92話 家庭、幸せになるために⑥
アルは与えられるだけの人生だった。餌と、ノルマ。身体と魔力を鍛える栄養豊富な食事を糧に、鍛錬を繰り返す日々。自らの考えはなく、ただただ敷かれたレールを進む人生。物心ついたころから悪い奴をやっつけるために頑張ればいいんだと疑うことは一切なく、貴族と、その背後の魔王の都合のいい道具としていい子をしていた日々。人間の悪逆を録画したビデオを見ては、いつか正義を執行する未来を待ち望む。
そしてその日。トッシュと戦った。決着はつかず、全力を出した結果知らない土地に迷い込む。
そして出会った。悪と。心が動いた。今まで見ていた情報としての人類の悪逆。知識はあった。男が大人数で一人の女性を強姦するという行為、集団レイプ。しかしいざ目の前の現実として見た衝撃。許せないという気持ちもあるが、今まで知識はあれど全く興味がなかったレイプという行為を、常に意識してしまうようになる。同時に熱く硬くなる自らの下腹部。したいわけではないのに、そのときの茜さんの心境を考えて…自分も…。
否定できないその感情が、自らの悪が、アルを人間に変えた。
自分の中の悪を知ったからこそ、これを制しなければならないと、刷り込まれた正義の心が呼びかける。心の赴くまま悪を振り撒くことは、悪者であり、我慢のできない躾のなっていない子供だ。
「俺は大人になるんだ。自分のやるべき責任を抱えて、決めたことを最後まで貫き通す人間になりたい。自分の人生の誇りを背負って、子や孫にこの気持ちを受け継いでいきたい。そうやって老いていっても茜さんと最後まで過ごしていきたいんだ」
たとえ闇に生まれても、そのまま闇に消えていく命と見放すことはできない。茜さんのお腹にいる子は、血は繋がらなくとも自分の子だと、愛した女の子供を責任を持って育てていくという決意。悪から生まれたこの純粋な愛の気持ちの責任を、最後まで貫き通す。
「あんたは、ただ自分が欲しい物を欲しがって駄々をこねる子供だ。自分が好きなものを取られて駄々をこねる子供だ」
「ないおう!彼女がNTRされたら誰だって嫌だろうて!子供だろうが大人だろうが嫌だろうて!でも茜さんは別。非処女でも孕んでてもいいの。レイプはノーカン。股は開かされてても心は開いてないからね!」
「…あー、つまりあんた、NTRしたいだけなんだ」
「ちがうちがう!僕は茜ちゃんを愛してる!でもその心を手に入れることはできないのもわかってる!だから茜ちゃんの心に刻むんだ!愛してもらえないならアルくん!君を始末して最大限憎んでもらう!もちろん尊敬する君を処すなんて、僕自身も全身に心の傷が刻まれて、内蔵にまで至るPTSDが致命傷に至るかもしれない…。そんな傷心の僕と茜ちゃんでえっちするのを考えると…勃起します。きっと燃えるんだろうなぁ」
「燃えるのはあんただけだよ…どう御託を並べてもあんたのやりたいことは茜さんをレイプすることだから、全力で阻止する。それだけよ」
「ふぅ、性癖のお話は楽しかったよ。理解はされなかったのが心残りだけど、決着を付けよう。勝者が茜ちゃんを手にするのだ」
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