84話 機人、ズオー②
「おい、何の騒ぎだ!?」
ガラっと扉を開いた兵士の片足を、低く身構えていたトッシュが両腕で取り、足首を脇腹に押し付けるようにクラッチする。その体勢から自ら素早く内側にきりもみ状態で倒れこみ、回転力で兵士を投げ飛ばす!あらかじめ開けていた廊下の窓から、兵士は重力に逆らえず自由落下、3階の高さから落ちるその命運は言わずもがな。
「何だ…!?」
そのドタバタを目撃していた教室内の兵士の一人にすかさずナイフを投擲!吐いた言葉を押し込むかのように喉元に突き刺さるナイフが兵士の命を狩る、と同時にトッシュは教室に飛び込む。教卓に着地する間に教室内を確認、教室の後ろの小さい黒板とかロッカーがあるとこに3人目の兵士を確認、教卓を蹴り3人目の兵士へ飛びかかる。
「うおぁ!」
3人目の兵士はトッシュを射殺しようと銃を構えるが、遅かった。銃を撃つまでに抜き、構え、引き金を引くという三動作を要する。トッシュの超速の前には致命的な遅さだ。構え狙いをつけようとする兵士に炸裂するトッシュのあびせ蹴りが兵士の顔面を粉砕した。
「よし、次」
唖然とする学生たちを放置し、トッシュは階段を目指す。このA棟3Fにある3教室はこれで全部解放した。トッシュはそのまま2Fの教室を目指すため廊下へ出て、階段を下りる。2Fに降りた直後、トッシュが感じる殺気。階段を降りきったあとの、曲がり角。廊下の方からこちらに向かってくる明確な殺意。数は一人。ならば、足は止めない。静かに音すら立てず秒で殺して次の教室に向かうまで!
ガキン!その殺気の主の剣と、トッシュの聖拳が高い音を立てて交わる。
「転校生…!」
「…クラウス!」
お互いにびっくりする。クラウスが超爵剣を片手になぜこんな場所にいるのか。そしてクラウスも同じことを考えている。一瞬硬直する二人だった。が。
「いたぞ!」
「かまわん殺せ!」
二人を挟み込むように、廊下の左右から兵士が走ってくる。もちろんその手には銃を持って。この銃の殺傷能力は教室制圧直後の威嚇で思い知っている。コンクリにすら穴を開けるその威力!そして射程!クラウスなんぞに構っている暇はない。トッシュはクラウスの背後にこちらを狙う兵士に向かって駆ける!
「!」
トッシュはびっくりした。クラウスもまた、トッシュすれ違い、トッシュの背後の方へ走っていく。
ガガガガガガ!!!発砲される銃弾!直撃すれば死は免れない!トッシュは展開した聖拳で銃弾を弾く!弾く!弾く!しかし不完全なトッシュの聖拳に奔る亀裂!だが今は都合がいい。そのまま聖拳を外してぶん投げる!兵士の目前で炸裂する聖拳の、その猛烈な光は兵士の目を潰した。トッシュの目前の兵士だけでなく、背後の兵士の目も。トッシュは炸裂の瞬間にすかさず目を閉じたので平気。クラウスの背を向けているので平気。そのまま二人の学生は、兵士を殴りとばし、斬り捨てる。
「…クラウス、お前なんの真似だよ」
「…俺は貴族だからな」
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校長先生は迷っていた。この学校を占領したテロリストの首領の要求に。目の前に出された空のトランク。これに偏差値をめいっぱい詰め込めろという。偏差値を、だ。
(このバカは偏差値を物かなんかだと思ってるのか…?いや、下手にそれを指摘してはまずい…開き直って全員殺されかねん。…よし)
この間、13秒。10秒以上も待たされてギラタ大佐はイライラが募り、銃口を校長に額に押し付ける。ひんやり冷たい鉄の感触。それが熱を持った時、校長はただのクソ袋と化すことを、校長は知らないがなんとなく雰囲気でやばそうなのはわかる。
「わ、わかった…ただここには無いんだ。職員室まで行かせてくれ…」
「よろしい。では職員室まで行こうか」
授業中の出来事のため職員室は無人である。しかし校長は責任者なので教室のどこになにがあるのかだいたいわかっている。学生たちの成績をまとめた金庫の中、この中に生徒の学力…すなわち偏差値がいくつかの個人情報が詰められている。
「偏差値ってのは、これのことですかな…?」
「おお、偏差値70オーバーがこんなにいっぱい!よし、全部は気の毒だから半分貰っていこう!俺は偏差値がなくなると進学もできないって知ってるからな!全員留年したらこの国の損失だもんな!」
「あ…ありがとうございます…」
あぁ、バカだこの男は。という表情を一所懸命に隠し、校長はトランクに学生の学力指標を詰め込んでいく。
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「おい、お嬢ちゃん何やってんだこんなとこで?」
「あ…あの…お兄ちゃんにお弁当を…」
廊下を見回る兵士は。黒森峰高等学校に相応しくない人物を確認する。齢11歳くらいの少女。高校は1年生の年齢は15歳~16歳である。明らかにおかしい。が、所詮は子供かと舐めてかかかっている。いや、舐めさせたい。
「へっへっへ、そうかじゃあおぢさんがお兄ちゃんのとこに連れて行ってやるからなぁ」
少女の手を引き、トイレの方へと向かっていく兵士。兵士はもう一人もおこぼれにあずかろうとついて行く。前と後ろから挟みてぇ…と。
「やれやれ、ロリコンどもめ」
呆れる3人目の兵士はお仕事に戻ろうと思うが、3人1組で動く都合上、仕事に支障をきたすため、仕方ないかと彼もついて行く。ロリコンではなくとも、少女を抱くという行為自体は嫌いじゃないからだ。
彼らの命運もまた、死である。この少女は外見年齢こそ子供だが、その中身はトッシュの母、聖拳の勇者ジャスティスその人である。イクスシェイドの空術で空術ジャミングの影響ギリギリの地点まで飛び、お弁当を持ってきたんですーという姿勢で学校に潜入を果たしたのだ。
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そして、トッシュ、クラウス、ジャスティス、校長、その他学校内の人物たちは聞いた。その轟音を。黒森峰高等学校の上空で、何かが爆発したその爪痕。上空の気圧が一気に低下し、学校の空気が空へと巻き上げられていく。
「なんてことだ…」
その一部始終を見ていたライゾウくんが、愕然とする。
「邪聖拳ネクロマンサー…、いやトッシュさんのお母さんが…」