93話 お散歩 ~愛に全てを~②
・
・
・
「ウィーンガシャン。ウィーンガシャン。オー、ピー、生体反応アリ。ウィーンガシャン。ウィーンガシャン」
暗闇を両目のライトで照らしながら悠々とお散歩に興じるロボットがいるその場所は、魔王城の地下6F。所謂地下牢である。ここには王へのクーデターを企てた主義者やら、他国から王都の情報を盗みに来たスパイ、人気があるものを買い占めて高値で売りさばく転売屋や、予備校に通い始めて知り合った女の子が一月後自分の家に遊びに来たからそのままレイプで処女を頂いた男といった、重大犯罪者たちが収監されているフロアである。
「ア、イタ」
目的のモノを、ズオーが見つけた。それはズオーの個人的なツテで仕事を依頼した宇宙傭兵団の生き残り、ジャスティスにワンパンされた団長と、トッシュが辛勝した副団長である。
「オウ、ズオーじゃんよ」
「助けに来てくれたんスか?」
「イチオウネ…ゲートオープン。ハイ、行ッテイイヨ」
「サンキュー」
「いてきまー」
「サテ…次ハ、ト…」
そして地下牢のその最奥、そこに本来ここにいる筈ではない男がいる。
「王子様、発見シマシタ」
「あ…?お前は…」
魔王に支配される前の、前王の息子、王子。戴冠をする前に追いだされたのでまだ王子という扱いである。王亡き後、本来この王都の玉座に座るべき亡国の王子。魔王に支配されてしまった王都を取り戻すという名目で北方ヴァイスランドが彼を擁し魔王国への進軍を開始するも、魔王国最強将軍の竜将フォーゲルと、今彼の前に立っているマシンロボ・宇宙海賊四天王のズオーに敗北し、彼は王都へと囚われてしまった結果である。
「宇宙海賊が何の用だ?」
「ピー…ヒョロロロ~…王子…アタナニハ戦争ヲ止テメモライタイノデス…ガー」
「ハァ~…もう止まってるじゃないか。お前たちが止めてくれたおかげでさぁ。ため息が出るよ」
「…メンドイ…モウ、イイカ」
プシュー、とズオーの頭から蒸気が噴き出し王子にぶっかけると、そのごっつい頭部をズオーが持ち上げる。
「うわ、くっさ、唾の匂い…へ?」
王子の目にはまだ唾臭い蒸気と地下の暗闇でまだ顔が見えない。が、その後に届く声がその者の正体を教える。
「はー、あっつい。まあ、その、アタシはね、やっぱ復讐はなし。息子の学業を優先したいから、ここから出してやるから組織にそう言っといてくれる?」
「ジャスティス!?ジャスティスじゃん!?宇宙海賊に殺されたんじゃなかったの!?」
「アタシがその程度で死ぬわけないっしょ。ほら、今から空間に穴開けるからここから逃げなさい」
「いやうん逃げるけど、もうちょっと話しようや!ていうかほら生きてるんなら一緒に戻ろうよ!」
「だめ、アタシはちょっとやることがあるからね。ていうかほらさっさと行かないと誰か来るでしょ」
すぐに穴に入ろうとしないので、マシンロボは腕を伸ばしグイグイと穴へ王子を押し込む
「あいてててて!ちょ、ちょっと待って!待ってってジャスティス~」
「マユ姐さんによろしく伝えといてね」
最後に言伝をし、王子をワープさせ、ズオーはまたでかい頭部をセットし、来た道を戻る。王都にはイクスシェイドが張ってるジャミングのため本来空間操作を行うことができない。が、今回宇宙海賊のひみつ道具を用いることでそこに無理やり穴をあけることができる。もちろん、この穴あけは予備校で知り合った女の子が、そのまま親しくなって家に遊びに来たので無理やり500mlペットボトルレベルまで膨らんだペニス(女の子の主観です)を通らせて処女を破るような強引な手法のためイクスシェイドにすぐバレるし、通らせたペニスから放精はできてもペニス自身はまた抜かないといけないように、自分がそこから外に出ることはできない。
結果、地下から1Fに出たとこで、ズオーは魔王軍に囲まれる。
「貴様、ズオーか。何をしに来た」
「ヤア、フォーゲル将軍。チョットオ散歩ニネ」
・
・
・
一瞬だった。本来なら、その勝負の結果は逆だった。
「うわ、ずりぃ…!」
トッシュの目にもそのイカサマはズルにしか見えなかった。
「勝てばいいんだよ、オーラくん。だから君はいつも負けるんだ」
「…」
意識はない。致命傷ではないが、しばらく意識は戻らなさそうだ。
「宇宙海賊が相手なんだよ。聖者でも相手にしてるつもりかい?そもそもアルミホイルだってズルいじゃん?」
そんなこはない。アルミホイルがあって初めて五分の勝負だ。アルミホイルなしじゃ思考盗聴を防ぐことができない。思考盗聴こそズルだし、さらにもう一つオーラ対策のズルをしているのが本当にこいつズルいと、トッシュは思った。
「オーラくんがアルくんとつるんでるのはもう知られてるんだし、この程度の対策くらいするじゃん?」
「そうかい、なら次はこのトッシュが相手になってやるよ」
「ふーん、宇宙傭兵の副団長にギリ勝ち出来る程度の君が、僕に勝てると思う?」
「…心を、読みやがったな」
トッシュはオーラからアルミホイルの帽子を外し、自ら被る。
「オーラくんは僕に噛みついてくるのはわかってた。でもさ、オーラくんも僕の必殺技を知ってて対策してた。僕の思考盗聴対策もしていた。僕はオーラくんの技を防ぐ対策をしてた。ズルなんてないよ。やれる対策をしていただけさ、お互いに」
「…そうかもしれんけど、なんか納得できねぇ。オーラの組み技を防ぐためになんかヌルヌルさせるのって、なんか…なんかまともな対策じゃねぇ!」
オーラはゼスの必殺技、時速300kmを誇る神速のパンチ、通称新幹線パンチとも呼ばれる『ゼロ』対策として、その打撃を躱し、または逸らし、それができなければガードし、直後にその腕を極める、という戦法を取った。案の定新幹線パンチを逸らすこともできず左腕を犠牲にガードし、その腕を掴んだ途端!
「!」
ヌルッ、と滑り掴めない!その隙に、もう一度新幹線パンチがオーラの顎を打ちぬいた…!
「だったらこっちも遠慮なしで行くぜぇゼスさんよぉ!」
「ふん、かかって来たまえよトッシュくん」