88話 相談、次の戦に備えて③
「ヴァイスランドに不穏な動き、か」
巨大ロボバトルの後にマユ姐さんから垂れ込まれた情報を魔王イクスに伝えたジャスティス。魔王イクス周辺の風林火山四国の動きを察知し外交での解決に着手していた。
穏やかな気候を持つ魔王国西方、草原の国セラス。騎馬民族が暮らす風林火山の風を司る別名・風の国セラスにはかつての王国の文官たちを派遣し。
砂漠と深い峡谷に囲まれた魔王国南方、砂の国サンダイル。頑強な肉体を誇る聖戦士が守護る風林火山の山を司る別名・山の国サンダイルに派遣されるは、魔王軍でも選りすぐりのフィジカルを持つ精兵を率いる魔神指令サガ。
熱帯雨林に包まれた魔王国東方、密林の国シャンバラ。アマゾネスが支配する風林火山の林を司る別名・林の国シャンバラには、自然エネルギーである八卦を操るニンジャ軍団を。
そして氷の国ヴァイスランド。風林火山四国と新興の王国があるこの四国大陸で最強の武力を誇る、別名火の国ヴァイスランドには、魔王国最強の武、竜将フォーゲル率いる竜の一族が。
それぞれ戦争を未然に防ぐために展開していた。その中でも一番火種になりそうな国が、ヴァイスランドである。元々ヴァイスランドは四国大陸を統一する悲願を抱えていた。大陸中央部、現在の魔王国の位置を支配する大公爵が政争に敗れ、北へと逃れたのがその始まりであった。
追撃から逃れたその氷に覆われた大地は人が暮らすのは容易ではなかった。自然エネルギーたる霊気も乏しく故に繰らず者にも魔力は宿りづらく魔術も発達しておらず、限りある資源を奪いあうために科学による武力が発達した国。その武力の根幹は火。大地の奥深くから掘り出される燃える石、燃える水。暖を取り、鉄を叩き、敵を燃やす火を操ることから、氷の国でありながら火の国との別名を持つその国に、王子はいた。
「今こそ魔王に支配されたかつての王国を討つのです!」
王子はこれまで水面下で風林火山四国と接触を続けていたが、ジャスティス(大)亡き今、彼の目的、いや、生きがいはジャスティス(大)が遺した計画を遂行することのみである。最早王国がどうなろうが、それどこおろか自らの命すらも惜しくはない。ヴァイスランドが願うなら、最前線の一兵卒として竹やりで突撃だってしてみせる。なぜなら一番すぐ戦争してくれそうなのはヴァイスランドで、ヴァイスランドをけしかけるために王子はinしたのだ。
無論、竹やりなんて武器を持つ兵なぞ一兵もいない。魔術を持たないヴァイスランドの兵が持つ武器は、中型から大型の神器である。
鍛えた鉄により大量生産した神器で武装したヴァイスランドの軍団の火力は、並の防御では防ぐことはできない。無論、強大な魔力を持つ術士ならば、神器ガトリングや神器バルカン、神器マシンガンなどの銃撃を防ぐことはできよう。しかし、戦場に満遍なく展開する神器、一人が無事でも99人に被害が出てしまえば、それは敗戦である。神器は高い水準の攻撃力を、同等に広く展開できる。魔力を用いない古代の魔術、それはかつて科学と呼ばれた技術。ヴァイスランドは火の力で独自に科学を発達させた国なのだ。
「臨戦態勢だな」
ヴァイスランドの兵は国境付近に徐々に展開している。いかに魔王軍最強の竜将フォーゲルと言えども、この神器で武装した1万を超える軍団に勝てるだろうか。
「口火が切られたら私が単騎で突撃するしかないか。敵の真っただ中にいれば射線の都合神器を使いにくくもなるだろう。あとは連中の戦意が削がれればいいのだが」
「オ困リノヨウダネ」
「!?」
思考するフォーゲルの耳に届く不快な声。それは人間が発してるとは思えないあまりにも無機質な声だった。その声の主も、また異質だった。
「いつのまにそこにいた…貴様は何者だ」
気配なく侵入してきたにしてはあまりにも巨体。マントで詳細は確認できないが、2Mはあろうかという長身と、それ以上の違和感は人間一人よりもはるかにでかい腕。マントからはみでたその両腕は布で覆われ、まるでゴリラのようにでかく太い。その顔はフードで隠れており怪しさ満点だ。
「敵デハナイ…ト言ッテオコウ。連中ヲ放置スルト我モ不利益ヲ被ルノデナ」
不利益。その単語にフォーゲルは気付く。これはもしかして宇宙海賊か、と。奴らは王都の宝を狙ってきている。戦争になれば価値あるものが失われるのは間違いない。
(利用するだけ利用して、最後は処分すればいいか…)
その打算により、フォーゲルはそのゴリラマンを受け入れる。
「ならば協力を要請しよう。奴らの侵略を食い止める」
「ウム、マズハ作戦ヲ考エヨウデハナイカ」