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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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1話 魔王!人類に仇なす闇の支配者!

 魔王はデスバレーと呼ばれる人類未踏の大地の果て、さらにその最奥に本拠地を構える。人類の生息域から外れたこの死の大地で地上侵攻の軍備を着々と進めていた魔王は、かつての先代魔王を超える勢力を築いていた。


『魔王城・会議室』


「地風魔神アーウィン様参着!!!」


 魔王軍の一般魔族が魔王軍幹部の到着を告げる。魔王軍6大軍団長の一角、地風魔神アーウィン、大地のような力強さと風の様に自由な魂を持つアーウィンは、魔王軍幹部の中でも奔放に振舞う掴みどころのない男である。


「久しぶりじゃの、アーウィン」

「パルパレオスのジイさん。アンタはインドア派だから楽だよな」


 同じく魔王軍6大軍団長、魔神司教パルパレオス。前線での戦いは苦手とするが絶大な魔力を誇る魔術使い。その英知を駆使し新たな魔術や破壊兵器の開発に取り掛かる魔王軍の頭脳である。


「私が最後か?会議室でサガどのがお待ちだそうだ」

「おお…アンタも呼ばれおったか!」

「テメェはフォーゲル!!」


 アーウィンとパルパレオスの背後からやってきた男は魔王軍6大軍団長でも最強と名高い魔竜将軍フォーゲル。竜に連なる一族、『ドラグナー』の末裔であり、その名の通り竜の力を行使することができる。


「マジでフォーゲルまで呼んでやがるとは…ついに始まるみてぇだな」


 フォーゲルの背を目にアーウィンはついに地上侵攻の開始を実感した。フォーゲルを先頭に三人の魔神が会議室へと入室する。魔神指令サガが3人の到着を迎えた。


「ようこそ諸君…!」


 魔神指令サガ。魔王イクスから魔王軍を預かり地上侵攻の指揮を執る魔王軍の司令官である。その立場に恥じぬ力を身に着けるために日々鍛錬とプロテインを欠かさない豪傑である。


(相変わらずすげぇ筋肉してやがるなサガ様は)

(毎日腹筋を100回以上されとるからのう)

(ただの中間管理職ではないということか…)


 筋肉の鎧を纏い力強さを見せるサガを前に3人は畏まる。パワー溢れる魔神指令サガの他に、会議室にはもう一人の姿もあった。魔獣闘士クロホーン。漆黒の角を持つ半魔半獣の男は、腕を組み静かに会議の開始を待っていた。


「トッシュとイクスシェイドがまだみてぇだな。もう始めてもいいんじゃないですかねぇ?」

「何を言うかアーウィン。お前の横にいるのは誰だ?」

「ハッ!?」


 サガの言葉にアーウィンが真横へ視線を向けると、先ほどまで誰もいなかったその椅子に魔神参謀イクスシェイドがいつの間にか腰を掛けていた。


「な!?い、いつの間に!?」


 魔神参謀イクスシェイド。着用するローブは全身を覆い、その下は暗黒に包まれている。その顔はおろか、その声を聞いた者すらいないという。


「残るはトッシュか」

「そのことだが…諸君には詫びをせねばならない…!」


 突如詫びを入れるサガに魔神たちは驚く。


「オレは全戦力を集結させ地上を制圧するつもりだったが…魔王様が直接指令を下されてな…。すなわちトッシュ単独に地上攻撃の第一陣の任を下されたのだ…!」

「なっ…なんだってー!!?」


 ガガァ!と雷の轟音が会議室内に響く。外の雷雲から響く雷音は、まさしく魔神たちの胸に響く衝撃を表しているようだった。

 ・

 ・

 ・

「トッシュ様…人間を殺さないので?」

「おう。手向かう兵士どもも出来る限り殺さず逃げるように仕向けるのだ」


 魔人騎士トッシュ。魔王軍の一角、不死の軍団を預かる『人間』である。人間でありながら人間の敵となった…否、勇者の血を引きながら魔族に下った裏切り者。その出自故魔王軍にも疑いを向ける者は多いが、あからさまに魔王の贔屓を受けているためそれを指摘する者は一部の例外を除いていない。その例外が今、トッシュに嫌味を放つ。


「へっ、やっぱおまえは人間だなトッシュよぉ!同じ人間は殺したくないって正直に言えや!」


 この魔族の名はギャミ。不死の軍団においてトッシュを補佐する立場である上級魔族である。青い肌が魔族であることを一目で察知できるステレオタイプな魔族。頭は悪いが感情に正直な男だ。故にトッシュは彼を重用している。その正直さはトッシュへの反抗を隠さない。これが他の魔族のガス抜きにもなるのだ。


