69話 刃傷!復讐の切先②
・
・
・
といった悲劇があり、トッシュの首は今現在も寝違えたような痛みに悩まされている。その後クラウスへの尋問はその後ライゾウが引継ぎ、トッシュと違いスマートに聞き取りを終わらせたあたり、さすが上忍のくノ一だなとトッシュは感心した。曰く、撮影した画像動画はクラウスだけが持っており、見て楽しむためというよりは脅迫のために保管していたということだ。実際に弱みを握って抱ける女がいるのに、その女の画像動画で自家発電するのは悲しいだろというクラウスが率いる、貴族学生サークル『鬼畜倶楽部』の方針によるものだそうだ。
「あ、おはようトシくん」
「おーナっつん、ナイトウは?」
「傷と疲労でまだお休み…ありがとうね、トシくん」
「んー、まぁ、感謝はナイトウにしといてね。あの子がいろいろ頑張ったおかげだからさ」
「うん…そうだね。でも、トシくんもありがとう」
「どういたしまして」
クラスの中で会話するトッシュとナツキの前に、クラウスの学友がやってきた。
「なぁ、ナイトウくん休みなんか?」
「何かあったん?」
この学友たちは事情を知らないようだ。ナイトウも話をしていないのだろう。下手に巻き込まれたら平民学生でしかない彼らの立場もまずいことになるという気遣いか。
「ナイトウくんが休みなら、ナツキ。お前に言っておきたいんだけど…」
「ボクに?」
「…ナイトウくんはさ、お前のこと…」
「…知ってる」
「そっか…、知ってたんだな。ナイトウくんがお前が飲んだジュースの使い捨て紙コップ持って帰ってたこと」
「はぁ!?」
「え?」
「ちょ、ちょっと!何それ!?知らないんだけど!?」
ナツキの耳に飛び込んできた予想外の言葉だった。ナイトウが自分をどう思っているかとかじゃなくてなんか普通に変態的行為の告げ口、そのおぞましさに震えが止まらない。
「ていうか!紙コップなんていっぱいあるじゃん…!」
「あぁ、なんか臭いでわかるんだって」
「ひいいいいいい…!」
「さすがに俺らもさすがにドン引きでさ…やめさせるように言っておいてくれよな」
(なんか、えらいなことになってるな)
この話題はトッシュには関係のないことなので首を突っ込まないことにした。そして昼休み。
体育館にはいつもクラウス目当ての女の子たちがわちゃわちゃしているのだが、今回はざわざわとしていた。クラウスは体育館の隅で元気のない様子で座っている。同級生たちが声をかけるが、苦笑いをしながらバスケの参戦をお断りしている。
クラウスくんが体調悪そうだわ保健室に連れて行かなきゃだとか、テメェ抜け駆けしようとしてんじゃねぇだとか、そんな小競り合いの中、異質な気配にトッシュは気付く。
(あのメガネの子…!)
先日クラウス秘蔵のアルバムの最新ページに乗っていた、男たちの下で泣いていた子を見たときの既視感。それはクラウスがやっていたバスケのボールが当たって震えた、今何か決心した表情をしたそのメガネの女の子だと今わかった。
「うわああああああ!」
ざわざわした人ごみをかき分け、最前列に到着した刹那、メガネの女の子が駆け出す。咄嗟のことだ、何が起こったのか周囲の人間たちは一瞬何が起こったのか理解できなかった。ただ一人、トッシュを除いて。
「うぐっ…!」
ドン!という音とともに、その女の子はクラウスに倒れ込んだ。狙いは胴体。内臓がいっぱいあってそのどれかが損傷するだけでも大惨事。女の子はその殺意の刃をクラウスに打ち込んだ…はずだった。
「お、お前…何を…」
「え…?」
女の子は、今しがた確かに握っていたその復讐の刃の存在の消失に気が付いた。そして現状を理解した周囲のモブキャラたちが大騒ぎする。
あのメスブタクラウスくんに飛び込みやがった!だの、絶対許せねぇリンチにしたる!だの、あーん私もクラウスくんに飛び込むぅ!だの、させねぇよクソブタァ!だの、別の意味で大惨事になった体育館。クラウスがやめろチンポさわんじゃねぇ!とか叫んでいたりするその騒動のドサクサに紛れて、トッシュがメガネの女の子を連れだした。
「はぁ、はぁ、はぁ…なんで?なんで?なんで?」
「お探しモノはこれだろ?」
トッシュの声に向かってふりむいたそのメガネの女の子が見たのは、刃渡り一尺足らずの短刀、所謂短ドスである。
「私のドス!なんで!?」
「俺の特技でね、人が持ってる獲物をこうスっとパクれるのよ」