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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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15話 遡及!それは歴史に無い出会い

 少女は逃げていた。王国に設立された秘密機関…通称『7人委員会』。彼らの策謀により囚われた彼女は今まで…つらい日々を過ごしていた。具体的に言うと男から辱めを受けていた。3か月が経った頃、彼女は脱出に成功する。まともな着るものもなく、その首に巻かれたそれは虜囚の証。ならばその首輪からぶら下がる千切れた鎖は自由の証か。


「はっ!」


 いつからここで眠っていただろうか。少女は目を覚ます。ここは禁戒山の麓にある洞穴。人の出入りがある表ではなくその裏側、人知の及ばぬ獣の世界。人目につくことを避けながら彼女は禁戒山の頂にある洞窟寺院を目指していた。


「どれだけ寝てたのかな…」


 虜囚の身では安眠などできなかった。ただ疲れて気絶するように眠り、嫌な朝を迎える絶望の日々を比べれば、この硬く冷たい土の寝床は比較にならないほど安らげる。久しぶりの安眠から目覚め、呟きながら起きようと腕を動かすと柔らかくも硬い感触がその手の先にあった。ほのかに暖かい、16cmほどの細い肉の棒。彼女はそれが何なのかすぐにわかった。昨日まで自分を貫いてきた男の象徴…ペニスである。


「うわああああああ!」


 そのまま飛びのき壁に背を付けた彼女が見たのは眠っている少年だった。歳は自分よりちょっと上だろう。気持ちよく眠っているのか股間が立派な膨らみを形成している。少女の騒ぎに少年も目を覚ました。


「う~ん…あれ?ここどこだ?」


 目と目が合う瞬間、好きだと気付いたりはしない。二人にあるのは全く同じ疑問。そして同時に紡ぐ言葉。


「あんた…誰?」

「君…誰さ?」

 ・

 ・

 ・

 トッシュは目の前の赤毛の少女の恰好ですぐに事情があることを察する。千切れた鎖がぶら下がる首輪、服とはとても思えないボロボロの布切れ一枚を纏う素足の少女。


(脱走した奴隷かな…?)


 目の前にいるトッシュを警戒している姿はやはり追われる者故だろう。まずは警戒心を解かせようとトッシュは自分から自己紹介をする。


「俺はトッシュ。この禁戒山3333段を19分58秒で登り切った男よ」

「…20分切った?すごいね君!…じゃなくて、…追っ手じゃあない…のかい?」

「追っ手?…ちょうど今山に入って来た10人がそれかも」

「えぇ!?」

 ・

 ・

 ・

「山狩りの準備が整いました、グレゴリオ様」

「結構!では逃げた子猫を捕まえるとしよう!」


 禁戒山に突入してくるグレゴリオと呼ばれた男が率いる10人の山狩り隊。その侵入をトッシュは察知していた。トッシュは起きた瞬間に全身から闘気を薄く広げ、その気の範囲内の生物の動きを察知する。これはいつもやっている。こうすることで刺客などを察知できるトッシュの特技だ。動かない相手は察知できないという欠点はあるが。魔界に行く前、1年ほどトッシュは森の一族と共に生活をしていた。その際に自分を育てていたサムという男から教わった技である。森での狩りに役立つのはもちろんのこと、さらには自分の命を狙う者をも察知するために教わった。これがあるからこそトッシュは相手の動きの見切りに長けているのだ。


「君はすぐに逃げて。あいつらの狙いはボクだから」

「そうか…アンタ…」

「…」


 無言で俯く少女。


「ボクっ娘なのか…」

「…そうだよ!文句ある!」

「いや特には。まぁ俺に任せるといいぞ」

「…?」


 山狩りを進める男衆。その一人が洞穴を見つける。身を隠し休むにはおあつらえ向きというものだ。しかもこの洞穴の手前には人の足が踏み追ったような草木や小枝があたりに見えている。ここにいる可能性は十分だろう。男は山狩り隊の隊長グレゴリオを小声で呼ぶ。


「グレゴリオ様…あれを…」

「ふむ…よし、静かに行くぞ。フフフ、見つけたらお前たちにも少し遊ばせてやるからな」

「さっすが~、グレゴリオ様は話がわかるッ!」


 男たちが洞穴の入り口を包囲する。そして静かに歩みを進める。洞穴は浅く、入り口から奥まで5mほどしかない。すぐに中の様子はわかった。そこには人の影はなかった。隠れる場所なんてどこにもない。


「ちっ、空振りか。ここにいたかもしれんがもう出立した、ということか?」

「グレゴリオ様。いないのでしたらすぐに出ましょう。こうしている間にも逃げているかも」

「わかっている。行くぞてめぇら!」


 ぞろぞろと洞穴から出ていく男たち。その気配が遠のいていくのがトッシュはわかった。十分に離れたことを確認し、トッシュは地面から…生えてきた。そのまま少女をひっぱりあげる。直前にアーウィンと戦っていて良かった。あいつの土潜りの技はとても便利だ。さすがはニンジャ。


