89話 残虐、いじめっ子③
胆石はとても痛いです。こんど手術です
昼休み中、算数の先生が理科室の前を通りかかる。ふと、除いた理科汁の中の違和感に気付く。先生生活14年、この気付きで生徒の異変を察知しこれまで様々な問題を解決してきた先生の目ざとさは注意力3万パワーと評されるほどである。さて、その違和感…あるべきものが存在していない。理科室で生徒たちを後ろから見守る実物大人体骨格模型くんである。数万円はする代物だ、盗難されたのか悪戯なのか、とにかく一大事である。先生は生活主任の川端先生へ報告に向かった。
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チーン ポーン マーン コーン♪
昼休みの終了を伝えるチャイムが校内に響く。テッサイたちが屋上から退散するのを、トッシュこれに気付かない。というより完全に意識がない。
「トシさん、起きて」
ライゾウくんがトッシュの脳内を数回揺さぶって、トッシュはようやく目を覚ます。
「ハッ!テッサイは?」
「もう帰りましたよ」
「あー…退屈で寝てたわー。しゃーない、放課後にカチコミに行くか」
実際はトッシュは寝てたわけではなく、貴族クラスでの会議に出張してたわけだが、ライゾウくんにバレたら大目玉なので寝ていたことにして話を合わせる。
「危ないなぁ、トシさん。騎士団警察に捕まったらどうするんですか?」
「だいじょぶだいじょぶ、逃げるから」
騎士団警察。魔王国内にいくつか存在する騎士団の一つである。騎士団は以前の王国から存在した組織で魔王の征服後も変わらず国内外で運用されている。
一つ、王国を守護る聖なる盾、聖騎士団。王国貴族が騎士階級を取りまとめる王国の主力。国土防衛のために外国ににらみを効かせている。各貴族が持つ騎士団が集まって聖騎士団となる。
一つ、王の忠実なる剣、近衛騎士団。王への忠誠を誓う騎士階級のみで構成されており、彼らに命令を下せるのは王のみ。たとえ貴族の命令であろうとも個人の裁量で断る権限を持ち、この地位には並の腕の騎士では就くことはできない。
一つ、国内の治安と社会の安全を支える警察騎士団。貴族、騎士、平民すべての階級から構成される騎士団。警察学校を出ることで平民も幹部候補生として騎士部補から始めることができる。職場は国内なので装備は一番貧弱。
なので一番弱い警察騎士団相手ならとトッシュはよゆーをかましている。
「放課後…いや、あいつの家の道場に行って直接叩き潰してやんよ」
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時を同じくして、トッシュが理科室へと入室する。貴族クラスでの宇宙海賊退治のアイデアを取りまとめ、役目が終わったトッシュは自分が元居た場所へと向かう。人体骨格模型があった場所に直立すると、トッシュの肉が消滅し元の模型へと姿を戻していく。完全に骨模型に戻ったのち、算数の先生が生活主任の川端先生と、教頭先生を連れてやってきた。
「どういうことですかな?ちゃんとあるじゃないですか」
「あるぇー?」
「まぁ生徒が昼休みに悪戯でもしてたんでしょう。盗難ではなかっただけよしとしましょう。一応職員会議で生徒に注意するように皆に伝えますか」
後日、この人体骨格模型は完全に学校から姿を消すことになり、全校集会で生徒が怒られることになるのは別の話。
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~放課後~
トッシュは授業中にしっかり睡眠をしたのでとても覚醒状態である。体調は万全、このあとのガチンコに向けて気合を入れる。目指すはいじめっ子テッサイの実家、タイシャー流道場である。初めて王国に出現した最初の初代勇者マーレ・クラウドの子孫がその流派を現代まで伝えており、王国の無形文化財にも指名されている。そしてその至宝を未来へと残していく一族の嫡男が、あろうことかいじめだとはマジで最低とトッシュは許せないでいる。一流の技を持つなら、その性根を正し、魔王国に尽くす優秀な人材へと矯正するため、トッシュはタイシャー流の門を叩く。
「たのもー!」