「フッ、やはり貴様ではわからんか」

「なにおう!」

「ギャミよ、王国民はどこに逃げると思う?」

「そりゃ周辺の国だろ?」


 王国に隣接する4つの国家がある。王国を攻め落とした今、次の敵はこの四方を取り囲む国々が相手だろう。トッシュはこれらをまとめて四国と呼ぶことにする。トッシュが王国民をあえて逃がしたのは次の作戦のためでもある。


「難民に逃げ込まれた四国はどうすると思う?」

「あぁ?そりゃお優しい人間様は助けるんじゃねぇの?」

「そう、それが狙いだ。」

「んなことしたら四国の兵が増えるじゃねぇか!」


 魔族ならばそうなのだろう、戦闘力に秀でた魔族という種族ならば。しかしトッシュたちが戦っているのは人間である。弱い者に高圧的で、強い者に臆病な救えない種族。そんな愚か者どもの行動をトッシュは説明する。


「人間はな、不平不満を言うくせに自ら動こうとはしない。奴らは自分を助けてくれた四国に文句を言うのさ。もっと食い物をよこせ、俺たちを守れってな」

「はえ~。バカな一族だな。助けてもらったなら恩返ししようとは思わんのかね」

「思うわけなかろう。で、やさしい国は飢えた難民に食事を提供して、結果自分たちの食い物がなくなる」

「あ!弱るわけだ!」

「そう。そして四国の中には難民を受け入れず弾圧する国もあるだろう。すると難民は受け入れてくれなかった国に対する不満を持つようになる」

「そしたら犯罪で食い物を得ようとするわけか。国の中が混乱してこれまた弱るな!」

「仮に俺たちが王国民を皆殺しにしたらどうだ?それこそ正義の名のもとに四国は纏まる。そうしたら面倒だろ?」

「そうかー。さすがは魔人騎士トッシュ。魔に染まりながらも人である貴様なら人間の行動を予想するのも容易いわけだ」


 王国の玉座に座りながらトッシュは地上攻略の策を練る。人類の愚かさを考慮した最善の策を。愚かだからこそ、自らの恩人である勇者の力を畏れ滅ぼし、そして復讐される人類。これを愚かと呼ばず何と言うか。


 『魔王軍』


 地上を制圧するべく魔王イクスを頂点に編成された闇の侵略者!その軍団は魔族の性質で分かれた6つの軍団で更正されている!6つの軍団とはすなわち!


 不死の軍団!!!死を超越した戦士たち!死なないから食事も不要のコストパフォーマンスに優れたリサイクル低燃費エコ軍団!


 百獣の軍団!!!あらゆる魔族や魔獣が属する魔王軍の主力!光を憎む執念が人類にその牙を向ける!


 竜王の軍団!!!最強の魔物ドラゴンの軍団!エサ代がかさむが最強の戦力を保持する魔王軍の切り札!


 ニンジャ軍団!!!雲の様に掴みどころのない影の軍団!裏工作や諜報に大活躍!


 イクズス正教会!!!魔王イクスを救世主と崇め魔族の救済を主命とする魔界最大の宗教!その邪なる奇跡で光を払う!


 シュタージ!!!魔王軍内部を監視する魔王直属の親衛隊!魔王に反抗の意を示せば魔神指令サガであろうと粛清する権限を持っている!


「そう…魔神指令サガよ。お前の力も命も全て魔王イクス様の物。生きることも死ぬこともお前には選ぶことはできぬ。魔王様の手となり足となりこの地上を魔王様へと献上するのだ…」


 会議室で言葉を交わす魔王軍を率いる魔神指令サガと、シュタージを率いる魔神参謀イクスシェイド。イクスシェイドはサガへと念を押す。ついに始まった魔王軍の攻撃をサガには滞りなく遂行してもらうために。


「貴様はそのために俺の部下に?…フン、望むところよ」

 ・

 ・

 ・

「さて、ギャミよ。国民が王国領内から逃げ出すようにすべての町を攻撃するぞ」

「とは言うものの、うちの兵力じゃそんな柔軟に攻撃はできんぜ?とりあえず近場の町から順番に行くか?」


 不死の軍団を構成するのはその名の通り死者たち。自ら判断する能力を持たぬ知恵なき傀儡である。おおざっぱな指令を与えれば躊躇なく遂行することができる長所を持つが、自ら判断し柔軟に臨機応変に対応というのができないという短所がある。指令を与える指揮官がいれば多少は融通できるが、それでも限度はある。


