90話 奪還、テッサイの誇り②
・
・
・
「ねぇライゾウくん、あのままやってたら俺さっちゃんに勝てたかな?」
タイシャー流道場カチコミが終わり帰路に就くトッシュ。最終的にWIN-WINに持ち込むためあえて勝負には挑まなかったがやっぱりトッシュも男の子、もし続けていたら勝負はどうなっていたか、最終的な勝利ではなく目先の勝ち負けをはっきりさせておきたかったなという本音もある。トッシュの影に潜むライゾウくんに尋ねてみる。ライゾウくんのその実力は魔王軍ニンジャ軍団でも屈指、おそらく元軍団長のアーウィンすらも上回るどころか、魔王軍の中間管理職、魔神司令サガをも上回るとされている。というか確実に上回っているとトッシュは思っている。そんな実力者なら、トッシュとさっちゃんのパワーを比べ、正確なレビューをしてくれるはずだ。
「…トシさんが本気だったらトシさんの勝ちは間違いないですよ」
「それはそう、ただあのときの暗黒新陰流縛りを続けてたら?」
「危ういですな。トシさんの強みは剣と拳で相手の不意を突く二闘流、さらに闘気や八卦龍拳を加えた無数の手数で押し切る無闘流でしょう。いや、もちろんトシさんの剣腕はあの娘さんに劣ってはいませんしむしろ上回っていると思いますよ。ただ…」
言葉を濁すライゾウくんの言いたいことを、察したトッシュが続ける。
「とっさの判断で遅れが出る…かな」
「えぇ、責めにしろ受けにしろ、効果的な手段を思いついたとしてもそれが暗黒新陰流の技以外ならそこで手が止まります。そして剣による手段を考えてる間に叩かれてしまいましょう」
「それなー、いかんなーサボってたわけじゃないけどさー」
「トシさんがいたのは戦場です。勝負の勝ち負けではなく命の取り合いをやってたんです。勝つためにあらゆる手段を講じてきた者がそれを封じられたら十全の力は出せませんよ」
「咄嗟んときは剣捨てて殴りに行ってたからなー、そっちが相手の不意を突けるし。けど剣道三倍段…最初から無手で剣と戦うなら三倍の段数を持ってないと勝てないって言うし、不意打ちなのよね結局。道場の勝負じゃ反則負けになっちまうわー」
「で、あのテッサイくん…彼は勝てるとは思えませんがね」
「んー、まぁやるだけやるさー」
来週から冬休み、トッシュはテッサイの修行の場をギラビィの滞在するインサラウム村に決める。ギラビィもまた暗黒新陰流の段位を持つ剣の達人。その腕はトッシュに劣るかもしれないが、名選手が名コーチとは限らない。もしかしたらギラビィがいいアドバイスをくれるかもしれない。
・
・
・
その夜、トッシュはお風呂に入る。もう時間は23時を超えている。しかし汗もかいたので体を洗わないといけない。それに加えて埃っぽい骨もしっかり洗って清潔にする。埃が部屋に充満したら体に悪いから。
ライゾウくんの見守りはあくまで外にいる間だけである。トッシュが部屋に戻ったら彼の任務は終わる。もろちんトッシュがコンビニとかに行こうと外に出ようものならすかさずトッシュの影の中にいつの間にか入りこんでいるが、部屋の中なら彼の目は届かない。プライバシーに配慮したできるニンジャ、それがライゾウくんなのだ。
「さて、綺麗になったし作業するか。冬休みまでになんとか調整しないと」
お風呂から上がったトッシュは、ある作戦の準備に取り掛かる。トッシュの目の前には、トッシュがいた。もう1人のトッシュ、これは学校でやった人体骨格模型を使った分身作成。これからマーキングした人体骨格模型をいくつか地域のあちこちに潜ませ、宇宙海賊が来たら分身に意識を移して船奪ってカチコミというわけだ。しかも分身だからしくじっても問題なし。これがトッシュの対宇宙海賊パーフェクトプランぞ。
「まずはこれを学校に戻す。王都トーマスに海賊来たとき俺がローシャ市にいてすぐ行けなくても分身で対応可能ってわけよ。あとは本船にマーキングすれば空術で転移もできるかもね…空間ジャミングが問題だけど」
~翌週~
チーン ポーン マーン コーン チーン ポーン マーン コーン
冬休みの始まりを伝える終礼が響き渡る校舎内、学生たちは狂喜に踊り狂う!
「冬休みじゃーおらー!」
冬休み!夏以来の長期休暇!しかし高校3年生の連中は受験直前!最後の追い込みのため遊んでる暇はない。この雄叫びは予備校やらに籠って成績を上げたるという決意の雄叫び!そして黒森峰高校は王国一の偏差値を持つ進学校故、勉強に打ち込むのは3年だけではない。1年も2年も将来のことを考えてる頭の良い連中は油断せず日々の勉学に励むのだ。
…一部の例外を除いて。それは進学先が推薦で決まってる連中然り。そして進路が決まってる連中も然り。先のことを考えてないアウトロー然り。そして、内緒にしてるが魔王軍に既に就職してる奴も、然り。
トッシュ(魔界留学生の仮面を被る魔王軍工作員)「よし、ローシャ市に行くか。決戦は冬休み最終日、ローシャ城跡で」
テッサイ(今を生きる明日なきアウトロー)「おう…見てろよデカ美、絶対勝つからな。手加減すんなよ!」
さっちゃん(卒業後はタイシャー流道場第3支部に就職内定)「うん…そのかわりに手加減しないから私が勝ったら………………………」
しばらく黙り込むさっちゃん。ちょっとイラッとしたテッサイは、はよ言えやと促す。
「わ…私が勝ったら私と結婚してください!」
「………………………
………………………
………………………
………………………
………………………」
今度はテッサイが黙ってしまう。さっちゃんの顔は茹でたイイダコにように真っ赤だ。
「いいじゃん、本気出してもらいたいんなら賭けるものがないとね」
「おま…他人事だと思って…」
「勝つんだろ?」
「上等だよ…いいぜ俺が負けたらお前のお婿さんになってやるから本気出せよ!」
さっちゃん(将来はテッサイのお嫁さん)が満面の笑みでテッサイに応える。
「うん!」