73話 誕辰、勇者の嫡男④
暴漢に乱暴されそうになる大小ジャスティスを救ったのは春日高校番長フジモト!その常人を超えるゴリラパワーは、半グレ程度など歯牙にもかけない!そしてフジモトのパワーはそれだけではなかった。
「フジモトォー!チョーシこいてんじゃネェーゾ!」
暴漢の一人が吠えながら腰からヤッパを抜き払う!その刹那!
バキューン!…カランカラン。
フジモトの手から魔術が炸裂!時速1600kmで射出された鋼の弾頭が、悪しき刃を持つ暴漢の手を打ち抜いた!それは魔力を必要としない旧世界の遺物!誰でも同等の威力を発生させることができる現在では失われた神器・トカレフ!
「グワー!俺の手がァー!」
「この一発結構高いんだ、俺を破産させてくれるなよ」
硝煙の匂いがするその神器の射出口を、暴漢たちへと向ける。
「ひ、ひいいいい!」
「くそ、ずらかるぞ!」
ドタドタと逃げていく暴漢たち。フジモトはその後頭部へ、忘れ物だとばかりに刹那で神器の4連射を撃ちかます。暴漢は秒殺され、クソ入り肉袋へと化けるのだった。
(おぉ…見事なお手並み…!)
その鮮やかな手際に、大ジャスティスは感嘆する。人間嫌いの彼女にとって、人間の命をまるで虫を潰すかのように平然と処理する彼のその心の強さは好意に値する。好きってことだ。長老フジモトの名前は大ジャスティスの耳にも入っている。表の顔が高校教師マーサ先生である彼女に、注意をするように学校から渡された、毎年発行されている王国不良名鑑にも巻頭で掲載されてるほどの有名人で、不良名鑑ガムにも第一弾でフジモトのプラモデルが収録さてているほどだ。同僚の教師が、いやらしい目線を彼女の肩に向けながらこう宣った。
「長老フジモトは危険な不良です。貴方のような可憐な女性が一人で帰ったらもしものことがあるかもしれません、私がお家まで送りますよ」
無論、その申し出はお断りした。
「恐怖の中死ぬのはかわいそうだろ。逃げれた良かったって安心感のまま死なせるのが俺の慈悲でね」
まるで独り言のように、大小ジャスティスに言い訳をする。フジモトから見て二人の目線があまりにも違いすぎた。大きいほうはこう、キラキラした感じで、小さい方はギラギラした感じだ。
「まぁ、あれだ。この辺は危ないから安全なとこまで送ってくよ」
「そうみたいねで。も大丈夫よ、ありがと。じゃあね」
有り難い申し出だったが、大ジャスティスはムッとしている小ジャスティスの手を引っ張りながらフジモトにすれ違う様に去っていく。第一印象が良いからといって、それで全てを決めてはいけない。ジャスティスはそれで結婚に失敗してるのだから。
「いや危な…え?」
もちろん彼女たちだけでこの地域を歩くのは危ないので、引き留めようと呼び止めながらフジモトは後ろを振り返った。しかしその目には誰も映さない。ただ、夜の闇だけがそこに広がっているだけだ。
「え…?え…?」
肌寒い秋の夜風が、フジモトの体を冷やす。
「も、もしかしてお化け…。ひいいいいい!…」
ドタドタと、フジモトもお家へ向かうのだった。
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「むー」
「そんなに怒るなよ、あいつら人間のクズだぜ」
小ジャスティスをなだめる大ジャスティス。どうやら小は暴漢たちを射殺したフジモトが許せないようだった。悪い奴でも、しっかり反省させて社会に貢献するまともな人間へ調教すべきだという理想。大ジャスティスもかつてはそうだったからその気持ちは理解できる。
「それに引き換えあの子は良い子だったじゃあないか」
「ふん、チョロすぎるだろお前」
チョロいからこそ、ロクでもない男に処女を捧げ、すぐに妊娠し、そして結婚生活はすぐ破綻した。生まれてきたトッシュは無論愛してるが、だからこそ我が子を捨てたあの父親が許せない。
「失礼ね。そんなんじゃないわよ」
「あっそ。じゃ。トッシュが待ってるから」
そのままフッと、小ジャスティスが姿を消した。トッシュとの誕生日を独り占めするのは羨ましいが、かといってあのまま3人でいてもお祝いどころじゃない。今日は我慢しておく。明日から学校のトッシュはこっちが独り占めするから。小ジャスティスは宇宙海賊ネオデビルクロス退治しないといけないからお気の毒だ、と大ジャスティスは酸っぱい葡萄を食べれんかった狐さんのように自分を慰めた。
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「ただいまー…あっ!」
「あばばばばばば…」
「ごごごごごめん!トッシュしっかり!」
小ジャスティスは、自分の闘気でうっかり押しつぶしたトッシュが悶絶する姿に狼狽える。
(ろくな誕生日じゃねぇ…)
トッシュが19歳になった日の出来事であった。