87話 飛翔、音速の翼③
ゲギョー!ゲギョー!王都に湧いた大量のドブネズミ怪人たちの悲鳴があちこちに響く。伊集院や魔王軍の魔族兵や人間の冒険者たちの反撃により指導者なき有象無象な下っ端怪人たちはどんどん劣勢に追い込まれていく・そして今、ここに一匹のドブネズミ怪人もまた、追手に負われて袋小路へと追い詰められようとしていた。
「ゲギョー!このままじゃ殺されるゲギョー!…行き止まりゲギョ!」
「おい」
追い詰められ、行き止まりに絶望する怪人を呼ぶ声。直後、その首根っこを掴む強靭な腕が、怪人を地べたに押し付けた。
「ゲーギョー!」
「助けてやるから死にたくなければ静かにしろ」
「ギョ?」
自信を地面に押さえつけるその男に逆らうこともできず、言われるがまま大人しくなる怪人。その大人しさ、まるで蛇に巻き付かれたドブネズミの如く。
「なにィ!行き止まりなのに野郎消えやがった!」
「くそ!どこに行った!」
「おい!いないなら次いくぞ次!」
バタバタと走っていく追手。不思議なことに、彼らの視界に、自分はモロ入っているのになぜ気付かないのか。これがわからない。
「行ったか。おいお前、俺はお前の恩人だから感謝しろよ」
「ゲギョゲギョ。ありがたいゲギョ。恩人さん…はなんて名前ゲギョ?」
「おう、俺はトッシュ。まお…黒森峰高校の一年生よ」
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「CBX斬りィ!」
伊集院の必殺技!愛車CBX1000を変形させた大炎神ソードの刀身部分を回転するチェーンが怪人をくちゃくちゃにしていく!あらかた怪人が片付いたところで、ビィから通信が入る。
「そろそろ来るかもしれないから用心してください。準備はいいですか?」
「うん、戦況は決まったようなものだろう。準備をしておくよ。ランは?」
「ザグマーさんから申し送りも完了しています。あとはぶっつけ本番ですね」
伊集院の右手首に装着している機械からの通信。この機械は通信機能だけでなく他の機能も仕込まれているが、そのうちの一つ、アクセス機能。これが今回の秘密兵器である。ザグマーは怪人は時間稼ぎ、カズミの本命が来るだろうとの予測を立てている。このアクセス機能で非常事態に対応するべく伊集院は心構えをしっかりとしておく。
「レーダーに反応!来る!」
ビィは王城の中で持ち運び用のマイコンを開き、簡易司令部として機能している。その司令部の機能の一つ、レーダーに大きめの機影が映る。その速度はおよそ生物が出せる速度を軽く上回る。間違いなくカズミの本命と判断。その進路はランに向かっているのだから確定である。
「ラン!準備よろ!行くぞ!アクセス!」
ランと一緒に外にいるザグマーが右腕を掲げ、叫んだ。そのアクセスの声に反応し、ザグマーとランの前に巨人が降り立つ!その巨人の姿に吸い込まれるザグマーとラン。巨人の姿を確認し、伊集院も右腕を掲げ、叫ぶ。
「アクセス!」
これが伊集院とザグマーの右腕に装着されたブレスレッド型アイテム「ゼクセプター」の力!音速の翼マッハソニック号への搭乗キーになるのだ!
ズゴゴゴ…
マッハソニック号の姿を確認し、敵機は速度を緩め、マッハソニック号の前にゆっくりと降りてくる。
「ザグマーかい?全く邪魔をしてくれるねぇ!中にいるランくんを寄越しな!」
「お生憎様、このランくんはウチに必須の人材でね。絶対に寄越さないから!」
相対する二体の巨人。魔王軍の兵士たちもその巨体に圧倒されるしかない。
「これが勇者の力。どうだい、アレと戦えるかい?」
魔王イクスはその巨体を指し、先ほどの兵に尋ねる。
「…真っ向勝負は…難しそうですね…」
「恐怖を知ることは大事だ。勇者の戦いをしっかり見ると良い」
「…」
魔王イクスは、いい機会だと思っている。勇者の力、話を聞くだけではその脅威を実感できない者も少なくないのだから。