94話 矜持、自分が自分であるために②
「石頭め」
「君のパワーじゃこの頭は砕けんよ。そこのオーラくらいの筋力がないと」
驚愕の頭の固さにすぐに距離を取るトッシュに対し、汚れを払いながらのんびり立ち上がるゼス。
「まぁ筋力ないんだし?あるものを使うしかないでしょ。妖術使ってみせなよ」
ゼスはトッシュの情報を知っている。王国に潜伏させた怪人たちによる思盗聴、それにより集めた情報は宇宙海賊ネオデビルクロス本船のサーバーに収集されている。ザグマーはこの情報を予習して地上に来ていたが、ゼスはサイバネ強化により無線LANを搭載し、リアルタイムでサーバーから情報をダウンロードできるのだ。もちろん、今検索して集めた情報は、トッシュに関するものである。故にトッシュの手札も承知しているわけだ。
「この骨を操るのすごいよね、我々じゃそんなのできないよ」
ゼスは足元に転がる人骨模型とガチ人骨をつま先でつんつんする。模型の方はトッシュが今後の為にあちこちに埋めていたもので、ガチの方は…。
「その骨さんはそのへんに埋まってた子でね。4年前に強姦されて殺された女子校生の骨なのよ、下手に触れると祟られるよ」
「そんな怖いの引っ張ってくる…?」
「同意はもらってるから」
「あぁ…そうなのね…」
トッシュはゼスが自らの能力を把握していることを察している。怪人ゲギョから思考盗聴についてあらかた聞いて来てるから。故に今現在の思考盗聴を防ぐためにアルミホイルの帽子を被っている。つまりゼスの意表を突くなら最近使ってない戦術か、最近編み出した戦術を選ぶことになる。そしてトッシュが選んだのは、前者だ。
八卦龍拳・地、大地の剣。地面から特定の物質を収集し、獲物を作り出す技である。
「黒い短刀…というよりナイフか。本当に便利で羨ましいなぁそういうの」
トッシュが持つその黒光りする二振りのナイフ。土から練り出した黒曜石から精製したその二刀を逆手に、トッシュは姿勢を低く構える
「暗黒新陰流・ナイフコンバット」
「ほう、黒曜石か。確かに切れ味はバツグン、さぁかかって…うへぇ!」
ゼスが言い切る前に、トッシュが高速で突進し斬りつける。息もつかせぬ怒涛の乱撃。込める力は最小限、黒曜石の切れ味ならさっくりぱっくり肉を斬り裂ける。トッシュはゼスの頭蓋骨はめちゃ固いが、皮膚はそうでもないことに気付いている。八卦のために周辺に散布した闘気、これだゼスの体表を伝うことでダメージがどの程度か気付くことができる。骨はノーダメだが、皮膚は内出血を起こし腫れている。
ピッ、とゼスの体表を傷つける黒曜石のナイフ。ゼスもそのやばさを察し、回避に専念する。さっきまでのプロレスの如く全力で受けていたのに。その姿勢の変化が有効性をトッシュに確信させる。
「いた!いた!いたったたた!いたい!」
その傷は深くはない。が、皮膚を切ったら痛い。当然のことである。その小さくないダメージがゼスのストレスになる。
「この…っ!」
トッシュの隙を突いてカウンターパンチを繰り出すも、躱される。否、そもそもそのパンチをさせられたのだ。パンチが空を切り、そして、その腕の皮がぺろんちょとまるでピーラーで野菜の皮を削ったかのように宙を舞った。
「やべ…」
「暗黒新陰流ナイフコンバット!ガラスのハリケーン!」
そこを起点とし、トッシュの必殺技がまるでハリケーンのごとくゼスの全身を刻む!刻む!刻む!両腕をクロスし、ガードを固めるゼス。このまま血をいっぱい流させて勝負を決め…
そこでトッシュの意識が、飛んだ。
数舜の後、トッシュは意識を取り戻す。地面に這いつくばり、血を吐いていることに気付く。
「?????」
体が動かない。じんじんと痛むのは顎。脳震盪を起こしたのだろうか。かろうじて首を動かし、視線を上に向ける。先ほどまでクロスさせていたゼスの両腕が、開いている。
「クロスガードボンバー、これを使わせられるとは思わなかったよ。ゼロ以上の必殺技だ、褒めてあげる」