85話 矛盾、心の中身④
テロリストの隊長とジャスティスの決戦が始まるその直前、トッシュを抱くライゾウ君が一言、ジャスティスに声掛ける。
「ジャスティスさん、さっきの爆発について後ほどお伝えしたいことがありますので…」
ライゾウくんが見ていた宇宙海賊の幹部の自爆と、巻き込まれて消えた元ジャスティス…邪聖拳ネクロマンサーことマーサ先生について。これを伝えるのはトッシュが気を失っている今しかない。早めの決着を願って、ライゾウはそう言った。
「え?後で?今でいいよ」
ジャスティスがまるでそこに敵などいないかのように無防備にライゾウくんいる背後へと顔を向ける。がら空きになる背中。この隙を見逃す隊長ではない。一体いつ抜いたのか、左手にもオートマチックの拳銃を握りしめ、右手のリボルバーを合わせて秒間16発の銃弾を放つ必殺の16連射!
カンカンカン、と乾いた音が響く。ジャスティスの目前で、何かに当たったかのように弾かれる銃弾。その刹那の後、弾かれた銃弾が全弾隊長の全身を貫く。腕を、足を、耳を、尻を、股間を、その他もろもろ。しかし頭や胸、腹といった急所には当たっていない。ジャスティスはその闘気を物質化し透明な壁を形成していたのだ。あとはそこに当たった銃弾に自らの闘気をコーティングし操作、軌道を弄り隊長に当てるだけ。ジャスティスにとって簡単な仕事である。
「…!」
無言で倒れる隊長。ジャスティスは隊長の存在を気にも留めず、ライゾウくんに改めて問う。
「今話してくれる?」
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「ハァ!ハァ!なんなんだよあの幼女は!めっちゃ強いじゃねぇかぁ!」
先ほどジャスティスをトイレに連れて行ってちっちゃなお口に咥えさせてやろうと思っていたロリコンテロリスト。しかし相手が悪かった。その幼女は勇者ジャスティス。その剛腕は、人体をいともたやすく折り曲げる。ボキっと股間に生えるペニスの骨を折られ、兵士はそのまま逃げ出した。ズボンを脱いだまま、プラプラと硬度を失ったイチモツをぶら下げながら逃げ出したその先に、ばったり一人の少女と遭遇する。
「え…!?きゃあ!」
「うおお美少女!こうなったら骨が折れてても関係ねぇ!硬さを持て我が息子ォ!」
メガネがかわいいその女子、ミズキを押し倒そうと襲い掛かるその兵士は…そこで自らの意識が絶たれたことに気付かない。でっかい大剣がとんできて兵士の意識を絶ったのだ。
「ハァ…ハァ…」
「…クラウス」
ミズキを救ったのは、以前ミズキを嵌めてそのままハメた憎い男。ミズキの処女を無理矢理奪ったレイピスト。今の黒森峰高校で一番の爵位、超爵を持つ一族の子息。そんな男が、ミズキを助けていた。良く見るとその全身は血に汚れている。返り血だろうか。否、今もじわっと赤い模様が広がっているのがわかる。
「ひどい傷…!」
テロリスト兵との戦いを続け、蓄積していったダメージがクラウスの肉体を蝕む。今の投擲が最後の力だったのだろう、クラウスはその場で倒れこむ。ミズキは反射的にクラウスに駆け寄る。自分でもわからない、クラウスには死んでほしいと思っていたのに。
「なんで助けたのよ…?」
「…貴族だからな。…民を自由にしていいのは貴族だけだ…俺は俺の財産を守っただけだ…」
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「…その爆発で二人は消えたのね。なるほど、あの女の気配が察知できないわ」
ジャスティスが気配探知を行う。この学校内の存在するはずのマーサ先生の気配は確かにない。ついでにそのまま気配探知から闘気ソナーに切り替える。どうやらテロリスト兵もジャスティスが逃がした一匹も倒され、全滅のようだ。
「…トッシュを連れて魔王城に戻るわ。空間ジャミングはまだ活きてるから念話もできないし、ライゾウくん。貴方この学校を囲んでる騎士団を呼んで来て。テロリストは全滅したわ」
「わかりました。そこのモブじゃないテロリスト二人はどうするので?」
「一緒に持って帰るわ。じゃ後はお願いね」
ジャスティスはライゾウくんの話を聞いた後からライゾウくんに顔を見せない。ジャスティスの胸中にある、少しだけわかり合えた、マーサ先生…オリジナルの自分。
人類の復讐と、息子トッシュへの愛。矛盾する感情の間で揺れ動いた彼女の心は、最後の瞬間、愛に満ちていたのだろう。そうでなければ宇宙海賊など放置するはずだ。実際そう言っていた彼女は、息子を守るために宇宙海賊と共に散った。愛の盾が、復讐の矛を折った。今ジャスティスの胸中にあるのは、自分が唯一のジャスティスになったという喜びではない。同じ息子を愛する母として、その意思を継ぐこと。今ジャスティスの迷いは消えた。
愛に、すべてを。