95話 宝物、守護りたい人①
ピンポーン、と屋内に響く音。来客を知らせるインターホンが響くのは宇宙海賊ネオデビルクロスの本船内にて絶賛研究中のギロチネスの巣と化したネオデビルクロスの研究ラボである。ギロチネスは研究に精を出し、ときどきトイレで精を射精す不健康な生活故、来客なぞ無視するのだが、今回はそうもいかなかった。インターホンの直後に、重たい何かがドン、と落下する音も続いたためだ。
ギロチネスはビクッ!と驚き、研究室の機材やらに被害が出てないかを確認するため立ち上がり、振り返るる。そして、すぐに被害状況を把握した。研究室に被害は一切ない。が、とてもめんどくさいことになった。
「この人は…いや、その前に死にかけてるなぁ…はぁ…」
めんどくさいので、研究室で倒れてる彼女の、娘さんを呼ぶことにする。ちょうどネオデビルクロスに捕らわれていて良かった、めんどうはあっちに押し付けて研究を続けるか、とレイを呼んだあと、また今やっていた作業の続き…グランガイザスの研究に戻る。
ピンポーン、と再度屋内に響く音。直後にギロチネスを呼ぶ声が聞こえた。
「ギロチネス!いきなり何よ急に急いで来いって!むかつくんですけど!…え?この人…なんで?」
ぶつくさ叫びながらギロチネスのとこまでやってきたレイは、すぐに異変を察知する。本来この場にいないはずの人物が横になっているから、ギロチネスは自分を呼んだのだと理解する。
「ジャスティス(大)…意識は無いの?」
「意識どころか命そのものがまずそうですねぇ」
「わかってんならなんとかしなさいよ…王国で最強と言われた医者でしょうが」
「はー?だから貴方を呼んだんですがー?症状は生命エネルギーの枯渇。どんな無茶したかわからないけどこれは医学うんぬんでなんとかなるもんじゃありませんがー。生命エネルギーを直接入れるしかないですがー」
「生命エネルギー、つまり闘気ね。まいったわ、私も使えないわよ」
レイは精神エネルギーである魔力を用いた魔術を得意としている。レイの持つ魔術の奥義は空間を跳ぶ空術なので、闘気を使える者を連れてくるのができればいいわけではあるが、残念ながら宇宙海賊ネオデビルクロス本船内は空間ジャミングにより空間転移的なアレは出来ない状態である。
「空間転移ができないのに、なんでこの人いきなりここに来たの?」
「それはね、ズオーさまだと思うよ」
「しょうたくん、知ってるの?」
「うん。これはね…」
レイの後ろからついてきたしょうたくんが、解説する。ズオーには特別に空間ジャミングを突破する装置が備わっている。自身の転移ができないが、ある程度の物質を本船内に送ることだけは可能となる装置、人呼んで空間ドリルである。
「その痕跡を辿れば…ダメね。もうジャミングは貼りなおされてる」
空間ドリルで一時的に穴を開けても、ドリルを引っ込めればすぐにジャミングがその穴を覆うため、そこを使っての脱出は不可能。宇宙海賊に穴はないのだ。
「ん?」
レイが本船に近寄って来る何かを感知する。直後、本船内の電光掲示板にも、その到着が表示される。
『あと3分で四天王ゼス将軍のビーグルが到着します』
その通知を見て、ギロチネスはすぐに作業に復帰する。しょうたくんは、
「あーゼス様が戻って来るー」
と安直な反応。しかしレイは気付いた。戻って来るビークルに乗ってるのはゼスではないことに。
(この気配…トッシュね。闘気がわからない彼らは気付いてないようだわ」
ここでレイは、脱出の機会が来たかと期待し、瀕死状態のジャスティス(大)を抱えて本船最短部の空港と向かう。
「おねえちゃん、どこいくの?」
「このままこの人を放置してるわけにもいかないでしょ。部屋に連れていくのよ。しょうたくんは医務室から薬とか持って来てくれる?栄養ドリンクも」
「うん!」
しょうたくんはおつかいに出発。これでレイはフリーだ。あとは空港に来たトッシュが奪った船に乗って帰るだけ。
「…」
レイにも心残りはある。しょうたくんとなんだかんだで仲良くなってきた。彼をカズミのとこから連れて行きたいとは思うが。
「ダメよ、欲張ったら」
二兎を追う者はなんとやら。まずは自分とジャスティスの脱出という二兎だけを目指す。三兎まで求めたら失敗の可能性も高くなるから。
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「って違うじゃねーか!」
「ええ…なんで俺キレられてんの…?」
空港に帰って来たのはゼス本人だった。理不尽にキレられたゼスが戸惑う。トッシュの存在はそこにはなく、なぜかゼスの内側に迸るようなトッシュの闘気が籠っているのだ。
「なんでだよ!はぁ…まぁ、これはこれで死なずに済むかしら」
「うん、君が抱えてるその人のこと?」
「察しがよくて助かるわ。この人もう寿命がマッハだから助けてほしいのよ」
「俺にできることならいいけど」
「ありがと。じゃあすぐこの人とセックスして。もちろん中に出してね」
「…は?」