92話 家庭、幸せになるために②
日曜日の午前。テレビではキュアコカインとキュアトカレフがコンビで大活躍する新番組プリキュアGangStarが放送が開始された午前9時ごろ。プリキュアを卒業して久しい一人の少年が訓練に励んでいた(彼がこの後10年もしないうちにプリキュアに復帰するのは別の話)。テッサイ・タイシャー、タイシャー流宗家の一人息子である彼は来たる決戦に向け一つの必殺技を体得すべく練習に励む。
立ち合いの練習中に響くカチン!という甲高い音。驚愕する練習相手のギラビィを、ドヤ顔に見るのはそのテッサイ。
「どうすか、これ」
「うん、一本取られたねこれは。驚いたー、これは予想できないわー」
「変形無刀取り、名付けて納とでも呼んでんスけどネ」
「…これ使える場面にどう相手を引っ張るかが問題かな」
「それはちゃんと考えてますわ」
ギラビィが自分なりに改めた無刀取り・納。これを披露した場面でびっくりしたのはギラビィだけじゃなかった。
「まじかー、普通にやるより難しくね?」
「いやいやトシさん、そうとも限らないですよ。ていうかなんでネネさんとずっと手を繋いでんすかそっちの方が驚きっすよ」
「えー、それはー、えー…まぁ冷えるのはそうなんだけどー」
ライゾウくんの問いにごにょごにょするトッシュの手を冷たく掴むネネさんの手。その手はアンデッドの手なのでひんやりしているのは当然で、このクソ寒い時期によくもまぁ掴めるもんだなと驚いてるのだろう。どう返事したものか。
「いやそうじゃなくて、言われてみたらそうなんだけどそうじゃなくて…」
もういいやと呆れるライゾウくんを尻目に、ネネさんはその頭をトッシュの肩に寄せてよく眠っている。吸血鬼故に夜型の生活、スズメの鳴くころに眠くなる習性故仕方なし。
「じゃあその変形無刀取りの精度を上げるためにしっかり練習しようか」
「うす!」
「トシちゃんもっと手ぇ握ってぇー」
「はいはい」
ギラビィとテッサイ、トッシュとネネさんがペアになり、そこからあぶれたためか、居場所がなくすごく居心地が悪いライゾウくんであった
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同時刻、プリキュアGangStarが放送されている頃、ローシャ市内をうろつくトッシュの姿があった。
「ふふふ、うまくライゾウくんの監視を抜けたぞ。さぁ宇宙海賊どもめとっつかまえてやるわ」
トッシュはネネさんとべったりのはずなのになぜローシャ市内を散策しているのか?その秘密は後に語るとして、トッシュの狙いは宇宙海賊であった。以前学校でクラウスの取り巻きから教えてもらった的中率ほぼ10割の占い師さん、その人に占ってもらった結果、次に宇宙海賊の幹部が来襲するのはローシャ市と判定されたのだ。
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「うーむ、そやつはローシャ市に来るみたいじゃの」
「まずスか!なんでわかるんスか!?何しに来るんスか!?」
「そら海賊らしく奪いに来るんじゃろ、何を奪いに来るかはわからんがの。来るのは…プリキュアGangStarが放送開始される日じゃな」
「…ほうほう、あざますあざます。あとは張り込みなりなんなりでなんとかしますよ」
「じゃあ占い料金120万円な」
「…ローン可能っすか?」
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痛い出費だったが本当ならかなりいい情報だ。トッシュはそれからゲギョゲギョ言ってるネズミ怪人をローシャ市の地下に呼び寄せ、宇宙海賊来週の反応あれば知らせるように厳命した。無論、それは『本体』に伝わるように。
「ゲギョ!ゲギョ!ゲギョ!ゲギョ!」
怪人アラームがローシャ市を散策するトッシュ本体の脳内に届く。これも八卦のちょっとした応用だ。
「どした!?来たか!?」
「来たゲギョ来たゲギョ!場所はだいたいこの辺りゲギョー」
「よっしゃ待っとれ宇宙海賊!」
トッシュは怪人から通達された地点へ急ぐ。その現場には当然海賊以外にも他にも人がいた。
「アルくん…」
「またかよ…いい加減にしろよ全く…」
義手義足を失い身重のアカネちゃんの座る車椅子を押しているアルの前に現れたその男。宇宙海賊四天王筆頭、最強魔将ゼス。宇宙海賊の狙いは、この地上にあるお宝。そしてゼスが目を付けたお宝こそが…。
「また私狙われてるの…?」
「まじでうざい…本気で駆除する」
アカネちゃんであった。