86話 秘宝、無限の心臓②
「一先ず完成したけども…」
ザグマー市の新たな守護神、その名をアコースティックマッハソニックロボ。通称マッハソニックと呼ばれるこの子は、宇宙海賊の新型ロボと太古より伝わる伝説のロボを組み合わせたまったく新しいロボである。ザグマー市民の協力の元出来あがったこのロボは宇宙海賊との戦いにおいて切り札になる存在なのは間違いない…が、今のままでは切り札足り得ない。そう、動力である。
伊集院が操っていたマッハ丸は、搭載した1047 cm3 空冷4ストロークDOHC4バルブ直列6気筒エンジンを伊集院の魔力(から生み出すガソリン)を糧に動いていたが、その魔力が尽きた今となってはもはやただの鉄の塊である。一方神の器として存在していたゼクセリオンもまた、中に取り込んだザグマー一族の命を糧に動いていた。こちらは動かすことはできるかもしれないが、ザグマーの命と引き換えである。こういうのは動かしている最中、ここだって場面で命が限界を迎えて動けなくなるものである。
「ならアレを使うといいんじゃないかな?ほら…」
最近マッハソニック建造の助っ人に来てくれた少年が提案する。この少年、伊達に天才と呼ばれているわけではない。まるでパンが味噌汁と吸い取るかのようにぐんぐんと工学知識を吸収し、あっというまに建造プロジェクトの一級主任にまで上り詰めたのだ。そんな彼…勇者の子達の一人、ビィが提案するそれは…。
「むむむ…確かにアレならばエネルギーは無限に続くか」
「ほほう…機械と生体パーツの融合…私、興味あります」
伊集院とザグマーはこの提案を検討する。これが可能ならばエネルギー問題は一発で解決だ。しかし、生体パーツ…生命体を機会に組み込むという倫理の問題がある。
「なら、どっちを使う?」
ビィが確認する。『ソレ』は現状、二つ存在する。一つは今も尚一人の人間として生きている。もう一つは邪悪な意思を内包し、封印されている。遠慮なく機械に組み込むなら後者の方だが、マッハソニックがまたゼクセリオンのように邪悪に染まるかもしれない。しかし前者は、一人の人間だ。組み込むのではなく、パイロットとしての搭乗をしてもらえるならば、人権においても問題はない。
「決まりだね。じゃあ行こうか、王都トーマへ」
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「あぁんもう!時術ぜんっぜん使えねー!もう理論が科学を超えてオカルトめいてるわ!」
この肉体の前の持ち主が使っていた時術。時を止めたり遡ったりいろいろ便利なこの術を、今の主であるランは使えるように研究を進めるが一切理解できない。肉体に刻まれた記憶を解読するのだが、読むことはできても理解ができない。世の中には言葉が通じても話が通じない人間がいるのだ、さもありなんではあるが。
「もう遅いな。寝るか…!?」
時刻は午前2時前。ランは消灯し、ベッドへ向かおうと後ろを向く。その時、彼は異質な気配を感じた。それは部屋の入口の向こうから感じる。イクスシェイドが空術バリバリに警戒しているこの王城内部に侵入者がいることが信じられない。しかし今王国を襲う宇宙からの侵略者、未知のテクノロジーを持つ宇宙海賊ネオデビルクロスならば、ランの常識が通じない相手な可能性も十分にある。
コンコン。コンコン。
入り口を叩く音。ランは、いつも身近に置いているスクラムハルバードに手を伸ばす。スクラムハルバードの中に宿る意思、三騎士筆頭のピクシーもランに最大限の警戒を呼び掛ける。おそらく相手は…強者だ、と。
(声を上げるべきか…魔王イクス様やイクスシェイドが来るならば心強いけども…)
よしフクロにしてしまおう。ランは大声で助けを…求め…られない…!声が…出ない…!それだけではない!体も痺れてきた!居ても立っても居られなずその場に膝を付くラン。呼吸も荒くなる。
ガチャリ。鍵をかけているはずの扉が開いた。
「あら、かわいい坊やだこと。これがグランガイザスなのね」