92話 家庭、幸せになるために⑤
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「すごいよ君は!尊敬するよ君を!僕と同じなのに!」
ゼスの不快な語りを聞かされてアルは顔をしかめる。ひどいことをされた子だから欲情したんだとしか聞こえないゼスに、お前も同じだと言われた。心外である。
「どうしたのアルくん。辛そうな顔してるね。あぁ、そかそかこれか」
ゼスが懐から取り出したるはネオデビルクロスが作り出した叡智の決勝、人避けの結界装置。ヒトコナーズ。スイッチを入れると周辺に人間が不快になる化学物質を半径200mほどに放出、この物質を吸引すると気分を害するため人は来なくなるのだ。
「こんなものを間近で喰らったらそりゃ不快にもなるよねごめんね、でも男同士余計な邪魔なしでぶつかりたいじゃん?」
「いや、理由はそれじゃない…」
アルの目の前に立つゼスという男、なるほどこの男の人格は破綻している。さらわれレイプされ四肢を奪われた茜ちゃんに向かって言うに事を欠いて美しいとかこれは許せん。自分はこんな男とは違う。茜ちゃんの幸せを何よりも願っている。
「違わないさ」
「!?」
宇宙海賊ネオデビルクロスが持つ思考盗聴器。これによりアルの心の中はゼスに丸わかりである。人間心の中ではきちんと文章で思考しているわけではない。映像を完璧に覚えているわけではない。無論一部例外はあるやもしれないが、だいたい思考はあやふやで、記憶はぼんやりだ。なので通常思考盗聴器で集めた情報は一度処理を加える必要がある。暗号化されたデータを複合化するように、文字化けした文章を修復するように。
しかしこのゼスは違う。四天王最強の男。四天王各人が持つ各々の能力をさらに向上させた状態で持っている。雷魔将オーラの肉体パワー、海魔将ザグマーの機械工学、美魔将カズミの生命科学、機魔将ズオーの機械ボディを全て保持している。故にズオーと同じように機械ボディに搭載された複合化ツールを用いリアルタイムで思考を盗聴することが可能なのだ。
「君の人間らしい感情は茜ちゃんの惨状をキーとして呼び覚まされているでしょ。最初に覚えた感情は同情、そして憐憫。故に彼女を守らなくちゃと思い、それが恋心となったわけ。おっと嘘はつけないよ。以前ザグマー配下の怪人が君の感情の生データを集めているからね」
「…」
「僕も同じさ。なんて可哀そうだと思った。辛かったよ、彼女の姿を見てどうしたらいいかわからないでひたすらバイクで山を走ったりしたし。でもね、そうやって彼女のことばっか考えてたら、気付いたんだ。これが愛か!って。そうしたら彼女の過去が、姿が、とても美しく思えてきた。君も同じでしょ?」
否定、できなかった。アルはそんな悲惨な茜ちゃんに感情を揺り動かされ、そして常に彼女を意識していた。それが恋になるのに、時間はかからなかった。
「心の防衛機制さ。心の安定を図るために僕も君も合理化をしたんだ。レイプされて可哀そう、腕を脚を奪われて可哀そう、どうにかしてあげたいのに過去は変えられない、だから苦しい。その苦しみから逃れるために、僕は彼女の過去を美しいと思う様になった」
アルは車イスに乗るアカネへ視線を向ける。割とドン引きした顔が見える。
「…そう、だね」
アルは指摘されて自分の気持ちに気付く。いや、気付いていたが、見ないふりをしていた。そう、確かにアルは、茜ちゃんが、可哀そうだから可愛いと思った!
「そうだよ!お前の言う通りだよ!アカネちゃんがレイプされてるから好きになったんだよ!その過去がずっと頭から離れなくて!辛くて!でも股間は固くなって!でもな!一つだけお前に言っておく!」
「ほう!言ってみなさい!」
「お前が年取ったら!茜ちゃんも同じだけ年を取る!アラフォーアラフィフ超えて米寿にまでなって!老いた茜ちゃんをお前はどう思う!?」
「無論全力で愛した女性だよ!老いたらそら捨てるけど最後まで責任とってちゃんと生活に困らないように対処してあげるよ!」
「はっ、やっぱちげーわ」
「むむむ、さっきと言ってること違うぞ」
安心した。きっかけは同じでも、その後は違った。
「お前さんは愛を知らないってことだ」