73話 誕辰、勇者の嫡男③
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「で、何か言うことがあるんじゃない?勇者ジャスティスさん」
公園の塀に背をもたれさせ、厭味ったらしくちっさい方のジャスティスを勇者と呼ぶおっきい方のジャスティス。月明りが、ちっさい方の彼女を儚く照らしている。
「ええ、伝えておいた方が良いと思ってね。一つだけ、これはトッシュには言わないように。…まぁ、いずれ知ることにはなるけど」
「いずれ知るなら言っても良いと思うけど…何だい?」
「宇宙海賊ネオデビルクロス。当代の勇者伊集院くんが立ち向かうべき新しい脅威が、近いうちにこの四国大陸に来るわ」
おっきい方のジャスティスは、背の高い塀と月明りが生み出す影の中、ちっさい方の話に耳を傾ける。その顔は闇の中見ることはできないが、全く隠す気のない嬉々とした感情が容易に今の表情を想像させてくる。
「へぇ…!それは危険だね」
まるで災禍で大陸の人間を減らしてくれるのを期待しているとでも言わんばかりに。人間は誰しも矛盾を抱えて生きている。その待ち望む未来は、おっきい方のジャスティスが守るべきものにも災いをもたらすことに気付いているのだろうか。
「ええ…危険よ。立ち向かうべき当代の勇者伊集院くん、魔王軍の死神イクスデスくん、そして『貴方の』娘の流星が海賊に敗れて消息を絶ったわ」
「あら、勇者負けてんじゃん。流星ってのはどうてもいいわ。あのクソゴリオに産まされたってだけの寄生虫みたいなものだし」
魔王を討伐した英雄の一人、戦士グレゴリオ。あの巨体の下で、逃がさない頭を抱えられ、陵辱と屈辱の中叫んだ記憶。そして孕まされた四人の勇者の子達。
「かわいそうに。ロクでもない男の子供を5人も産まされて、すっかりひねくれちゃって」
「…アンタはトッシュを股からひり出した記憶はあるのよね。同じクソ野郎グレイの息子とは思えないくらい、良い子だわトッシュは」
「同じクソの子なら、あの四つ子は愛せないのかい?」
「同じクソでも、何も知らない子供だった私の幼い恋愛で好きだったのよグレイのことは。望んでトッシュを産んだの、わかるだろ」
「そうね、大事な息子よ。だからトッシュを守護るために海賊に対処するの。これからアンタに構ってる時間はないってわけ」
「トッシュに何も言わないのは、学校生活を楽しんでもらうため…か」
月の位置が動く。ちょうど月の照らす光に照らされ闇から出てきたおっきい方のジャスティスが、言葉を続ける。
「それには私も賛成ね。まぁ海賊退治頑張りなさい」
「…言いたいことはそれだけよ。それじゃ…ん?」
「なんだい…おや」
話を終えた二人のジャスティスを取り囲むように、5人の与太者たちがぞろぞろとやってきた。
「ブヘヘヘ、きれいなネーチャンじゃねぇの。こんな時間になにしてるのかな?」
「いやいやこっちの小さい子の方がかわいいねぇ。何歳かな?13歳以下なら嬉しいなぁ」
「ヒヒヒ、一緒に遊ぼうぜ~、いろいろ楽しい玩具も用意してるからさぁ」
「二人ともお顔が似てるねぇ~、姉妹かなぁ。もしかしたら親子?」
トッシュのアパートがある地域には退学者収容キャンプと呼ばれる悪童の集う不良高校、春日高校がある。しかし腐っても高校、犯罪に手を染めた者など高校のルールを逸脱する学生は退学したりさせられたりする。そんな与太者が夜は徘徊しているため、この地域を女性だけで移動することはとても危険なのだ。故に家賃は安く、だからトッシュはこの地域を選んだ。
「ふぅ、人間ってほんとこんなのばっか。守護る価値あるのかしらね」
「…全員がそうとは限らないだろ」
「おいおい何シカトくれちゃってんの~?」
与太者の一人がおっきい方に手を伸ばす。瞬間、おっきい方の目に殺気が宿る。すぐに制止しようとちっさい方が声を上げ、
「やめ…!」
言い切る前に、その与太者が吹き飛んだ。
「ろ…?」
「ん?」
そこに突如割り込んできた一人の男!その剛腕が与太者を薙ぎ払った!
「てめぇは…!」
「カス高の番長…!」
「長老フジモト!」
「てめぇら女になんばしよっか!全殺しにすッゾオラァ!」