82話 血脈、神に呪われた一族②
人間改造。ザグマーが持つ力の発端。ゼクセリオンの燃料にするために力也が一族を改造し与えた力、物体操作。強化された精神力が、物体の構造にも影響を及ぼす。理論的には破壊された物質を元通りにすることも可能。しかし命には影響が及ばない。仮に損壊した生命体を修復したところで、綺麗な顔をした死体になるだけであり、生者の肉体を操作することはできない。他者の生命エネルギー、すなわち気を支配することになる。それができれば正にすべてを支配することができる禁忌の力だ。
しかし禁忌の力は必要ない。ザクセリオンは生者ではない。所詮は神の器。神はその内側に潜む精神。かつてはパイロットであり、今は肉体を捨てゼクセリオンに宿る力也を指し、パイロットは電池に過ぎない。その物質操作の力で破損した神の器ゼクセリオンを修復し、神に立ちはだかる敵を分解する源。
「…?」
たった今構造を分解した鉄屑ロボの左腕が一瞬で修復した。まるでザグマーの一族の持つ神の力の如き修復力。力也は長期戦は危険と判断する。中に拘束している子孫、ザグマーの生命力は無限ではないのだから。
そして神の敵マッハ丸に乗る伊集院も長期戦は不利と判断する。神に与えられた借り物の力、現金魔術。預金残高の分だけ様々な現象を起こすことが可能だが、消耗した預金残高は増えない。厳密にいえば、利子の分だけ増えはするが、口座の利子は微々たるものだから。
お互いの思考が一致する。狙うは短期決戦。神はザグマーから破壊の力を引き出す準備を整える。間合いに入ったら破壊の力を掌に集めた必殺ゴッドフィンガーで一気に中枢を分解し、中身を圧殺する。対する伊集院。神に触れられたらパーツが分解されることを理解した。その力だけでなく、口から破壊力の高い光線も出すことができたし、どんな武装があるのかわからない。まだマッハ丸に慣れてない伊集院は下手に避けようとしても消耗するだけで攻撃の機を得られないと判断し、真っ向から立ち向かう。破壊されても修復しながらぶん殴る!
両ロボが見合う。周囲には力也教信徒が固唾を見守っている。神が空からやってきた謎のロボに後れを取るはずがない。この信仰心が神を勝利に導くと信じて、祈る。祈る。祈る。
(力也の支配…この邪教の檻を…滅ぼす…!)
信徒たちの祈る姿は、救いを求める子羊たちの救済を求める声。ならば、この魔神を破壊する。ジェロニモに与えられた秘策をもって、ザグマー市に真の平和を…なんて偉そうなことを言うつもりはない。ただ、この魔神を破壊しなければ、ザグマーの新しい人生が終わってしまうのだから。
伊集院はコクピットで丸くなり恐怖に耐えながら祈るキキに目を向ける。絶対に負けられない。この闘いで預金残高が無くなるかもしれないが、今ここで死ぬわけにはいかない。伊集院は自称神のロボの弱点を探るためにいろんなセンサーを使用し、そして内部に存在する生命反応を探り当てている。それがロボのパイロットと判断し、そこを狙う構えだ。両者短期決戦のためのパイロット狙い。両者見合って見合って…。
両ロボの見つめ合う中央。そこにそびえるジェロニモ・ザグマーの大きい立像が、戦闘の衝撃の影響で傾いている。じわじわと傾きが強くなるにつれ、加速。そしてとうとう地面に落ちてガン!
「うおおおおおおお!」
「ゴッドフィンガー!」
と地面に叩きつけられた音をかき消すように雄叫びを上げ、ロボがぶつかる!まずは先手、ゴッドフィンガー。インパクトの直前に破壊エネルギーを放出する必殺の手。対する伊集院の後の先。まずそれが来ることを見越していた彼は、顔面の目前、右手でその神の右手首を掴む。そのまま右手をぐいっとひっぱり神がバランスを崩した。神の右側面が露わになる。伊集院はそのまま左でで神の右肘を左手で掴み、そのまま倒れ込む。バキンと右肘から折れる腕。そのまま伊集院はマッハ丸を回転させ、神の首に左腕を回す。チョーク!
