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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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74話 子宝①

 インサラウム村。王国南部の、山の中にある小さな小さな村。名物は豆腐を味噌に漬けてウニのような触感に仕上げた山ウニ豆腐である。土産屋にあるお菓子屋さんが作ってる栗まんじゅう(一般的な栗饅頭とは違い、中に栗きんとんが入ってるような、栗の自己主張がとても強くて甘さ控えめでおいしい)も人気の一品である。


「この栗まんじゅう4個くれ」

「あいよ、440円ね」

「うぃ」


 栗まんじゅうを頬張り、その前に土産物屋で買ったお茶をすすりながら、このインサラウム村を訪れた客人は目的のモノを探す。その手掛かりとなる人物は、きっと村役場にいるはずだ。村役場はお菓子屋さんや土産物屋から歩ける位置にある。交渉するには頭を使うので、糖分補給は欠かせない。栗は高い糖質を誇るうってつけの食材だ。


「いらっしゃいませー」

「あのー、ギラビィさんいます?」


 村役場の総合案内所に、目当ての人物を訪ねる。彼が探しモノを知っている筈だ。


「えっと、ギラビィですね。申し訳ありません、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「あー…ラファエルが来ましたと伝えてください」

「処置しました。少々お待ちください」

 ・

 ・

 ・

「なんだって?ラファエル?」

「え、えぇ…そう言ってました」

「…」


 ギラビィは、客人がまたもこの村にやってきたことを不審に思う。まずラファエルは北の国、風林火山四国の火を司る氷の国ヴァイスランドへ向かった筈だ。


「あの男、なんでまた…」


 ラファエルはかつてこの近隣に営巣していた山賊団の新入社員だった。山賊らしく人を攫い、弄び、人買いに売る。アカネも拉致され、山賊団全員にアカネは抱かれている。無論新入社員であるラファエルも例外ではない。さらにラファエルは実際に拉致した実行犯でもある。アカネとミサキにとって、彼は受け入れる余地もない憎き仇なのだ。

 ・

 ・

 ・

「なんでお前がここにいるの…!」

「お姉ちゃん…私はやっぱりこいつ許せない…」


 ゾンビ山賊団に襲われたミサキを助ける一助になったのは確かだが、それとこれは話が別である。悪いことをしたモノが、良いことをしたからといって偉いってわけではない。以前アカネと救う一助をしたからと言って、偉いわけではない。最初から何も悪いことをしていないモノが、一番偉いのだ。


 アカネは山賊の巣で過ごした2か月のことを、ミサキには知られたくなかった。知ればきっと悲しむから。そして事実、憎しみに染まったミサキは、口ではアカネが決めることだと言っているが、その心はラファエルを許せないでいる。そしてアカネもまた、ミサキに残酷な現実を押し付け苦しめたラファエルを許せない。自分の苦痛よりも、大事な人の苦痛の方が我慢できない。


「なんでお前は私だけじゃなくて私の大事な妹まで苦しめるの…お前に大事な人はいないの…」

「…大事な人、か」


 ラファエルにも過去はある。かつてラファエルは氷の国、または火の国と呼ばれる北国ヴァイスランドで暮らしていた。ヴァイスランドは一年中雪と氷に覆われ、物資の乏しいその国において、皆が平等に平和に暮らせるよう、富を持つ者は持たざる者に分け与えるべきという主義の下、一部の特権階級のみが平和に暮らせる独裁政治を作り出していた。人の命はパンよりも安く、特権階級の思うままに弄ばれる持たざるモンたち。ラファエルもまた、持たざるモノだった。


「俺、絶対偉くなる。偉くなってもうお前がお腹を減らさないで済む生活をさせてやる」

「うん…」


 ラファエルには妹がいた。歳は1つ下の、たった一人の家族。これから起こるのは、ヴァイスランドではさいて珍しくもない、よくある悲劇である。

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