87話 飛翔、音速の翼④
「アクセス!」
手首に装着したゼクセプラーを掲げ、到着した巨大ロボ・マッハウイング号に伊集院は搭乗する。内部には既にザグマーとランも乗り込んでいる。ランが掴むのはマッハウイング号の主機へと繋がるハンドル。ベースとなったゼクセリオンのザグマー一族の神通力を吸収する機構を転用し、この世界で一番馴染みのある力、魔力で動くように設計されている。常人の魔力であればすぐに干物になってしまうほどの力を賄うのは、ランに宿る無限の命の源。魔王グランガイザスのコア(通称ガイザスコア)である。
「ふぐぅ…!」
しかし、いかに無限の魔力を精製することができるガイザスコアであっても、ランの負担は絶大だった。確かに無限の魔力をストックしていようとも、一度に放出できる魔力には制限がある。著者の体内が膨大な尿酸をため込んでいても少量の尿酸しか放出できないのと同じように、出力には制限がある。
「これはきっつい…!」
「あっ、マッチングがうまくいかない!伊集院、一旦操縦を任せる!」
「早めに頼むよザグマー!」
現状操縦に回す余力が無いため、機体チェック担当の伊集院が操縦を担う。ランのバイタルチェック担当のザグマーがランとマッハウイング号のマッチング調整に取り掛かる。
「17号…強奪されたあげく下品に改造までしてくれちゃって!」
「伊集院!あれ新型!俺も知らんから気を付けよう!」
カズミの18号は先日の伊集院の本船脱出後に補充のために送り込まれた機体である。当然ザグマーも初見故、詳細は不明である。
「気を付けろたってよぅ…うお!」
17号のボディめがけて18号の貫き手!すんでのところで回避したが、もし当たっていたら貫通していたかもしれない。それほどまでに18号のお手手の指は尖っていた。
「伊集院!あれは17号と同じコンセプトみたい!体術がすごいぞ!」
「みたいね!あと17号じゃなくてマッハソニック号ね!」
ガッキンガッキン二体のロボの徒手空拳による格闘戦。お互い機体ダメージはあるが、やはり不利なのはマッハソニック号である。ランの魔力を十全に準備できないため出力に劣り、一度大破しゼクセリオンとの共食い整備故のつぎはぎによる装甲の脆さ。この不利を覆すにはランの力がどうしても必要である。
「うぐぐぐぐ…」
「ぶっつけ本番じゃやっぱ無理なのか!?」
限界以上に吸い取られないようにふんばり耐えるしかできないラン、出力をうまく調整できないか操作するのにいっぱいいっぱいなザグマー。3人のうち2人がこの状況では伊集院もどうしようもない。
「隙ありだよ!もいっかい貫き手!そのままランを貰っていくからね!」
カズミの18号が襲い掛かる!もうダメか!その時だ!ランの持つスクラムハルバードが分離し、ランが握るハンドルが生えてる本体部分に纏わりつく!
「なんだこれは!?」
急激にランの負担が軽くなる。余裕の出た出力は波動となり機体から放出される!その直撃を受け、18号は体勢を崩しドスン尻もちをつく。
「な…なんなのさ一体!」
カズミが見るのは17号…マッハウイング号の吠える姿。全身から噴き出すエネルギーの波動は、次第に背部に収束する。それはまるで光の翼のよう。ジェロニモ教の象徴、白き機体は背中に奔るエネルギーを反射し赤く赤く輝く。
「ピクシー…?」
「え?」
ザグマーは聞こえないピクシーの声。ランはピクシーの声を聴く。
『ラン、この魔力吸収炉は俺がコントロールする。お前は戦闘機動に集中しろ』
「…了解、任せたよ!」
ポカンとするザグマーに、ビィから通信が入る。ビィが王城内部で開くノート型のマイコンは、簡易司令部としての機能を有する。これがあればどこでも指令になれるのだ。
「ザグマー、魔力吸収炉の動作は安定している。ランが望むように魔力を引き出せる理想的な状態だ」
「おっけ、なら当初の予定通りのフォーメーションね!伊集院!」
「おうさ!機体チェックヨシ!ユーハブコントロール!」
「アイハブコントロール!動いてもよくて!?」
「バイタルチェック問題なし!好きにやれ!」
ゴゴゴゴゴ!ゆっくり腰を落とし、構えるマッハウイング号。
「いや、今のこいつはマッハウイング号ではない!パワーアップしたこの機体の名前をつけれやれラン!」
伊集院の提案に、ランはすぐに応える。
「マッハウイング号レッドスペシャル!飛ぶぞおおああぁぁ!」
高速で前進する赤く輝くマッハウイング号レッドスペシャル!そのまま17号を掴み、空へと飛翔する!