73話 誕辰、勇者の嫡男①
ピピピピ…。ミズキの左目に装着された測定器がトッシュの偏差値を図る。数秒後、測定器が弾きだした数値は。
「偏差値…35!上がってるねトシくん!」
「ワハハハ、まるで真綿が水を吸い取るかのように賢くなっていくのが実感するわ~」
まぁ、最初はけっこう上げられるものだが、後からは伸び悩むものである。しかしミズキは黙っている。多分トッシュは調子の乗った方が調子が出るタイプだからほめて伸ばすのが適切だと判断したためだ。
「おっともうこんな時間。部活から上がってる連中もいるし帰るか」
「そうだね、はい。これ宿題ね」
「うへぇ、今日も多いのう…」
「今日勉強したとこがわかってたらすぐ終わるよ。じゃ、また来週ね」
その時刻、部活から上がる学生たちも町に繰り出そうとしている連中がいたりと、どこかテンションが高い。それもそのはず、今日は花の金曜日。金曜の夕方~土曜の夜は1週間で一番幸せな時間だ。日曜日はノウ、月曜日という苦痛を翌日に控えた覚悟の一日だ。
「まぁ俺は寝てる方が幸せだから帰るけどね…年寄りにそんな体力はないから…そういや今日で19歳かぁ」
実母ジャスティス(11歳の方)が魔王軍にやってきて、その後ちょいちょい話をする機会もあった。その際に聞かされた自分の誕生日、それが今日の10月20日だ。これまでは魔王に拾われた日を便宜上誕生日にしていたが、当然実母ならトッシュの個人情報はだいたい知っている。誕生日もついにはっきりと判明したわけで。
「ただいまー」
「おかえりー」
「は!?」
夕方、学校からアパートに帰ってきたトッシュは誰もいないはずの部屋に帰ってきたわけで。なのになぜかそこにいたわけで。
「なんでジャスティス(11歳の方)がここにいるのよさ…」
「それこそはぁ!?なんだけど!?あんた今日誕生日でしょうが!ほらいろいろ買ってきたから食べるわよ!」
「あー…それは嬉しい提案ではある…」
一人暮らしを始めて3週間弱。トッシュの食生活は荒んでいた。毎日勉強して学生は大変だ。今までは仕事をして家に帰ったらゆっくりできたのに、今はそうもいかないから。宿題もあるから。食事も魔王軍にいたときは軍から飯が出てたのに、今は自分で用意しなきゃいけない。勉強する時間も必要でリソースの配分がうまくできないのだ。
「なら一緒に暮らす?」
「勘弁して…」
「じゃあちゃんとしたもの食べないとダメよ。はぁ、面倒見てくれる彼女でもいたらいいのにね」
彼女できたら絶対文句言うタイプなんだろうなぁ、と思うがトッシュは口にしない。しかし顔は口よりモノを言う。何を考えているのか、ジャスティスにはお見通しである。
「何よその顔。交際を認めないって言いそうって顔ね」
ピンポーン
「あら、誰かしら。もしかして彼女?」
「知らんし。とにかく俺が出るからここで待っといて」
「冷めるから早くしろよー」
はいはい、とトッシュが玄関へと向かう。数歩の距離だ、あっという間に玄関前に到着し、扉を開けるとそこには…。
「やっほー!お姉ちゃんですよー!お誕生日おめでとー!」
人類の抹殺を宣言した魔王軍から「邪聖拳ネクロマンサー」のコードネームで呼ばれる宿敵、そして現在はトッシュの通う学び舎で教師を務めマーサ先生を名乗るオリジナルのジャスティス(20代半ばの方)がそこにいた。