83話 強盗、狙われた黒森峰④
~黒森峰強盗襲撃の前日の晩~
「わっはっは、見ろこの偏差値の高さ。国立大学のA判定を貰っておるぞ」
「ぐぬぬ、俺の盗って来た判定書は私立のC判定だ」
「よっしゃあ!この判定書は偏差値ほぼ三桁行ったぜ!」
ここは翌日黒森峰を襲撃する強盗たちの秘密基地。彼らの名は静音秒殺隊。その機械で強化された兵士たちは、宇宙海賊ネオデビルクロスの要請を受けこの地球にやって来た宇宙秘密部隊だ。そして彼らを雇った者は…。
「首尾ハ上々ノヨウダナ、大佐」
「おお、わが友ズオーよ。久々にお前との仕事楽しませてもらっているぞ」
宇宙海賊ネオデビルクロスの四天王の一角。生命を宿す機械戦士、機魔将ズオーその人である。ズオーと親しく話す大佐と呼ばれた男は、静音秒殺隊の指揮官ギラタ大佐。ズオーとは旧知の間柄である。
「しかしズオーよ、やはり刺激が足りんな。もっと大規模な戦場は無いものか?」
「ウム、ソウ言ウト思ッテ早速明日黒森峰ヘ襲撃ヲカマスゾ」
「おお!さすがわが友だ。うちの子らもきっと張り切ってくれるに違いないぞ。あとズオー、その喋り方はやめないか、ここは宇宙海賊の基地ではないのだから」
「む、そうだな。癖になってんだ、カタカナになっちゃうの。それより。明日の作戦は王国の未来を担う若者たちがこぞって欲しがる至宝、偏差値!これを根こそぎ奪ってやるのだ!」
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「魔王様!大変です!宇宙海賊が!」
魔王イクスの座る玉座に慌てて駆け込むラン。宇宙海賊の一団が黒森峰を襲撃してきたとう緊急事態の報告だ。
「そうか、あの騒ぎの正体はそれか…イクスシェイド」
「…いえ、空術による転移は阻害されてできません。やはり連中も空間制御の術に長けるというのは嘘ではないようかと」
地球へ下った元宇宙海賊四天王二人からの情報、フィリップを介しその情報を知る魔王軍は、宇宙海賊の技術力に危機感を覚えている。今回も空からいきなり降下してきた一団に黒森峰を制圧されたことで、後手に回ることの不利を嫌が応にも思い知る。
「ランよ、騎士団は出ているか?」
「はい、既に黒森峰を包囲していますが…生徒を人質にとられ動けません…。王、魔王軍を戻しますか?」
「ふむ。しかし…」
「ええ、風林火山四国が不穏な動きを見せている今、魔王軍を動かすことは得策ではありません」
再編された魔王軍は魔王国を取り囲む風林火山四国との国境沿いに配置されている。どうやら侵攻の動きがみられるため、イクスは警戒をしている。
「これも貴様の仕業か、邪聖拳ネクロマンサーよ…」
魔王イクスは、黒森峰に潜伏しているトッシュと、その母ネクロマンサーことジャスティスのことを考える。宇宙海賊の襲撃という息子の危機に、母はどう動くのか。事態の収束は、状況によっては彼女の動きにかかっているのかもしれない。
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「動くな!いいか、貴様らが血眼になって集めてる偏差値を出してもらおうか!?」
「…はあ」
生徒たちは理解できない。偏差値を出せと言われても、どうしたものか。試験の結果に偏差値が載っているからそれを出せばいいのだろうが、期末試験はまだ先の話である。塾で模試を受けている者も、わざわざ学校まで持ってくることはない。
「あー、偏差値ならこれを使えばわかりましてよ」
「む!それは何だ!?」
挙手したトッシュの言葉に興味を示す兵士。トッシュが出したそれは、装着することで他人の偏差値を確認することができる機械部の発明品、通称スカウターである。
「これをこうして頭にセットするんすよ」
「ほうほう」
兵士の頭に手を回し、スカウターを装着させようとする。無防備に首を差し出した兵士の、その視界が突如回転!後ろにいる仲間たちの姿を目にする。
ゴキ!
「は!?」
トッシュは一瞬で兵士の首を回したのだ!すかさず兵士たちが応戦しようと構える。だがあまりにも隙だらけだ。…トッシュを狙うのならば。
目前の兵士は焦ってトッシュに神器の銃口を向けるが、0.01秒で状況を把握したトッシュはすかさず首がくるりんと回った兵士の死体を投擲して視界を塞ぎ、死角から喉と斬り裂こうというムーズを考える。が、トッシュの状況判断能力は、そのムーブを中断させた。
「へへへ」
もう一人の兵士が、クラスメイトの女子に銃口を向けているのだ。兵士の喉を斬り裂いた直後、そのクラスメートの脳天にも穴が開いてしまう!トッシュの気配察知能力が、兵士が本気でやる覚悟を持っていることを理解しているのだ。
「手も足も出すなよ、お前の友達が友達だったものになってしまうからな」
「…口は出してもいいのかい?」
「おうおう、それくらいはかまわんぜ」
両手を上げ、降伏を示すトッシュ。ナツキやナイトウたちの不安そうな視線が集まるのがわかる。
「てめぇ。よくもやってくれたな!見せしめに何人か殺ってもいいって言われてんだぜこっちはよ」
しかめっ面で兵士を睨むトッシュ。その目線が気に障ったのだろう、兵士がトッシュを挑発する。
「おら口は出すんだろ、黙ってないんじゃねえゾ!?」
「…」
トッシュは視線をクラスメートに銃口を向けている兵士の方へ向ける。本当に口を出してもいいのか?とトッシュは目で問う。
「フフ、好きにしな」
手も足も出ない状況、負け惜しみしか吐き出すことができない無力さを噛みしめるがいいと、勝ち誇る兵士。その表情を確認し、トッシュはじゃあ、と口を開く。
瞬間、轟炎が銃口を向ける兵士の頭部を焼いた。トッシュの必殺沢の一つ、ファイヤーブレスが兵士に炸裂したのだ!
「うぎゃああああああ!」
「な!てめ…」
顔を近づけている兵士が言い終わる前にトッシュの投げたナイフがまるでバードンに頭を焼かれたゾフィーのような兵士の脳天に刺さった!そのまま投擲した左手を止めることなく回し、裏拳で顔が近い兵士を殴り飛ばした!
「ぐふぅ!…てめ…口を出すってのは言葉だろおがぁ…火を出すんじゃねぇだろぉ…」
死んだ。トッシュのパワーで首が折れている兵士の、それが最後の言葉だった。