85話 矛盾、心の中身③
(ちっ、やる気満々マンじゃあないか。しゃーない、切り替えていこう)
トッシュは腕に刺さっていたナイフを構える。トッシュの目論見通り、急所狙いで来てくれたらカウンターを合わせやすいのだが…
「うおっ!」
襲撃者のナイフはトッシュの腕を狙ってきた。ギリギリでナイフを合わせて受け止めることができたが、さらに続けて襲撃者は腕を集中的に狙ってくる。トッシュの目論見は完全に外れたわけである。
(どうせ急所を狙わせたいのだろう。多少の傷は再生するからと、わざわざ見せつける理由はそれくらいなものだ。…しかしな、人間、血を流しすぎれば死ぬのだよ。もし血液までも作り出すことができたとしても、リソールは有限だろう。確実に勝つには相手の嫌がることをすればいいのだハハハ)
トッシュの闘気はすっからかん、大気中の闘気を回収するのも今はまずい。いつ不意打ちが来るかわからない以上闘気をソナーのように張り巡らせておく必要があるためだ。つまりトッシュに残された戦術は少ない。
キン、キン、キン、ブスリ。
キン、キン、サクッ。
キン、キン、キン、キン、チクッ。
流石プロ、トッシュの隙を突いて着実にナイフを当ててくる。得意の無刀取りも、小さなナイフ相手故勝手が違ってうまく合わせることができない。どちらかというと剣闘よりも拳闘に近い戦い方だ。さらにはいつも間にかつま先やら肘やらからも小さな刃も飛び出している。全身凶器、当たると痛いぞ。
ヒュッ!襲撃者の軽めのトゥーキックがトッシュのふくらはぎを襲う。先端の小さな刃がトッシュの肉を裂き、血が噴き出す。
「あいたっ!」
膝をつくトッシュ。襲撃者は勝利を確信し、トッシュの眼球に向かってナイフを繰り出す。これが刺されば目を抉り、さらにその先の頭蓋までも刃が届く致命の一撃!
肉を切らせて、骨を断つ。トッシュの目論見が外れた今、これしかトッシュにとれる戦術はなかった。
ヒュッ!襲撃者のナイフが切る…空を。
「…は?」
これが最後の一撃となると確信したからこその隙。先ほどの乱撃の最中にこれをやってもすぐに次の刺突斬撃が来るだけだが、これが終わりだと思っていたが故に、次のナイフは来なかった。
「ライジングスマッシュ!」
膝を付いた状態から、トッシュが一気に立ち上がる勢いそのままに、拳を振り上げる!昇る太陽の一撃、暗黒真拳ライジングスマッシュが襲撃者の顎を打ち砕く!
「グハァー!」
カランカランと乾いた音を立て落ちるナイフ。直後にドサっと80kgほどの人体が勢いよく床に叩きつけられる音。
からくりは、トッシュの八卦龍拳・雷。これにより襲撃者の体内の電気信号を狂わせてナイフを見当違いの場所に向かわせたというわけだ。
「ハァ、ハァ…、おい、アンタさっきのでけぇ爆発はなんだ…?」
「…知らん。隊長に聞け…」
襲撃者の首がカクっと力を失い傾く。気を失ったようだ。このまま放置しても意識が戻ったらやばそうだしとりま四肢の骨を折っとくかと襲撃者へ歩み寄るトッシュは、襲撃者の向こう側に見知った姿を見て驚く。
「あれ?ジャスティス?」
「トッシュ!」
あちらも同じようで、急いでこっちに向かってくる肉体年齢11歳の少女。はたから見たらまるで妹のような可愛らしい姿だ。そんな姿にほほえましさを感じていたトッシュは、しかしちゃんと気付いていた。
「危ない!」
ジャスティスが慌てて叫ぶ。でも大丈夫。ちゃんと闘気を展開しててよかった。背後からトッシュの後頭部に向けて放たれる銃弾を、最小の動きで躱す。
「お?避けた?」
「おう、避けたぞ」
振り返り、その姿を確認するトッシュ。無精髭をたくわえた、不衛生なしかし貫禄のあるおっさんの顔。顔に入っているおっきな傷が厳つさを演出している。
「まさか、剃刀シュナイダーをタイマンでやっちまうなんてなぁ。他のはどうでもいいが、そいつだけは大事だから返してもらうぜ」
「待ちなさい!」
そしてジャスティスがトッシュを庇う様に新たな襲撃者の前にやってきた。
「小さいお嬢ちゃん、危ないからどきな。俺は偏差値とシュナイダーがあれば帰るからよ」
「そうはいかないわ!こんな大騒ぎおこしてただで済むと思わないことね!」
「あー、…やばい、意識が…」
盛り上がるジャスティスと新たな襲撃者をよそにふらつくトッシュを、がっしりとした体が支える。
「トシさん、大丈夫で?」
「ライソウくんか…あとは任せた…」
トッシュが気を失ったのを確認し、ジャスティスが新たな襲撃者を問い詰める。
「あんたら宇宙海賊でしょ。さっきの爆発はなに?何しにここに来たの?」
「はっはっは、一つだけ教えてやる。俺たちは宇宙傭兵・静音秒殺隊。俺はその隊長ってわけよ。すごいだろ?」
「はぁ、仕方ないわね。アンタを叩きのめしていろいろ吐き出してもらうわよ」