70話 虎馬 タイガー&バニー①
「君、誰さ」
「魔界からの留学生って知ってる?それが俺。トッシュくんよ」
「そのトシくんはクラウスのボディーガードってわけ?ドス盗られなければ刺し殺せたのに」
「まぁまぁ、貴族を抉ったらタダじゃすまないって。それにね、アイツはもう悪さはできないよ」
「それってどういう意味?」
「その前に君の名前を聞いてもいいかな?」
「…ミズキ」
ミズキという名のメガネをかけた少女。ナツキが委員長タイプなら、ミズキは図書委員といった容貌の、おとなしそうな雰囲気を見せている。が、実際話してみるとえらく気性が荒い。ドス持ち出して刺しに行くほどだ、さもありなん。
そんなミズキにトッシュはクラウスをこらしめたことを説明する。無論、口だけで話をしても気性の荒いミズキは納得しない。自分が直接ヤらないと納得できないとカッカしている。やむなく、トッシュは誰にも言わないことを条件に、その際の映像をミズキに見せる。ライゾウに犯されるクラウスくんのアダルトなビデオを。
「えー!えー!ウソー!えー!」
どうやら満足いただけたようだ。男同士というのはある種の女性に評判が良いと聞くが、果たしてミズキはどうだろうか。見た目的にはそういうのが好きそうに見えるが。まぁ、過去の悲惨な性暴力によるトラウマが少しでも柔らいだ結果の笑みかもしれない。トッシュは変な推測は辞めておくことにした。
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「でさ!アイツ最悪なんだよ!5人もいたんだよ!5人がかりで芋づる式に輪姦しやがったんだよ!」
「あ~、そりゃつれぇわー、わかるわー」
「わかる?え?もしかして君も?」
「いやクラウスくんに犯されたわけじゃないよ。俺のケツの処女散らした奴はこれでさ」
すっかり打ち解け、結構お互いのトラウマの話まですることになった二人。トッシュもまあ聞くばかりじゃ不公平かなと、自分のレイプ被害の話を始めた。トッシュがスっと写真を取り出した。それがトッシュの初体験のお相手…そのものではないが、同一個体の写真だ。
「ブッ!人間じゃないじゃん!」
それは以前トッシュを触手責めしてきた魔獣ウニヒトデの写真。天空要塞グランガイザスの王都襲来時に大量に湧いて出た魔獣もそいつなので、魔王国の騎士や兵士の皆さんの頑張って討伐した結果、画像や戦闘能力などのデータは揃っている。残念なことにこの魔獣の犠牲になってしまった市民は少なからず出ている。ミズキは、その際にトッシュは犯されたのだろうか、と想像する。彼女は自分の下腹部が少しキュっとするのがわかった。
「そっか…これあのとき大量に発生したやつか…」
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ゴーンと、校内に鐘が鳴り響く。それは昼休み終了の鐘の音。生徒たちがぞろぞろと次の授業のため校舎内に戻っていく。
「クラウスのことはもう放置しときな。何かあったらこのビデオの筋肉モリモリのマッチョマンが何とかしてくれるからさ」
「エライのと知り合いなのねトシくんは。まだ完全に納得満足はしてないから、もっともっと痛めつけてよね」
「アハハ…まぁ、一応そのつもりだよ。それじゃね」
「うん、またね」
二人は廊下で、それぞれの教室の棟へと別れる。その様子をふと見かけたマーサ先生は、嬉しくもあり、ムカいてもいる矛盾した感情が脳内を過った。
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~放課後~
「おい、ナイトウはどこだ」
「あぁ…?テメェは…」
学校から帰るナイトウの学友二人、タイガとバーニィはどこかで見かけたような男たちに声を掛けられる。ただ知り合いがいたから声を掛けて来たのではなく、ケンカを売りに来ているのは確定的に確かだ。それもそのはず。彼らはこの地域でも偏差値が極めて低く、不良の収容所と呼ばれる私立高校、春日高校…通称カス高の連中である。意外と就職率は高い。そんな不良の皆さんが3人で黒森峰高等学校までやってきたのだ。
「ナイトウくんにボコられたクソザコどもじゃねぇか」
「あぁ!?テメェらがそんな勘違いしてんだから決着付けに来てやったんだよ!ナイトウがいねぇならテメェらを半殺しにして狼煙代わりにしたらぁ!」
「チッ、いいけどよ、場所変えんぞ。俺らはお前らと違って良い高校に通ってるからよ、人前じゃまずいんだわ」
「フン!相変わらず腹が立つクソどもだ!貴族の金魚のフンのくせに自分が偉いって勘違いしてやがる!あの路地裏に行ったらテメェラ成仏させたるから今のうちに念仏唱えときな!」
黒森峰高等学高は王国の貴族が通う特学科と平民が通う一般科に分かれている。貴族は貴族というだけで平民からは恨まれていることもあるが、当然貴族に面と向かって上等切ると翌朝には人知れず骨になってしまう。そこで、彼ら不良がタゲっているのが平民である一般科の生徒というわけだ。
「グハァー!」
「ウワァー!」
3対2という超絶不利の状況、奮戦したものの紙一重の差でリュウザキとキリサキがボコボコにされてしまう。
「へへへ、ナイトウに言っときな。次はお前だってな!ワハハハハ!」
彼らは勝利を噛みしめ、路地裏から夕陽が照らす町中へと歩いていく。その姿を、黒森峰の校舎3階の窓から見下ろす人影があった。
「…いかんな。わが校の生徒が…」
「生徒会長、言われたものを持ってきました」
「うむ、ありがとうミズキくん。そこに置いていてくれたまえ」
「はい。…会長、何を見てるんですか?」
「…不良だよ。全く、ナイトウが彼らを刺激するから…」