71話 老獪、長老の罠④
シルバーモヒカンから手紙を受け取り、生徒会長は自らの巣である生徒会室へと向かため踏み出す。その方向、廊下の影に潜む1年生の存在をピピピと音を鳴らし、測定器が生徒会長へ伝える。
(戦闘力28…我が校にそぐわない低さ…噂の裏口留学生か)
裏口留学生。トッシュのことを影でそう嘲る者たちがいる。トッシュは学力が無いにも関わらず、魔界のコネを活用することで王国一の進学校黒森峰へやって来たのだ。もちろんその留学の真の意味を生徒たちは知らない。だからこその蔑称である。
生徒会長はトッシュに目もくれず生徒会室を目指す。昼休みは残り17分。手紙を読むには十分な時間だ。
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「なんで先生はここにいるんです?」
「んー?なんでって、なんで?」
「いやトシくん真面目な顔になって出て行ったのに、先生は同じ顔してたのにここでのんびりしてるから」
「そうねー、トッシュを信じてるからねー」
トッシュを信じてる。適当に口にしたその言葉、果たして嘘か真か。マーサ先生こと邪聖拳ネクロマンサーはわかっている。どっちも本当だと。このどす黒い謀りを放置すれば、ネクロマンサーの人類根絶…は、大げさなので人類間引き計画と名を改めたが、その計画の協力者になってくれる裏切りの犠牲者が現れるだろう。
そして、トッシュならその犠牲者が出ないように未然に防いでくれるだろう。トッシュの行動自体はネクロマンサーの邪魔でしか無い筈なのだが、どこかトッシュの活躍を期待していることに、もう気付いている。我が子の活躍を喜ばない親がどこにいようか。今は一応親ではなく姉ということにしているのだが。
「ふーん。そうですね、トシくんならやってくれますよね」
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そして放課後。ナイトウの時間と、トッシュの時間が交わる。
「ナイトウくん、他校の生徒からこの手紙を預かっているんだ」
「はぁ…なんすかね…!!!」
その果たし状は、一度会長が封を開け、中身を見ている。あからさまな果たし状と書かれた封筒は処分し、何の変哲もない封筒へ詰めなおして、ナイトウへ渡している。さも普通に預かった普通の手紙なので自分は中を見ていないです、と言わんばかりに。
「ナイトウくん!」
会長の制止も聞かずナイトウは走る。目指すはその手紙に記載された場所。タイガとバーニィを軟禁している流通団地のとある倉庫へ。
「…よし、これでナイトウが乱闘を起こした場面をしっかり映像に抑えれば奴を退学にできるぞ。事前に倉庫に向かわせた生徒会下級委員たちがうまく録画してくれるだろうが、一応僕も向かうか」
学校を背に倉庫街へと向かう生徒会長は、自分の前に立ちはだかる邪魔者の存在に気が付く。その存在を、測定器が、その戦闘力を28と検知する。
「裏口留学生…」
「いやぁー、会長、これあんたの手下でしょ」
トッシュの両手には、倉庫街に張り込ませていたはずの生徒会下級委員たちの襟首が掴まれていた。
「君…!一体何を…!」
「んー、カス高生にボコられてたから助けたんですよ」
「バカな!そんなはずは…!」
それはない。あの後シルバーモヒカンに連絡を取りナイトウを退学にさせるための協力を取り付けている。いや、そもそもまだ授業中なのにこの裏口留学生はあんな場所まで出歩いていたのか。これは指導モノだ。いやそれ以前に、このままじゃナイトウ退学計画がオジャンである。
「そこをどきたまえ、トッシュくん。このままじゃナイトウが何をするかわからないぞ」
「生徒会長、アイツは友達を助けに行っただけですぜ。ていうかー、生徒会長は知ってるンすか?アイツが何をしに行ったか。つーかアンタも読んだんですよね」
「!?」
この裏口留学生は知っているのか。この生徒会長の作成を全てを。そんなはずはない。あの手紙は誰にも見せていない。ずっと自分の懐に入れていたんだ。一体なぜ…?って言いたそうな顔をしているな、と気配探知が得意なトッシュは思った。その答えは簡単。生徒会室の前で張り込み、生徒会室から出てきた瞬間手紙を暗黒新陰流無刀取りの派生、無刀取り・陰でスッたのだ。あとは手紙の内容を見て、同じ封筒に詰めて、会長の懐に戻した。それだけである。トッシュの八卦龍拳・雷の、正確にはそれっぽい別の技だが、それで会長の感覚を狂わせたことで目の前にいるトッシュを認識できないようにすればそれは簡単にできることだ。
「まぁそういうわけだから、アイツは大丈夫ですよ。友達と一緒に帰ってきますって。会長も心配で助けに行きたいでしょうけど、こいつらみたいに殴られるからやめといた方がいいっスよ」
(こいつ…!白々しいことを…!)
ここで会長の邪魔をするみたいなことを言えば指導するところだが、それくらいの知恵は回るようだ。成績がいかに優秀だろうと、あの素行不良なナイトウは退学に処しなければならない。だが、今回は裏口留学生のせいでもう無理そうだ。
「そうか…ならナイトウくんを信じるとするよ」
「それがいいっす。それじゃお疲れしたっす」
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「ハァ!ハァ!どうだこのカスどもがぁ!」
ナイトウはカス兵たちを全てぶち転がしていた。いかにケガしていようと、この程度の相手には遅れは取らない。所詮カス兵たちは平民なのだ。平民を統べる貴族にも後れを取らないナイトウの相手にはならない。その地べたに転がすカス兵たちの中にはシルバーのモヒカンが輝く、右目の部分にかっこいいイラストが描かれた子も混じっていた。
「しかしノーダメとはいかないよなぁ…」
不意に、その声にナイトウは振り返る。倉庫の入り口から、既にリタイアしたはずの、その年配の男!
「長老…」
「ハハハ、そこな君の手下に負けたと思ったか?馬鹿め!すべては俺の作戦よ!俺がやられたと思った反俺派の連中と、ナイトウ。お前らをぶつけて弱ったところを俺がおいしいところ取りって寸法よ!そして!俺はそこのカスどもと違って頭が良い!こういうことだってできるのだ!」
長老はすかさず自らの手下を二人呼び出し、タイガとバーニィを拘束させる。
「こいつらの命が惜しければじっとしていろォ!俺にぶっ斃されろォ!」