表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐、始めました。  作者: 中島(大)
133/236

71話 老獪、長老の罠②

 ・

 ・

 ・

 同日の午前に遡る。登校したトッシュは同級生と他愛のない会話をし、昼休み。トッシュは図書室へ向かう。朝から図書室に仕込みを入れているので、そこには目当ての人物以外はいないはずである。


「いよう」

「あ、トシくん…!」


 メガネをかけたちょっとボサついた黒い髪の女の子。後ろは肩に届かないくらい長さの髪であるが、それに対して前髪がけっこう長い。さすがに眼が隠れるほどじゃないが、それでも邪魔じゃないのかなと心配になる。そしてもっと長いのがもみあげ部分。鎖骨辺りまで伸びている。そして短ドスで自分を弄んだ男の脇腹を抉りに行く激しい気性の持ち主。他でもない、図書委員のミズキだ。


「意外だね、トシくんみたいのが図書室に来るなんて。ていうか今日は図書室誰もいないから暇だったよ」


 それもそのはず。トッシュは闘気を図書室周辺に展開し、人払いをしている。トッシュが受け入れた人物以外、今回はミズキ以外の人物は図書室に近づいただけで、気持ちが落ち着かなくなる。例えるなら口の中の唾液の分泌が気になって、他のことに集中できないような感じだ。


「そりゃよかった。俺頭悪いから勉強したいんだよ。あんた頭良さそうだから教えてくんね?」

「え!?」


 人に頼られることが特になかったミズキは、それが意外と嬉しいことだと気付く。ミズキは成績は上の中、割と頭の良い方だ。


「しょぉーがないわねー!何からいく!?英語!?算数!?それとも…」

「そだな…?」


 そこでトッシュ、ミズキの視線に気づいた。どうも首のあたりを見られている気がする。


「あぁ、これ?」


 トッシュは首に指先を当てる。先日クラウスに首の皮4枚ほど残して切断された傷だ。割と致命傷だったその傷、自然治癒能力を集気法で極限まで高めてなんとか命を繋げることができた。トッシュは、割と勝負に負けることが多いなと最近ちょっと気にしている。格下のギャミに負けたのが特にやばい。


「そのキズやばない?よく生きてたね」

「死ぬ四歩手前くらいだったわ」

「なんですって!」


 そこに突如会話に割り込んできたのは、マーサ先生。トッシュ(18)の実母(25~26)である。すかさずトッシュに接近し、両手でトッシュの頬を両手で挟み、首を直視する。


「あんた、なんでこんなケガしてんのよ!今も痛くないの!?ていうか傷残ってるじゃない!」

「ちょ…放せって…!」

「えぇ…いつもどこか冷めた感じのマーサ先生なのに…はっ!これはスキャンダルの予感!」

「ちげぇって!この人は俺の…」


 そこまで言って、言葉に詰まる。その出かかった言葉を、メガネが輝くミズキと一緒にマーサ先生まで楽しみに待ち構えていた。


「俺の…?」

「何かしら?トッシュくん。言ってごらんなさい」

(めんどくせぇ…)


 カーチャンと言うべきか?いや、10数年時術の封印で時が止まっていたマーサ先生との歳の差を考えると、何かのプレイだと勘違いされかねない。年下の実母(11)よりはマシかもしれないが、いずれにせよ魔界で孤独に育ったトッシュが親しい女性をママと認識して甘えてるみたいに思われるのは絶対によろしくない。どこか一歩引いた、クールな感じのキャラで学園生活を送りたいのだ。


「…お姉ちゃんなんだよ、生き別れの」

「え!?そうなの!?…言われてみれば…」


 似てるような気がしないでもない気が無きにしも非ずな気がする。なんかどこか一歩引いたクールな感じとか、確かに雰囲気的に近いものを感じて、完全なデマカセとは思えない。…のだが、それを聞いたマーサ先生の態度が、なんか信憑性を薄めている。


「そーなのよー!生き若荒れのお姉ちゃんなのよねー!14年ぶりだもんねー!」


 えらくウキウキとベタベタしてきている。トッシュ、うっとおしいと心の中で呟く。だいたいトッシュが勤務している魔王軍の敵、人類の敵って言ってたくせに何だよこの人は、と。人類を守護ると決めたトッシュは敵のはずだろうに。なんか懐柔とかとは違う、純粋な嬉しいというアーサの正直な気持ちを、気配察知が上手なトッシュは感じ取っている。


「ていうか勉強ならお姉ちゃんに聞きなさいよ!先生なんだからね一応!」

「一応かよ…。ていうか嫌だよせめて学校では友達と勉強させろって」

「友達…!」


 友達がいないナツキ、喜ぶ。


「まぁそうね、お姉ちゃん先生お仕事もあるから無理だわね。でも仕事ン後なら良いわよ」

「はいはい、じゃあ仕事に戻って…何だ?」

「…ヤな感じね」

「?」


 急に真顔になったトッシュとマーサ先生の様子に、何があったのかわからないミズキは戸惑う。ただ、この二人、確かに似てるかも、という確信だけは持った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