「それでかまわんさ。町を一つ一つ蹂躙すれば王国内は危険と判断して外へ逃げていく」

「じゃあ部隊を再編しねぇとな。スケルトンとかけっこうヒビや破損があるしパテや真鍮線で補修するとして…得物は王国首都にあるものをそのまま使うとして…」

「準備が整ったらすぐに行く。まだ王国民の心は完全に折れてはおらんからな…!まずはあの砦を落とす!」


 トッシュもまた、自らの得物を整備する。その銘を『スクラムクレイモア』という。まるでサーフボードのような巨大な剣は、よく見るといろんな部品がゴテゴテと纏わりついた取り回しの悪そうな一品だ。しかしこの剣は魔界の名工が作り上げた魔王軍屈指の剣である。その秘密のギミックはいずれ紹介するとしよう。

 ・

 ・

 ・

『王国最終防衛ライン・ラムザ砦』


 王国の生き残った戦力は王城の近くに存在するラムザ砦へと集結していた。本来ならば王城を守る最終防衛ラインなのだが、突如出現した魔王軍に王城を制圧されたため、最奥ではなく最善線となってしまった。そのため通常敵を迎え撃つ設備の整った正面ではなく、裏門で魔王軍を相手にしなければばらない。


「騎士団長!我が兵たちは幸い死者も少なくこの砦に十分な戦力が落ち延びています!すぐに体勢を整えこちらから打って出るべきです!防衛線となれば不利です!」

「無茶じゃ…。落ち延びた兵たちは四肢の欠損や胴体を抉られた者、頭髪を引き抜かれた者など凄惨な状況じゃ。幸いこの砦には十分な物資が備わっている。なんとか守りを固めて援軍を待つべきじゃと判断する」」


 ラムザ砦で、騎士と参謀長が騎士団長に上申する。騎士団長は双方の言い分を理解している。敵は疲れを知らない不死の軍団。長期戦となれば疲労が溜まるこちらが不利でありこのままでは敗色濃厚である。王国の援軍到着を警戒し全力で突撃をかましてくる魔王軍の攻撃を裏門でどれほど守り切れるだろうか。今なら魔王軍へのヘイトも十分溜まっており突撃を行う士気も十分だろう。突撃するならば連中のダメージが修復される前に実行するのが効果的だ。


 しかしこちらの身体的精神的ダメージや疲労も大きく、十分な突撃が慣行できるだろうか。いかに士気が高かろうと歩兵差は如何ともしがたい。敵は死を恐れぬ不死の軍団。こちらの突撃の初動で敵陣を突破できなければ途端に恐れが蔓延し、戦線は崩れ去るだろう。


 ここで騎士団長に電流が奔る…!圧倒的な閃き…!スーパーソニック…!なぜ魔王軍は王国の兵達をむざむざ逃がしたのか…!足を失った兵もいるのだ!なぜ逃げることができる?これは逃げたのではない…!逃がされたのだ!


「そうか…。奴らの目的は…」

「騎士団長…?」


 騎士団長は魔王軍の狙いに気付いた。兵士は死ねばそれで終わりだが生きていれば食事、治療、戦線復帰できるものはリハビリ、戦線に戻れない者には年金などの今後の生活の保障など数多の負担が生じる。魔王軍はいかに強兵であろうと数には劣る。不死の軍団という低燃費軍で攻撃を仕掛けてきたのもそう。あえて兵士を生かして逃がし、その対応をさせることで国力を疲弊させ、自らはエコという長所を生かし消耗を抑える目論見だ。故に敗走するなら追いはしない。その余裕が命取りだ!覚悟しろ魔王軍!と騎士団長は気合を込めた。


