73話 誕辰、勇者の嫡男②
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「ちょっと…なんでこいつを部屋に入れてんの!?こいつ敵なんだけど!」
突如息子のお部屋にお邪魔してきたお邪魔虫!コードネーム邪聖拳ネクロマンサーことおっきい方のジャスティスの姿に全身の毛を逆立ててちっさい方のジャスティスが警戒する。
「だって…食べ物持ってきたし…」
「はいはいお邪魔虫はほっといて19歳の誕生日をお姉ちゃんが祝ってあげるね。ほらエビフライよ。生食用だからこのまま食べてね」
「お姉ちゃんって、歳考えろよアラフォーだろ!」
「肉体的には20代半ばよ。だいたいそれ言うならアンタだって11歳くらいじゃない」
「そうねー、子供5人も産んだ経産婦さんに言われたらそりゃ私はまだお子さまだわね~ごめんなさいね~」
「むっ」
おっきほうのジャスティスの心の傷をちっさい方が抉る。ロクでもない男の子供を嫌なのに産まされた委員会での交配実験の記憶。おっきいほうが人類を攻撃するに至るそのトラウマを。
「まぁまぁ、近所迷惑だから落ち着いて。ほらエビフライ、ジャスティスも食べなよ」
「まぁ食べるけど。ていうかトッシュ、私のことお母さんって思ってないよね?その呼び方といい」
ずっとジャスティスと呼んでくる息子。召喚される前、日本で女子高生をやってたころに見たカーチャンを呼び捨てにする5歳児が主人公のテレビアニメを思い出す。そのアニメでは息子はよくゲンゴツやぐりぐりを喰らっていたものだ。自分もそうすればいいのかと考えたものだが、ずっと別離していた息子に手を上げるのは無理だった。
「…まぁ実感ないし。どっちもカーチャンって言われても…」
「そうよねー、私はお姉ちゃんだもんねー」
「なにがお姉ちゃんよみっともないわね」
「そんな言い方して、まるで私をお母さんって貴方認めてるようなものね。まぁ貴方は所詮コピー品だもの」
「むっ」
さっきのお返しとばかりに、おっきい方がちっさい方を口撃する。勇者量産計画のセカンドロット、ジャスティスコピーとして生み出された生体勇者。自己のアイデンティティーを崩壊させかねないその事実。
「ふん、ピーコだろうがおすぎだろうが関係ないね。私は自分の気持ちに素直に従うまでよ。トッシュは私が守護る。私はお母さんなんだから」
それを、ちっさい方は既に乗り越えていた。誰が何と言おうと関係ない。自分の感情に正直に生きていく。それだけでいい。生きることは、簡単なのだ。
「…面白くないわね。私は帰るわ。学校の先生は仕事が忙しいのよ」
ちっさい方のジャスティスの達観した顔が、気に食わないのか。苦い虫を噛み潰して体液が口内に広がったかのような顔をしたおっきい方は、帰宅の準備をする。
「そう、じゃあ送っていくわ。トッシュ、貴方はここでご飯食べてなさいね」
「えっ」
いやそれやばくね?とトッシュは止めようとするが、口が開かない。まるで縫い付けられたかのようにその場から動けない。ちっさい方のジャスティスが発する闘気に、抑え込まれている。
「大丈夫よ、変なことはしないわ。ほら、行くわよ」
「あらやだ怖いわね。じゃあトッシュ、また学校で会いましょう」