「君…八卦の技が使えるのかい?」

「おぉ、風と地をちょっとだけな」

「じゃあ八卦の徒!?お願い!ボクを山頂の洞窟寺院まで連れて行って!」


 八卦の徒、八卦衆と呼ばれている八卦龍拳ハウドラゴンを修める武の一門はそう呼ばれている。少女は自らを救ってくれると期待し彼らを訪ねようとこの禁戒山までやってきた。その山頂に存在する洞窟寺院もその一門の拠点の一つである。騎士団や教会といった世俗にまみれた連中では王国の暗部に食い込んでいる委員会にすぐに察知されてしまう。世俗と一線を隔し、修行に専念する彼らならば、と。


「あー…その前にアンタの名前なんていうの?」

「えっと…ちょっと待ってね…」

「ちょっと待ってって名前言うだけでいいだろ…今から偽名考えてますって白状してるようなもんじゃないか」

「そうだよ!だってボクの正体知られたらまずいし…」

「ふーん、まぁ俺は八卦のなんとかじゃないからいいけど。そういやマユも八卦のなんとかだったのかなぁ…ていうかアイツどこいった?」


 トッシュがふと呟いたマユという名前。少女はそれに反応する。


「マユ!いい名前だね!じゃあボクの名前はマユってことで!」

「えー?…それくたびれたおばさんの名前だぞ?不吉じゃね?」

「ひどいことを言うね君は。女の子はね、いくつになっても女の子なんだぞ」

 ・

 ・

 ・

 全く整備されていないもはや道ですらない山を二人は往く。草木が生い茂り、土が足を取り、隠れる石や岩が行く手を阻む。通常であれば獣しか通らないようなこの世界を突破するのは困難極まりないが、今のトッシュは八卦の地の技が使える。トッシュを避けるようにそれらの障害が道を開け、トッシュが通りすぎたら元通りになる。あっとというまに山頂に到着だ。


「すごい便利だなこの地の技は…ていうかアイツに脇腹刺されたけど大丈夫なんかな」


 トッシュはふと、意識を失う前の出来事を思いだす。深々と毒の塗られた刃を突き刺されたのだ、普通では死んでいるだろう。服をめくるとそこには痛々しい傷跡が残っていた。毒の影響でグロく変色した皮膚と、刃物が突き刺されたのが確認できる傷痕。痕…?集気法をする前に意識を失ったのになぜ塞がっているのだろう?わからないがその傷を見たマユ(少女)がすぐさま飛びつく。


「君!その傷!ちょっと見せて!」


 トッシュが返事する前にマユ(少女)は手に纏った法力を傷口に当てる。マユ(少女)はその変色した皮膚が毒物によるものと判断し、法力により全身をチェックする。幸い毒物の存在は体内には残っていなかった。ただ毒物により臓器や細胞が損傷を受けたようだ。


「毒は大丈夫みたいだね…ほんとは病院に行った方がいいんだけど」

「…まぁ大丈夫ならいいかな。っと、アレが洞窟寺院かい?」


 あと数mほどで森が終わる。その先に広がる空間の下方にその洞窟はあった。現在地は洞窟寺院の手前にある崖の上、正規ではないルートによる回り道の登頂なためこのような場所に出てきたというわけだ。


「本当にありがとう。これ以上一緒にいると巻き込まれるからここからはボク一人で行くよ」

「いや、いろいろと興味があるから俺も行くよ。良いだろ?俺恩人ぞ?」

「くっ…断りたいのに嫌なとこ突いて来るね君は」

「はい決まり。お邪魔しまーす」


 トッシュが洞窟寺院へと突入する。当然門番に撮っ掴まってしまう。それを見て少女は慌てて門番を止める。少女の顔をみた門番はすぐさま奥へと案内する。どうやら知り合いらしい。トッシュも一応解放され同行を許可された。

 ・

 ・

 ・

 案内されたのは寺院のトップである長老の私室。まずは長老にのみ事情を説明しなければならない。少女の姿からただ事ではないと判断して門番も長老の了解を得、ここに案内したのだ。


「ほー、久しいのう。ちょっと見ないうちに大きくなったのう…と思い出話に花を咲かせたいとこじゃが、その様子じゃとそういうわけにもいかんようじゃの」

「…はい。ボクは今まで王国に囚われていたんです…この子に助けてもらってなんとかここまで来ることができました」

「おい、俺の方が年上じゃね?」

「トシくん今真面目な話してるから黙っててね」

「…」


 納得できないが一先ずトッシュは黙る。そのまま少女は続ける。


「王国は…ボクを…」


 ここで少女は肩を震わせながら言葉に詰まる。祖父の様に思っていた長老にこの事実を告げるのは辛かった。彼に心配をかけたくなかった。ただ、自分一人だけでは解決できることではない。少女には助けが必要である。


「…言いにくいことならば無理せずとも良いんじゃよ。まずは部屋で休み…」

「ごめんなさい!ボクを助けてください!ボクはもうあんな目に合うのは嫌だ!もう男の人に犯されるのは嫌なんです!」

「!」


 その告白に長老は衝撃を受ける。トッシュはあー、やっぱりなーという反応。こんなロクに着るものも無い逃げた奴隷の少女なんてされることは一つだろう、と。しかしその後の長老の言葉でトッシュもまた衝撃を受けることになる。


「王国がそんなことを!サン…聖女とまで呼ばれた貴公になんということだ…!」


 聖女サン、そう呼ばれたその少女はどう見ても10代半ばといった年齢である。そう、つまりここは。


(過去の世界!?)


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