「ならば、打って出るのみ!」

 ・

 ・

 ・

「と、奴らは考えてるだろうからな。その出鼻を挫くために一気に進撃するぞ」

「わざとらしく逃がしたのも理由があったんですね。さすが軍団長だすごいな憧れるな」

「ケッ!ギラビィてめぇ魔族のくせにトッシュ(にんげん)にヘコヘコするんじゃねぇ!」


~魔王城・玉座の間~


「さて、イクスシェイドよ。トッシュの戦果はどうだ?」


 イクスシェイドに声をかけるのは魔王軍の頂点、闇の支配者とも呼ばれる魔王イクス。彼は自らのお気に入りであるトッシュの初戦の戦果をイクスシェイドに確認する。


「ハッ。少数のアンデッドで王国に電撃戦を仕掛け見事制圧。周辺へと逃亡した残党狩りの準備に取り掛かるところです」

「見事な手並みだ。やはり人間は良い。奴らの感情による力は我ら魔族には無い物。闇に落ちた人間は我ら魔族以上に魔なる者だ。そう思わんか?」

「私にとってトッシュはただの道具にすぎませんが…イクス様のお眼鏡にかなう戦士となったことは光栄に思います」

「フフフ…弟子に対して酷い物言いだ。私以上に貴様が気に入っていると思うのだがね…」

「…」

「まぁよい。一先ずトッシュの軍団の攻撃が落ち着いたら総攻撃と行こうじゃないか。それがトッシュの作戦だからな」

(イクス様はなぜトッシュの提案を受け入れたのだろうか…いや、イクス様がそう判断するならば我らはただ従うのみ。イクス様の思うままに我らは生きればよいのだ)


 13年前、あのスラムから拾われ魔神参謀イクスシェイドにより闇の騎士として育てられたトッシュは勇者に連なる光の血を引き、魔王に連なる闇の鍛錬を受けた正邪のサラブレッドである。与えられた闇の力は生まれ持った光の力と反発することでより出力を高め、さらに強い戦士へと育つ。イクスの目論見通り見事な魔界の戦士に育ったトッシュの晴れ舞台。その門出を祝うべくトッシュに地上侵攻の先陣を任せたのだ。

 ・

 ・

 ・

 騎士団長の読みは外れた。魔王軍は山のように不動に構え不死の肉盾ならぬ骨盾で王国残党や援軍を迎え撃つだろうと予測していたが、実際にはすっかりラムザ砦の後方に展開されてしまった。騎士団長は電撃的な速さで突撃の準備を整えていたが魔王軍不死の軍団はそれ以上に高速に展開したのだ。疲れを知らない死の軍は、24時間働ける。休養を要する生者では真似できない。


「くっ!まさか奴らがこうも早く攻めてくるとは!…ッ!!」


 砦を囲む不死の軍を屋上から睨む騎士団長の頭上に、大きな影が迫った。それは巨大な怪鳥の影。しかし肉は無く骨のみで構成されたその鳥の手羽先は隙間だらけであり、なぜ風を掴み宙を駆けることができるのか皆目見当がつかない。これも魔王軍の魔術によるものか。騎士たちは弓を持って迎撃するが、点で攻撃する矢では隙間だらけの骨怪鳥をうまく捉えられない。投石機を用いるも連発はできないためあっさり躱されてしまう。骨怪鳥はこれまたどういう仕組みで発しているかはわからないが奇声をあげ、騎士たちに告げる。


「キィエエエエ!我ハ魔神騎士とっしゅ!不死ノ軍団ヲ指揮スル軍団長ナリ!騎士団長じょにートノ一騎打チヲ望ム!時間ハ今カラ2時間後!一騎打チニ応ジルナラ砦カラ出テ来ルノダ!」

「団長!」

「むう。やはり奴らの狙いはそうか。正面には敵を配置していない。殲滅ではなく頭を潰して撤退させることが目的だろう」

「ならば一騎打ちに応じるふりをして奇襲すべきです。頭を失えば瓦解するのはむしろ奴らの方!知恵無き死者のみならば撃破も容易い!」

「…いや、それは奴も警戒しているだろう。おそらくこの砦と奴らの軍勢の間の中間地点で決行することになるだろうからな。あそこまでは矢も届かないし馬を用いても時間がかかる。逃げられて取り囲まれて袋にされるだけだな」

「ではいっそ撤退すべきでしょう。奴の狙いに間違いが無ければ追ってこないはず」

「俺を逃がす気は無いだろうな。指揮できる者は討たねば思いもよらぬ抵抗をされるかもしれんからな…。うん、よかろう!我は騎士団長ジョニー!メタルソルジャージョニーと人は呼ぶ!魔人騎士トッシュ!貴様との一騎打ちに応じよう!」

「キェエエエエ!承知シタ!砦ヨリ二時間後出テ来ルガイイ!護衛ヲ一人付ケルコトヲ許ス!」


 骨怪鳥は飛び去る。どよめく騎士たちに騎士団長ジョニーは告げる。


「私が奴を討ち取ってみせよう!奴が死ねば死者の軍は瓦解する!王国の存亡はここにあり!」

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