66話 悪童、許すまじ①
「ごめんなさいねナイトウくん、ウチの子今日友達の家に泊まるって連絡があってね」
学校から飛び出して家までの間に頭を冷やしたナイトウは、冷静になり改めてナツキに詫びを兼ねて説明に近所のナツキ宅へ向かう。しかしナツキは帰っていなかった。生活魔術、念話。ある一定の距離内であれば離れていても言葉を伝えることができる便利な魔術だ。一般人の念話はそこまで遠くまで飛ばすことはできず、盗聴も容易なため重要な連絡には使われない。所詮生活が便利になる程度のものである。
「そうっスか…失礼しました…」
ナツキの魔術師は一般人レベルである。あまり遠出はしていないだろう。クラウスの手下の企みは土曜日だが、万が一もある。クラウスはナツキの自宅まで念話が届く範囲を想定して捜索を開始する。明日の学校なんて休んでも構わない。不良ではあるがサボリはあまりしていないから余裕もある。
「クラウスん家が怪しいか…よし」
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ギシ、ギシと部屋の中に響く軋む音。同時に生じるパン、パンと同じリズムで肉がぶつかる音は、水を含んだ湿った音も内包している。ベッドの上で重なる二人の人影。小さな影が、後ろから大きな影に覆いかぶさられている。明かりを消したその空間に蔓延するその臭いは、外から来た人間の鼻を突くだろう。汗に濡れる体が激しく前後に動き、汗とは違う体液が纏わりヌラヌラとした光沢を持つ男性器が、ナツキの股間の茂みの奥にある秘所から出入りしている。
「あのナイトウって子、ナツキのことが好きなんだよね…一回ヤらせてあげなよ」
「冗談でもそんなこと言わないでぇ…」
「アハハ、こんなにエッチなのにひどい子だなぁ」
スパンとナツキの尻にクラウスの平手が炸裂する。
「あいたっ…違うのぉ…先輩じゃないといやなんですぅ…」
「ナイトウくんが聞いたら泣きそうだな…そろそろ出るよ…ウッ!」
腰を打ち付けるリズムが一気に加速し、そして制止する。その後ゆっくり2回、3回と腰を押し込み、二人の繋がりが解ける。二人はベッドで向き合いながら横になる。紅潮したナツキの顔をみて、クラウスは達したのだろうとある種の満足感で満たされる。
「はい薬。明日の学校が終わったらまた泊まりなよ。明日は花の金曜日、いっぱい一緒にいよう」
「うん…先輩…」
「なに?」
「ボクは今誰を見てるでしょうか?」
「えー誰だよーこのこのー」
「やだもーちょっとくすぐったいですー」
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「ここがあの野郎のハウスね…すんげー厳重…入れるかこれ?」
辿り着いたクラウス先輩のマンションは24時間体制で超爵が雇った特別1級ソルジャーたちが防衛しており、侵入は容易ではない。マンションは四方を塀に覆われ、マンション入り口にはアンパンと牛乳をほおばるソルジャーが二人。ナイトウはソルジャーの暇つぶしの雑談に聞き耳をたてる。
「クラウスぼっちゃん土曜日にまたアレやるらしいッスね先輩」
「あぁ…ぼっちゃんの友達が遊び終わったあとは俺たちも参加できるから楽しみにしようや」
「一夜で10人斬りであっという間に大人の女性の仲間入りっスねあのメガネっ子も」
「おいおいぼっちゃんにもう大人にされてるだろ」
ケタケタ笑うソルジャーの話にナイトウの顔が青ざめる。このまま放っておけば土曜日にレイプ事件が発生してしまうこともそうだが、同時にはっきり伝えられた、うすうす感づいてはいたが認めまいとしていたナツキがクラウスに手を出されてしまっているという事実に…頭がどうにかなりそうだった。頭を抱えているナイトウの傍に、スタっと何者かが飛び降りた着地音。傷心のナイトウに遭遇したのは、またしても。今しがたまでクラウスのマンションに潜入していた留学生トッシュだった。
「留学生ぇ…」
「はいはい、言いたいことはわかるからあっち行くぞ。見つかったらやべえからな」