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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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85話 矛盾、心の中身②

 ズオーがブラデディⅡを両腕に装着し、爆発するまでの数分間。ズオーの人生最後の時間。彼の思考は、心は一つの使命で埋め尽くされていた。


 目の前にいる、人類の大敵を滅ぼす。


 マーサ先生の一撃離脱(ヒット&ラン)にその機体を削られながら、マーサ先生の思考を盗聴する。その漆黒の意思と、それを生み出す凄惨な過去の事実。ズオーのスーパーCPUもまた、ガリガリ処理能力を削られる。


 マーサ先生が受けてきた非人道的な研究、プロジェクト・ジャスティス。この超人能力を量産するために繰り返された、強制性交。守護ってきた王国による裏切りの仕打ち。彼女はその復讐に心を塗りつぶされている…。しかし、ズオーはたった一つ、迂闊に除いたパンドラの箱の中に残された一つの光の存在を掴んでいた。


 生きているとは思っていなかった、長男。プロジェクト・ジャスティスで孕まされたジャスティス・チルドレンたちの種違いの兄。愛していた男との間に生まれた過去の愛の証明。その後、彼女の元から去った男に対する愛想は尽きたが、長男への愛情はしっかりと残っている。


 今、この女の心は揺れている。悪の思考を持つ人類を間引き、正しい人類だけの王国を作る邪悪なる計画と…長男であるトッシュが望むこの世界を残すか。その揺れを生み出す存在、トッシュこそ人類を守護る鍵だと、ズオーは確信した。


 ズオーの両腕に装着されたこのブラッティⅡは防御のためのものであり、そして勝機を掴むための手だ。とうとう限界を迎え、崩壊するブラッディⅡ。その刹那、ブラッディⅡ内部の小型プラズマ・リアクターを破裂させ、発光させる。その光に目が眩み、怯んだその瞬間。勝利の鍵を使う。


「女、お前の息子があそこにいるんだな」


 勝利の鍵の効果は絶大だ。息子を守るべく、彼女は守備を捨て全力でズオーを貫く。その無防備を狙い、ズオーは自爆装置を起動する。1兆度の兆高熱火球がズオーの周囲を焼き尽くす。この高熱空間で生存できる生命体は最早クマムシくらいだろう。


 …その一部始終を、学園の屋上で見守っていた人影があった。


「邪聖拳ネクロマンサー…、いやトッシュさんのお母さんが…」


 魔王軍ニンジャ軍団上忍ライゾウくんである。彼(彼女?)は怪しげな気配を察知し、先んじて屋上にて気配を消し潜伏していた。あの鉄の怪物を暗殺しようと隙を伺っていたその時に、マーサ先生がやってきたのだ。


「…報告は後、か。校舎内のテロリストを排除せねば」


 ライゾウくんもテロリスト制圧に乗り出す。

 ・

 ・

 ・

「殺せェ!」


 ダダダダ!バキューン!バキューン!ペーゥと激しく唸る銃撃音。トッシュが潜むアスファルトの壁をガリガリ削る中型神器マシンガン小型神器ピストルの砲火。その一発一発が、トッシュが耐えられる威力を遥かに超えていたのだ。そう、超えていたのだ。が、お忘れではないだろうか。彼が勇者ジャスティスの子トッシュがであるということを。


 射撃が止んだ瞬間飛び出すトッシュ。その肩の細胞をちょろっと一発の銃弾が抉り取った!トッシュはいつも肝心なとこでポカする子なのだ。そんなんだから童貞を失う前に触手に後ろの処女を破られたりしちゃうドジっ子なのである。


「いってぇー!」

「ヘッヘッヘ、土人が!罠とも知らず飛び出しやがって!」


 廊下に無様に倒れるトッシュ。その隙を狙って射線が一斉に向けられる。


「クッソがぁー!」


 そのとき、トッシュのオリジナル八卦龍拳・烈が炸裂する。トッシュを狙っていたテロリストたちの胎内には既にトッシュの闘気が侵入していたのだ。大気に混ぜ込んだ自身の闘気を取り込んだ相手の気に作用させ、我がものとする技。八卦龍拳・天と同等の効果を持つトッシュのオリジナルである。


 八卦龍拳・烈は、事前に闘気を仕込みをすることなく相手の闘気を我がものとするやべー技八卦龍拳・天の劣化コピー…なのだが、今回に限り烈は天を上回る。黒森峰高校への侵略者たちは闘気や魔力を持たない不器用な子達である。操る操らない以前に無いのだから、我がものとすることはできない。しかし闘気は生命力を練り上げ作り出すエネルギーであり、対となる魔力は精神力から練り上げるエネルギーだ。


