94話 矜持、自分が自分であるために⑥
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「ところでさ、なんでゼスは逃げたんか?」
一段落したとこで、トッシュに尋ねるオーラ。に、トッシュが答える。実はトッシュも早く解説がしたかった。あの強敵を退けた改心の一手を。
「ふふん、いくら外側が無敵でも内側はそうではないってことよ」
トッシュが自然エネルギーである霊気を操る闘法、八卦龍拳の一つ、闘気を炎に変える火の力。トッシュは自らの闘気をゼスの体内に蓄積し、いつでも発火できる状態に持ち込んだのだ。いかに強固な外皮であろうと、その強固な外皮が存在する理由がある。その理由はもちろん体の内部を守護るため。そこから攻めれば意味を成さないのだ。
「まじか、じゃあなんで燃やさなかった?」
「え、なんか嫌じゃん、生きながら燃やされるの。だから燃やされたくなかったら帰ってね、嘘じゃないよ心読んでみ、ってやったわけ」
「あー、たしかにグロイわなー」
もう一つ理由はある。トッシュの闘気を詰め込んだゼスの居場所をトッシュは探知できる。すなわち宇宙海賊の本船の位置を割り出すためだ。
「けどギリギリだったじゃん、すぐに貯めれんかったんか?」
「そんな都合よくいかんのだわ」
実のところトッシュ自身の闘気だけでゼスに致命的なダメージを与える熱量を発揮することは難しかった。さらに、そもそもゼスの体内に仕込む手段も無かった。打撃に乗せても強固な外皮に弾かれる。故にトッシュオリジナル八卦の烈で自然エネルギーの霊気をトッシュの闘気に変換し、それをゼスの呼吸に同調させ体内に徐々に蓄積させていったのだ。加えて、ゼスの強固なその肉体を刻む切れ味100の黒曜石のナイフを精製し、刻んだ傷口に少しずつ流し込む。溜まったら燃やすと意思表示をして帰らせるというわけだ。
「それに賭けだった。確実に焼死させれるという確信もなかったし。ハッタリじゃないよと心を読ませたけど、その不安も読まれたわけで。まあ帰ってくれたからオッケーよ」
「ほー、でも心読ませたってことは位置特定の狙いも読まれたってことだろ?大丈夫かなちゃんと帰ってくれるか?本船に」
「そこは信じるしかないね。まぁ一ヶ月くらい闘気は残るからその間野宿するわけにもいかんでしょあいつも」
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~けっこう前~
「フィリップー呼んだー?」
「呼んだよ。とりあえずゼファーに説明しておこうと思ってね、勇者量産計画について」
「あー調べてたね。なんかわかった?」
「うむり。知っての通り勇者量産計画はファーストロット…ゼファー、君たち四つ子のことだね。ジャスティスチルドレンが生み出された」
「おかげで両親の愛を知らない子供時代だったよ」
「…そしてセカンドロット、ジャスティスコピー。これについてだけども…」
勇者量産計画。ファーストロットは簡単、優秀な母胎である勇者ジャスティスを強いオスと交尾させてその資質を継いだ子供を作ることである。しかしこれで生み出された赤子は成長に時間がかかるため、手っ取り早く戦力を作れないかと取り組まれたのがセカンドロット、勇者のコピーを作ることである。
「結論から言うとセカンドロットは…失敗している」
「?…でも、いるじゃん、小さいジャスティスが。オリジナルの大きいアラサージャスティスとちょっと関係良ろしくなさそうだけど。まぁ自分が二人いたら複雑よね」
「確かに、いるね。今ジャスティスは大小の二人が。でもね、コピーは失敗しているんだ」
「どゆこと?」
「それを説明するよ。最悪の場合、ジャスティス(小)の存在が失われるから、その対策をしておきたい」
