75話 告白①
ジジジ…、凹んだ鉄の箱が2週間後のセミのような鳴き声を発する。そのか細い、命の最後の煌めきの声は、下手人たるアルの耳には届かない。油断をしているわけではない。鉄の箱が何かしようものなら直ちに闘気バトを秒でぶち込める位置取りをしているが、物事には優先順位があり、アルにとって今すべきことは…。
「アカネさん…」
アカネの目に、申し訳なさそうなアルの目が映る。きっと自分もそういう目をしているんだろうな、とアカネも自覚していた。
「俺、あのカマキリ男が言ったことを考えてたことがあるんだ。その子がいなくなってしまえばいいって、この手でそうしてしまおうって」
「…うん」
「きっと、これからも同じことを考えるかもしれない。これからそうしとけばよかったかもって後悔するかもしれない」
「…」
やはり、そうだった。アルの気持ちに甘えず一人でこの子を育てるべきだった、と。アカネにそんな考えがよぎる。それは決してアルのためではなく、自分のため。自分が後ろめたい気持ちになりたくないための、自分勝手な理由で。
「私も、アルくんの重荷になっているってことに気付いていたんだ。私がそう思っちゃうから、余計アルくんに気を使わせてたのも、わかってた。私がアルくんを追い詰めてることが、辛かった。もっと私がアルくんに甘えられたら違ったのかな」
アカネはアルと違う道を進むことを決意した。アルはまだ15歳の、これからの大人になる未来を生きる人間。そう遠くない未来で大切な人を見つけて、恋をして、そして子を育み、幸せな家庭を作る人間だ。その未来を、アカネは守りたかった。
「うん、お互いが大切で、だから、なのにお互いをを傷つけて。…でも。それでも」
「え…」
「君の持つ辛さも苦しみも、全て君自身なんだ。だから、それを全部ひっくるめて俺は受け止めたい。俺はきっと後悔する、でも、二人ならきっと超えて行ける、いや超えてみせる。一緒に君と地獄を歩きたい」
「…!」
「僕と、結婚してください」