82話 血脈、神に呪われた一族①
沈んでいく。ぼんやりとした意識で、ただただ暗い底へとに沈んでいく。その深淵には何があるのか。最早どうでもいい。無気力とも言える。何もできず、抵抗をしようとする意思さえ奪っていくその暗闇の奥底で、ザグマーはこのまま消えて無くなるのかと想像する。不安すらもない。もう、どうでもいい。生きる活力すらも失っている。
「君、寝たらいけません。寝てしまったらもう戻れませんよ」
「…?」
ふと、ザグマーは知らない声を聞きとる。どこからだろうか。下の方から聞こえたようにも思えるし、今しがた自分がいた上の方から聞こえたようにも思える。
「ここです。貴方の目の前にいます。しっかり目を開けて、意識しなさい。さぁ、貴方の目の前にいる私をしかと見るのです」
「あんたは?」
4時間しか寝てない状態からの二度寝のような強烈なまどろみをなんとか振り払い、ザグマーはその知らない人の姿を目撃する。本当に知らない人だ。ただ、このザグマー市の中でちらほら見た、昔の人の絵。そんな恰好をしている。頭頂部は剃って河童のようで、首にはエリマキトカゲのエリみたいなアレを巻いている。たしか力也教の教えを広めた宣教師、そんな人だ。
「そう、私は力也の教えを広報する仕事をしていました。君がここにいるということは私の一族なのでしょう?私はザグマー、ジェロニモ・ザグマー」
「俺は、俺もザグマーだ。十六郎・ザグマー…!!!」
「やはり。君は私と同じ先祖の…魔神・力也の子孫」
「はあ?力也ってあの魔神というよりマシンなアレの?僕は機械の体じゃないんですけど。この顔面を剥がせば醜い機械の顔があるのか?拳からベアクロー生やしたりできるのか?…うっ!」
機械の子孫とか言われてハァ?なザグマーを突如、強烈な疲労感が襲った。100m走った後のような疲労だ。まだ若いザグマーだから平気だが、30を超えたおぢさんなら致命傷の4歩手前くらいの大ダメージだ。
「ふむ、力也が貴方の持つ力を使いましたね。時間がありません。私の持つ情報を貴方の脳に直接インストールします。この魔神を止めるのです」
「ちょ、ちょっ待って…うおっ眩し!」
有無を言わさずジェロニモの体が光になり、ザグマーの内部へと侵入した。直後、ザグマーは理解した。この力也、神などではないと。それは例えるなら災害。過去人は自らの力ではどうすることもできない災害を神の御技と考え、奉納やら何やらしてきた歴史がある。力也とザグマー一族の関係は、まさにそれだった。
いつから存在したのかわからない大いなる力。魔力等を一切用いず殺傷力を発生させる小型大型様々なトカレフや大規模な破壊現象を引き起こすミサイルなどの戦史文明の遺した神器とは技術系統が全く異なるその力。人はそれを神と呼んだ。それ自体は『力』を持つ一族が厳重に管理し、有事の際に用いていた。
有事の時のみである。なぜならば、それを用いる者は代償に命を削るらだ。使った後に即死するわけではない。ある程度の長時間、複数回は使用できる。だが、使い続ければ確実に死ぬ。しかし引き換えにその強大な力は、あらゆる困難を弾くことができた。
600年前、一族はその封印を解く。力也教の信徒・リキシタンたちへの弾圧を強める幕府に、力也の大いなる力を示し、あわよくば四国大陸全土にその教義を広めるために。その力こそ力也…特大人型決戦兵器ゼクセリオン。リチウムイオンバッテリーと人間の生命力で稼働する超兵器!しかし…。
ゼクセリオンは汚染されていた。
いつからかはわからない。力也と一体化したジェロニモにも回収することのできないデータ、秘匿されたわけではなく、『本人』も覚えていないのだろう。一体いつ、何のために、『彼』はそうなったのか。
『彼』は力を封印する一族を嫌い、自らその力を振るい世界を支配しようと考えた。無論、命を削るその起動を考え無しに行えばすぐ骨になってしまう。故に、『彼』が…力也・ザグマーが取った手段。それは自らを神の力ゼクセリオンと一体化すること!その時意思なきゼクセリオンは力也の意思に汚染され、ゼクセリオンは依頼力也を名乗る。
しかし意思を持ったところで所詮はロボット。活動時間に限界はある。そこで力也が取った手段。それはロボになる前にこさえた自らの子孫に力也を神と触れ回らさせ、身の回りの世話をさせること。つまり、そのために作った教義こそ力也教!力也教は一族の力を悪用する力也のエゴが生み出したのだ!
「はっ!」
意識消失してからどれくらい時が経っただろうか。すごい長い夢を見ていた気がするが、実際は数分程度しか経っていない。今ザグマーはゼクセリオンの中で磔状態になっている。拘束具からエネルギーが吸い取られていくのがわかる。このまま力を濫用されたらあっという間に骨にされてしまう。
ザグマーが骨にされてしまったら力也も活動を停止するのでは、と思ったが先ほどジェロニモからインストールされた知識がそれを否定する。力也セーフモードになれば先ほどの山の様な形態に変化する。活動はできなくとも鉄壁の防御を誇り、さらにリザーブしたエネルギーで信者一人を洗脳し、預言者に仕立て上げる。たとえ眠っていても力也は周辺の人類を操ることができるのだ。その影響力は特に子孫に強く影響を及ぼす。ザグマーがまるで導かれるようにこの町にやってきたのもその影響だろう。
「とにかくチャンスを待つしかないか…ジェロニモの言ったチャンス。ちょうど今目の前に強敵がいる…。俺の持つ神通力…いや、力也が子孫に残した超能力、そのエネルギーが尽きる前に」
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バキン!一瞬の出来事だった。伊集院は今しがた破壊した目の前の謎のロボットの顎が、気付いたら修復されていた。
「痛いな…無限に『治せる』わけではないのだがね」
さらにまるで自我を持つかのように喋るではないか。修復された顎は動いていない。生物が声を出すなら口が動くはずなのに。だのにまるで生物のように、喋る。機械の如く顎を動かさず。
「お前一体何モンだ!?」
「それはこちらの言葉だよ、まるで貴様も神みたいな巨体じゃあないか。異教の神か?この世に神は唯一、我力也のみ。これは許せんな」
ガンガンガン!と急に走り伊集院が乗るマッハ丸に迫る力也と名乗るロボット。その右腕がマッハ丸の左肩を掴む!
「崩れろ」
「!?」
途端に、マッハ丸の左腕がゴトン!と地面へ落下する。何が起きたかわからない。とにかくこいつに掴まれるのはまずい。
「離れろ!」
マッハ丸に前蹴りを繰り出させる。ボディーにヒット!距離を置いたところで伊集院も現金魔術により左腕を修復させる。預金残高を魔力に変換し、金で起こせる現象なら何でもできるこの魔術。横浜の1/1のモビルスーツの建造物の制作費を考慮すると腕一本だけでとんでもない金額になりそうだが、伊集院はマッハ丸の動力がバイクのエンジンであることを活用し、このマッハ丸をバイクと思い込むことでバイクの修理費程度で修復ができるのだ。
「とはいえ、残高は2億を切ってる…くそ、ガソリン代だってかかるってのに!」