72話 青春、思い出へと変わる日々③
~ミッキー中央公園~
倉庫から全力で逃げてきた6人、しかし体力の限界で近場の公園に隠れる。公園のトイレの裏、ここは強姦事件も発生したことがあるくらい人通りが少ない。潜むにはうってつけである。
「…あぁ、もう。俺はナイトウの手下の両方にも負けたのか」
しばらく息を整えていた彼らのうち、まず口を開いたのは長老だった。それは憎まれ口ではあるが、自身の敗北を認めた言葉でもある。長老の胸中には諦めに似た感情が生まれていた。
「手下って、誰だよ」
長老の独り言に、ナイトウが答え、立ち上がる。それは長老の発言の訂正を求めての言葉だった。
「俺には手下なんていねぇんだけど」
「…あ?じゃあそこな二人はお前の何なんだよ」
そして、ナイトウが正しい言葉を長老に投げつける。
「友達だよ」
友達。今までの高校生活の中で長老は突っ張ることしかしていなかった。手下はあれど、友達という対等な存在は…いない。一応話をする同級生もいたが、故に高校4年目からは、皆無である。
「友達…。けっ、どうせ俺にはいねェーよ。けどな、俺ァ友達なんていらねェ。高校ってのはいつか卒業するもんだ。社会に出たらバラバラになんのは目に見えてる…。そんな無くなっちまうもんより俺は俺が一等偉ェって伝説を残すって決めたんだヨ。…まぁ、もう3敗もしちまって夢は断たれちまった」
長老がその胸中を吐露する。そう、長老は誰よりも社会に出たくないピーターパンだったのだ。彼が22歳にもなってまだ高3なのは、結局のところ逃げ続けた結果である。その逃避から目を逸らすための間違った努力を、今まで続けて来たに過ぎない。
「お前さ、疲れねぇか?」
「何?」
「限りある高校生活ならよ、上見て人を引きずりおろすために傷つけるよりもさ…」
長老を見下ろすナイトウが、長老の横に移動し、腰を落とす。そこでナイトウは正面やや上の虚空を見ながら続ける。
「…横見て友達と笑って、楽しかったっていう思い出を作ることが大事じゃねーか」
「…」
長老は横に座るナイトウへ目を向けながら、ナイトウの言葉を自分の中で考える。友達、長老はその存在を欲している。しかしいずれバラバラになっていなくなるのならば、最初から友達をいらない。その強がりを、自分に言い聞かせてきた。長老はわかっていたのだ。わかっていて、それを認めたくないがために誤った努力を今まで続け、たくさんの人を傷つけた。ただ、卑劣な行為には手を染めていない。このトイレの裏で発生した連続強姦事件の犯人をボコボコにしたのは長老だし、周辺の学校に嫌がらせや乱暴を働くカス高生たちを戒めてもいた。最もナイトウに敗れて影響力が無くなってしまったがために、その抑えも聞かなくなったのだが。ただナイトウに喧嘩を売ったのは超強い中学生が王国一の進学校に入ったという噂を聞きつけてのことで、やはり間違った努力が原因なのは間違いない。
「友達か…。高校卒業するまであと5ヶ月…もう遅いな…」
「何言ってやがる。番長ってのは拳を交えれば友達ってなもんだろ、カス高の番長さんよ」
「…!お前…俺を…友達って…」
「さて!タイバニ、帰ろうか」
残る僅かな高校生活、ついに長老は友達を手に入れた。…もっとも、3月に高校生活があと1年延びることになるのだが、今の彼はまだ知る由もない。