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「なにが…起きた…」
ゼファーは、絶望した。たった今、ゼファーが一番起きてほしくない事態が起きた、かもしれない。
「フフフフハハハハ、ついに手に入れた!感謝するぞゼファーくん!宇宙海賊四天王のズオーが感謝をしているのだ喜びたまえ!」
目の前にいる10歳くらいの少女が、突然キャラが変わった。突然宇宙海賊を名乗り出した。
「あいつが、あの名前を…思考盗聴か!」
ほんの数秒前の事態だ。ジャスティス(大)が、その名を呼んだ。知られてはいけなかったその名を。油断した。まさか今ここに思考盗聴できる宇宙海賊がジャスティス(大)の中にいたとは。だから、さっきジャスティス(小)はあんなことを言ったのか。
~さっき~
「で、アンタはこいつの心、読んだんだよね?何隠してるか教えて♪」
「…おまえ!」
「どうせ肝心なことは教えないんでしょ?ならこいつから聞いた方が手っ取り早いじゃん?」
咄嗟に拘束されているジャスティス(大)の口を塞ぐか意識を奪おうと動いたゼファーを、すかさずジャスティス(小)が抑え込む。体は小さくとも溢れる闘気がものすごいパワーを生む。ゼファーは瞬く間に地面に押し倒されてしまった。
「聞きたいなら教えてやるけど…とりあえず、まず君は自分の感情に従うと言っていたよね」
ジャスティス(小)の決意。たとえ自分がジャスティスのコピーであろうと、トッシュを守護るというこの感情は正義。この感情に従う、と。
「それが本当に『自分』の感情なのかな?私にアタシらしくとか言うけど、君も『君』らしく振舞ったほうがいいと思うよ…………■■■」
■■■、その名を呼ばれたジャスティス(小)は、硬直する。その名を聞いたゼファーは驚愕する。
その瞬間だ。釘を抜き、ジャスティス(大)が動いた!
ズキュウウウン!ジャスティス(大)のアラサーな唇が、ジャスティス(小)のミルクティーンな唇に接触!
直後、ジャスティス(小)の喉にズルルルゥ…と何かが侵略!同時に力なく倒れるジャスティス(大)!
「ついに、ついに手に入れたぞ!最強の肉体だ!」
「ちょっ…お前!何をした!?」
「ハハハハ。奪ったのだよこの地上で最強のボディ、勇者ジャスティスの身体を!こっちの大きい方のジャスティスの身体は死ぬ寸前で力もなにもなかったが、こっちの小さい方は溢れんばかりのパワーがあるぞ!妖術も使えるぞたぶん!」
その言葉を聞いてゼファーの脳内を過る不安。すかさず思考盗聴し、ジャスティス(小)…否、ズオーは解説する。
「おっと、今更だけど実はこのズオー、ジャスティス(大)の中に潜んでいたのだよ。そう、あわよくばジャスティス(小)の肉体を手に入れるために!フフフン♪いかに強大な力を持つジャスティス(小)と言えども、内側からならこうもあっさりというわけだ!」
本来ならば、こうはならなかった。ジャスティス(小)は最大限に警戒し、ジャスティス(大)の肉体を滅ぼすつもりでいた。だが、ゼファーが勇者量産計画のセカンドロット、ジャスティスコピーの真相を持ってここに来てくれたのだ幸いした。ジャスティス(小)の好奇心が、ゼファーの思考盗聴をするように促し隙が生まれたのだ。
「君のおかげだよゼファーくん!お礼と言ってはなんだが安心したまえ。君の不安は解消された。この小さな体の中にある二人の人格…ジャスティス(小)と■■■、二人とも無事だよ。そして…」
ジャスティス(’小)改めズオーは次元の穴を開け、そこに力なく項垂れるジャスティス(大)の身体を放り込む。
「まだ使い道はありそうだからね、我が巣に運んでおこう。…さて、どうする?ゼファーくん。■■■…君の大事な妹の身体を相手に、戦うかね?無論戦っても負けるつもりは毛頭ないがね」