?」


 未練を持つ死者を見つけたとき、トッシュはよく契約をしては、ネネさんから呆れられていた。自分の軍を作るためにヒトデは必要だからというが、わざわざ契約を結ばずとも強引に支配する方法もあるし、そっちの方が楽だ。契約はあくまで自らの力が及ばない強者の死者や呪いを持つ死者と交渉する手段だから。


「支配じゃないんだよ、うちの魔王ボスのやりたいことは」

「ふーん」


 トッシュは人類を皆救いたいという身の程知らずな願望は持っていない。無理だとわかっているから。ただ、知ったからには無視はできない。せめて自分の見える範囲にいる人たちは守護りたい、救いたいと思っている。マリアの無念を晴らすこと。これは最早マリアだけの願いではない。トッシュの願いでもある。

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