背中からマウントを盗られた力也は、敵ロボの的確な動きに狼狽するも、所詮は奴は神に非ず。我が勝利は揺るぎないと、背中から破壊エネルギーを放出する。通称光の翼と呼ばれるこの兵装で敵ロボの両腕を切断する。だが、敵ロボの両腕は切断の直後修復される。破壊のエネルギーに対抗する回復のエネルギー。これは千日手か。否。断じて否。
力也は光の翼の出力を高める。中にいるザグマーの命を削る派手な大技。この大出力で修復できないほどにボコボコにしたろうかという力也の大技を、しかしそれでも両腕は切断されないでいる。
「うおおおおおお!」
伊集院はガンガン減っていく預金残高を無視し、胸部から必殺の兵装アトミックブラスタートルネードドリルを準備する。このミサイルは爆発する類ではなく、掘る兵器。これで神に風穴を開け、パイロットを直接貫通させるえげつない兵器だ。しかし!
バキンバキンバキン、とあちこちから響く嫌な音が伊集院の耳に届く。展開したドリルの回転速度が落ちこむ。
「なに…まさか!」
「そう、そのまさかよ。貴様は詰んでいたのだこの異教徒よ!」
異教徒とは力也教で一番人を罵倒する言葉である。力也の派手な光の翼は囮。実際は全身から放出する微粒子レベルの破壊エネルギーこそが本当の攻撃。相手に見えないくらい薄ーく展開するこのチンケなオーラが、伊集院のマッハ丸の全身に微細なダメーシを与えていく。蓄積されたダメージがマッハ丸を機能不全に陥れる。
「くっ!」
当然、異教徒ロボは機能不全を起こした部分修復をを図る。それはつまり両腕に集中していた修復のエネルギーが全身に回るということ。その隙を神・力也は逃さない。
「かかったなこの異教徒め!」
今度は全身に薄ーく展開していた破壊エネルギーを光の翼に集中させる。疎かになる両腕の修復エネルギーと、強化される光の翼の破壊エネルギー。その拮抗は当然、すぐに崩れる。
バゴン!マッハ丸の両腕が完全に分解される!これを修復するとなるとかかる時間は数秒を要する。しかし修復中に次なる手が力也を襲うだろう。そして、それが勝負を決する致命的な一撃になるに違いない。
だから、伊集院は修復をしなかった。両腕を、ではない。それ以前。全身が機能不全を起こしたその時から。最低限の兵装の修復のみに全力を注いだ。両腕は囮。そう、胸部ドリルの回転機構のみに全力で修復を図った!
胸部ドリルが光の翼の破壊エネルギーの光の膜に突き刺さる!たとえ破壊されても次から次から修復され形を回転を維持するドリルが徐々に抉っていく!
(ダメだ!このままじゃ残高が…!)
しかし突き付けられる非情なる現実。貯金残高の減り具合が想像以上でこのままじゃ膜を破るだけで、本体を掘るだけのエネルギーが持たない!
(クッソ行くしかねえ!)
それでも止まったら終わる。全力でドリルを回す!しかし伊集院の狙いに気付いた力也もまた、光の翼の膜を強化する。この時間の差が勝負を決める最終要因になった。このタイマン、力也の勝ちが決まった!
「間に合ったわ」
「!!」
マッハ丸の活動が停止する。と同時に、突如、破壊エネルギーが止まる!否!逆流する!エネルギーが力也の全身をミシミシ言わせ…そして破壊!神が…鉄くずに化けた!
「な、なぜだ…十六郎・ザグマー…なんで…!」
崩れていく神の器。力也の精神を維持するための機構も崩れていく。ザグマーの支配が解け、再生するエネルギーを徴収することもできない。
「神と一体化したってんなら、僕も神ってことだな。そして神なら、なんでもできるだろ」
「あああ~…!」
ザグマー市に残ったのは巨大な二体のロボの残骸。神の残骸に信徒たちも言葉を失う。神が滅びた、と。絶望の静寂が、町を包み込んだ。