88話 相談、次の戦に備えて①
鋼の巨人の戦闘が終わったが王都の混乱は収まらない。イクスシェイドの空間把握により怪人は掃討されているのはわかっているが、騎士や兵が民の安心のため見回りを続けている。避難した民の身元確認や帰宅手続き、家が壊された民の宿泊場所の手配など、王都が忙しくなるのはこれからである。
そんな喧噪を離れた場所で観察するジャスティス(小)。彼女は自分に近づく気配を察知する。特に気配を隠す様子もなく、そして馴染みのその気配。振り返らずとも誰だかよくわかる。
「…あら、こっち戻って来たの?」
「…早く伝えないといけないと思ってちょっと急いで来たんだけどねぇ…自分がボコボコにされてるの見るのは複雑だねぇ…」
その来訪者は、吐しゃ物で顔と服を汚し気絶したサンを放っているジャスティスの姿に身がすくむ。昔からこのお人は起こったら容赦がなかったから。昔ジャスティスと一緒に旅をしていたかつてのサンである、現在マユと名乗ってるアラサーのお姉さんは、とりあえず目的を伝える。
「緊急事態さね…大きいアンタがいなくなってさ、出資者がちょっと手が付けられなくなったんさね」
「出資者?」
「王国の王子さ、アンタを好いてたあの子の協力を取り付けてジャスティス(大)はいろいろやってたんさ。黒森峰高校の先生になったのも優秀な人材確保でね」
「おぉ…同じこと考えてたのね。で、王子が何をやってるって?」
「ジャスティス(大)の計画の前倒し…戦争だよ」
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ジャスティス(小から一生懸命逃げたトッシュは、地下下水道を辿り黒森峰高校の地下までようやく到着した。王都、いや王国全土の地下は王国にて排泄爵と呼ばれる貴族の領土である。その民の生活インフラを一手に担う排泄爵の権力は計り知れない。排泄爵の意向は王国最強と呼ばれる、王国のルールにおいては一番上の、官位12階で言うところの濃紫に位置する超爵すらも無視することは叶わないどころか、逆に超爵の方が気を遣うレベルである。本当の意味で最強の爵位とも言えよう。
そんな排泄爵が作った地下下水道はとても暮らしやすい街と言っても過言ではない。故に行き場のないゴロツキさんとか、借金取りから逃げた人とかもここで生活している。
「というわけで君らのコミュニティに彼を入れてくらないかな!?」
トッシュが彼らに王都から連れ出した怪人ゲギョを預けようと協力を仰ぐ。ネズミ怪人を地上で生活させたらそりゃあすぐ駆除されかねないし、もしくは貴重なな宇宙海賊の情報元として捕らえられてしまう。そうなってしまったら王都の宇宙海賊対策部からハブられてるトッシュはゲギョから情報を引き出すこともできなくなってしまう。
「ダンナァ、大丈夫なんですかい?こやつ王都であばれた噂の宇宙海賊って奴でしょ?」
「うお、もう情報届いてんのか~…いやまぁそうなんだけど、彼は脱走をしてきたんだよ。王都に捕まったらきっと解剖とかされちゃうしかわいそうだろ?」
「なら俺らがそいつを王都に売っちまうなんて考えねぇんですかい?」
「そんなことをしたら金を貰えるけど潜伏してる君たちの存在がバレちゃうよ?そしたら追いだされちゃうよ?いいの?」
「…わかりやしたよダンナ。ただ餌は自分で確保してもらいやすぜ」
「ありがと!いいなゲギョ、明日の…いやもう0時回ってるから今日か、今日の放課後に呼ぶからここで待ってろよ!」
「ゲギョー」
交渉成立。ゲギョはつい数時間前までドブネズミをやってたのだから餌探しなんて得意に決まってる。
「さて、宇宙海賊と戦うために仲間を集めないと。黒森峰には超爵の三男坊と…確か排泄爵の子供もいたからしっかり協力してもらわなきゃな」