89話 残虐、いじめっ子④
正月から咳が止まりません
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「なんてこったい」
不発だった。道場を仕切るテッサイのパパ師範が言うには、テッサイはもう剣を捨てている、ということだった。道場にも顔を出さず町でぶらぶらと無駄な時間を過ごしている。タバコは吸ってないようだが、このままでは腕は鈍る一方。パパ師範はなんとかテッサイにもう一度剣を握って貰いたいと思っており、トッシュをテッサイの友達と思ってしまったのもあっていろいろ喋ってしまった。
「でもまぁ、俺もテッサイ…くんには再起してほしいっスから、頑張ってみるっスよ」
この言葉に嘘はない。魔王軍の優秀な人材になってもらうために矯正をしなければならないから。テッサイは木刀で怪人を追い払ったこともあるし、今身についている技術は利用している。それは喧嘩とか、そういう不埒なことにも、ではあるが、つまり何か理由があって拗ねているだけなのだろう。自分の剣腕を喧嘩で見せびらかしているのはつまり自己顕示欲承認欲求の塊。
(挫折かな…)
トッシュも暗黒新陰流、暗黒真拳を学ぶ経験で、挫折する門下生を目にしている。トッシュが挫折しなかったのは復讐という目標が太い芯となって心を強く支えてくれたから。
「あの、今晩道場貸してもらえますか?んで、テッサイが来たら友達が道場にいるって伝えてもらいたいんスけど…」
「うん…!ありがとう。ところで君の名前は?」
「えと…」
本名を告げてもテッサイは知らんと言って不審がるのは間違いないので、とりあえず昼間聞いたテッサイの取り巻きの名前を使う。さて、あとはテッサイが帰って来るのを待つだけだ。
「あれ?道場の明りが点いてる?なんだろう?」
道場の明りを不審がる人影。夜の19時と冬の寒空は既に真っ暗。
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帰宅したテッサイは、父の友達が来てるという言葉を鵜呑みにし道場にやってくる。当然、そこにいるのは知らない男である。
「誰だお前?」
道場の中央に立つのは、テッサイと同じ制服を着た同年代の男子。何のために来てるのかよくわからなかったが、その佇まいを見て並の剣士ではないことを悟る。
「はじめまして、トッシュくんだよ」
トッシュは自己紹介と同時に竹刀をテッサイに投げつける。
「トッシュ…?あぁ、クラウスと一緒に宇宙海賊を追い払った英雄さんじゃないか。なるほど、たしかに強そうだわ」
テッサイが竹刀を受け取りながら、トッシュのレビューをする。道場に来てないとはいえ喧嘩とかは現役、相手の強さがどんなもんか人目見ればだいたいわかる。ただ、面識もないのになぜここにいるのかが解せない。そんな心境を察したのか、トッシュは自分の前に向かってくるテッサイに事情を説明する。
「君のパパ上殿に頼まれてね、また剣士として真面目に練習するようになってほしいってさ。いいパパ上じゃあないか」
「あんたは親がいないんだったな。かわいそうに」
「ん?煽ってるつもりかな?」
「わかってるならいちいち確認する必要もないだろ?」
「なら教えてやる。その煽りは俺に効くぞ」
つい先日、マーサ先生の消息が絶たれたばかりだ。トッシュはめっちゃイライラする。
「ふん、なら俺に勝ってみろや。できるもんならな」
「言ったな~テッサイ。挫折したクソゴミ野郎が俺に勝てるわけねぇだろうが」
「テメェ、いっちょ前に俺を煽ったな」
そして二人は同時に叫ぶ。
「ぶっコロォす!」