91話 練習!暗黒新陰流無刀取り!①
ローシャ市まで50km以上、黒森峰からの距離である。これを90分以内を目標に走るトッシュとテッサイ。まずはこの距離をランニングすることで、2年以上のサボタージュにより失われたテッサイの体力を取り戻す、というのはまず間に合わないので単にどこまで気合を見せてくれるかを確認する。
「はい!はい!はい!はい!遅いよそのペースじゃ間に合わないぞ!」
「うげぇ…おぼぇ…んごふ…ばへぇ…」
現在ローシャ市まであと10kmと言った地点のワカイ町。テッサイは既にスタミナがエンプティ。故に速度はスロウリィ。トッシュはイカサマでまだまだヘルシー。
「はいあと5、4、3、2、1、0。ブー。タイムアッポウ」
「アッポウはリンゴだろうが…」
「オラ時間切れだからといって止まっていいとは言ってねぇぞ走れ走れー」
「ヂグショウ…なんでこいつ元気なんだよ…」
それは八卦龍拳の力。自然エネルギーである霊気を自らの物とする八卦の天の技…はできないので、自分の闘気を周辺に撒いて、それを経由して自然エネルギーを徴収する天劣化コピー技ではあるが、これにより自分の失った体力を霊気で補填することにより膨大な近いスタミナを発揮できるのだ。もちろん自分の闘気を撒く必要がある以上、自分の闘気がエンプティになれば徴収できなくなるためテッサイと同じ状況に陥るわけではあるが、それでも自分の闘気分スタミナに下駄を履かせることができるのでテッサイにマウントは絶対取れることには変わりないのだ。
「はい到着ー、記録は127分と47秒ー」
「ウヴォエェ…」
ゲロ吐きながら倒れるテッサイを引きずり、トッシュはギラビィと約束したローシャ市の待ち合わせ場所へ向かう。下見を兼ねてローシャ城跡での合流だ。あとは町をぶらついて、しっかり宿で休んで、明日はインサラウム村に向かう。…別にインサラウム村で待ち合わせでも構わなかったわけだが、なぜかギラビィからの指定でこの予定となったわけだ。
(まぁ田舎でずっと引きこもるのも退屈だよな…)
村には宇宙海賊から寝返ったオーラくんというパワーファイターも滞在してるから大丈夫という話だ。まぁギラビィがそういうならそうなのだろうし、あんな何もない田舎に宇宙海賊が来ることもないだろうし、とトッシュはのんびりテッサイを引きずっていたのだが、目的地目前、ギラビィの姿を確認した直後、その背筋にゾッと悪寒が走る。
(は…?なんで?なんで?なんで?なんで?ギラビィと一緒にいるのって…)
トッシュに背中を向けてギラビィと何やら話をしている存在。トッシュにとって厄介な相手。
「あ、トシさーん}
ギラビィはこちらを向いてるから当然トッシュの存在に気付く。そしてその背中を向けた存在も、こちらに視線を向ける。いや、その目は塞がれているのだが、なぜかその”女性”は周囲の状況を正しく察知することができる。見えないその目でこちらを確認し、彼女の口元が歪む。
「おーい、トシくーん」
「うわあああああああ!」
振り返り背を向けて逃げだそうとするトッシュは、振り返った直後に彼女にぶつかった。
「なんで逃げるのー?」
「ど…どうしてネネさんがこちらに…?」
「来ちゃった♪」
「トシさんせっかく会いに来たんですからお話でもしてあげましょうよー付き合ってたでしょー」
「あ、ギラビィくんひどいー、なんで過去形なのー」
トッシュの初めての彼女、ネネさん出現。トッシュの年上好きの趣味はここから始まったのかもしれない。