 生命力を持たない生物はいない。持たないのならばもはやアンデッドである。トッシュは兵たちの肉体に挿入した自らの闘気を肉体に作用させ、生命力を根こそぎ闘気に練り上げ、奪う。一気にスルメの如く干からびる兵士たち。トッシュは奪った闘気を活用し、暗黒真拳・集気法により肩を治療せしめた。


「ふう、今の集気法で貰った気全部使っちまうとは…。相変わらず燃費の悪い技だこと。それにしても…不便だ」


 連中は闘気を持たない故に、トッシュの気配探知にもひっかからないから探すのも一苦労だ。今もうっかりばったり遭遇したおかげでご覧の有様である。どれだけ気配探知に頼っていたかを思い知る。ライゾウくんにいろいろ潜伏技術を学ぼうかと思い知るトッシュである。というよりそうしないといけない。なぜなら…。


「うお!」


 またもトッシュの気配外からの襲撃!背後からナイフによる刺殺攻撃を、なんとかギリギリで回避できた。


「シッ!」


 襲撃者は冷静に連続で刺突を繰り返す!態勢を崩しているトッシュは回避でいっぱいいっぱいだ。このままではいずれ致命的な一撃を受けてしまうと悟ったトッシュは損切りを図る。致命傷を受ける前にライフで受ける!


 ドッ!襲撃者のナイフがトッシュの腕に刺さる。襲撃者は冷静にナイフを引き抜き次の刺突に移行しようとするが…。


「!?」


 バチィ!八卦龍拳・雷!トッシュは闘気を電気に変換し襲撃者に浴びせる!接触すれば狙いを定めるまでもなく必中!なんて冷静で的確な判断力化と自画自賛し、トッシュはその感電の隙を狙いマグナムジャブを襲撃者の鼻っ柱に当てる。


「クッ!」


 鼻血がブーしながら後退する襲撃者は、しかし冷静に次のナイフを構える。これはリロードテクニックの亜種「ニューヨークリロード」の応用である。これはメインとは別にバックアップの銃器を常に携行し、一挺目の銃が弾切れ・ジャム等を起こしたら、即座に二挺目の銃を抜くというものだ。これを刃物に応用し、一本目を失ってもすぐに二本目を使うことで相手に隙を与えない技術である。大昔のサムライも刀を腰に二本携え、万が一の時はニューヨークリロードをしていたものだ。


 一方、トッシュは迷う。今の襲撃にギリギリで気付けたのは先ほど大気に混ぜた闘気が不自然な振動を起こしたためだ。その振動は何物かが高速で接近している波。すかさず背後を確認しギリギリで回避できた。まぁ万が一喰らったとしても即死でないかぎりすかさず集気法で治癒はできたが。


 今トッシュはその治癒で迷っている。前腕に刺さるナイフは確かに重症だが、今集気法してもいいものか。襲撃者の体内に大気中のトッシュの闘気が入りきるまで時間がかかる。今自分の闘気を集気法に回すか、襲撃者への攻撃に回すか。


(治癒した場合、大気の闘気が奴の内部に入り切るまで闘気なしで切り抜ける必要がある。一方腕の傷を抑えて奴を気絶でもさせれば直接闘気を入れて奪うことができる)


 前者は奴が強い場合ノーダメで切り抜けることができるだろうか。後者は奴が強い場合秒殺できるだろうか。どっちにしろ強敵なら厄介だということだ。


 襲撃者はトッシュの電撃を警戒したのだろう。ナイフを構えてはいるが攻めあぐねている。トッシュは決めた。前者に。


「!?」


 キラリンとトッシュの腕の傷が一瞬で治癒した現象に襲撃者は驚きを隠せない。これはブラフにもなるわけだ。貴様の攻撃など一瞬で治せるもんね、と。永久でなくとも、即死攻撃でもない限りは回復をすることができると。こうすることによって相手の攻撃のターゲットを絞らせる。胸か、頭か、首か。致命傷を狙える部分を。これで対策がしやすくなるというものだ。


「…驚いたな、本当に妖術が使えるとは。怪物め」

「アンタら本当に使えないんだな、可哀そうに」


 異なる常識を持つ二人の真っ向勝負が今始まる。

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