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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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65話 信頼、って大事②

「こいつはお前を…!」


 そこまで言ってナイトウは言葉に詰まる。そのまま伝えるには品が無いその言葉を、うまくオブラート包んでビブラートを利かせた言い方がうまく出てこない。思考の言語化というのは意外と難易度が高いものである。職場の環境を変えたいときに上を納得させて動かす言葉、これがスムーズに出る要領のいい奴もいるが、ナイトウはそうではない。


「なにさ?」

「くっ…!」

「もういい、行こうかナツキくん。ナイトウくん、彼女に近寄るなとは言わないが、迷惑はかけないでほしい。彼女のことを思うなら」


 クラウス先輩がナツキを連れて行こうとする。ボタモチで一緒に歩ける思ってもない展開に、ナツキはちょっとナイトウに感謝する。


「こいつは!…手下にお前をレイプさせようとしてんだよ!」


 もうそのまま言うしかない。ナイトウは意を決してそれを口にする。しかし口だけでは人は動かない。うまく思考を言語化しても、上を納得させる証拠やデータがなければ動いてくれないのと同じように、思いだけではままならないものだ。


「…最低だよ、お前」


 そう呟いて、ナツキはクラウスと外へ歩いていく。クラウス先輩はたまにいろんな女子と一緒にいることが目撃されているが、その優しさで人助けをした結果だと周囲は納得している。今回もその一環と周囲は見ているだろう。何度も続けば怪しまれるだろうが。


「先輩…顔が腫れてますね…すみません…」

「あぁ…いや、ナツキくんのせいじゃないよ。…ウチ、寄っていくかい?」

「…はい!」

 ・

 ・

 ・

「ナツキィ…違うんだよ…そいつはお前を…」


 邪聖拳ネクロマンサーとまさかの邂逅をし、学校探検のやる気をなくして帰ろうとしていたトッシュは、下駄箱で項垂れて涙を流すナイトウとばったり遭遇してしまった。


「うわ」


 そう言うしかない。学校初日、ナイトウの比重が多すぎる。最後の最後にこれかよとトッシュは煩わしく思う。だからそのまま横を通り抜けようとする。


「留学生えええええ!」


 が、そうは問屋が卸さない。すかさずナイトウがトッシュの腰に纏わりついて来る。


「…なにしてんのお前?」

「俺を…いやナツキを助けてくれええええ!」

「…どういうこと?」

 ・

 ・

 ・

「尿管結石が出てきてな、ちょうど学校も終わるころでな、俺帰ろうとしたんだよ。そしたらお前が一人で貴族校舎まで歩いてくの見えてな、何企んでやがるって後をつけたんだよ。」

「後をつけんなよ…」

「それで聞いてしまったんだよ!貴族学級の蹴鞠部部室でクラウスといつもつるんでる取り巻き連中がな…!今週の土曜ナツキを輪姦まわすって笑ってやがったんだ!」

「…それで、ナツキにそのまま伝えて嫌われたってとこか?」

「…」

「ていうか証拠は?お前不良ならその場に殴り込みに行けばよかったじゃねぇかよ。騒ぎしてしまえばよかったんじゃね?」

「奴らは貴族だ…騒ぎになったところで握りつぶされる…俺はどうしたらいいんだよ!クラウスは超爵の末っ子だ!めっちゃ溺愛されてるから学校は何があっても奴の味方だ!」


 今日は木曜。土曜はトッシュは考える。果たしてこのナイトウの言うことは事実なのだろうか。こいつは学力はあるらしい。なんだかんだで平民学級の成績上位20位内には入っている。しかし頭は悪い。誰かに騙された可能性もあるかもしれない。


「その子の言っていることは事実さ」

「!」


 先ほど聞いた声と同じ女性の声。その主は間違いなく、邪聖拳ネクロマンサーのものだ。


「ジャス…ネク…マーサ先生」

「えらいぞトッシュくん、間違えなかったね」

「マーサ先生!知ってんなら奴らを止めてくれ!」

「君も今言ったじゃないか。奴らは貴族の子息たち。私たちじゃ止められないのさ」

「くっそ!それでも教師かよ!」


 バタバタとナイトウは走って校舎から出ていく。またも邪聖拳ネクロマンサーと二人きりになったトッシュは気が滅入る。


「ところでネク…って何だい?何と言おうとしたのかな?」

「あぁ…魔王軍オレらは、ていうか魔王ボスがアンタを聖拳の勇者ジャスティス改め邪聖拳ネクロマンサーと呼称することにしてるんだ」

「へぇ…!かっこいいねそれ!夜中に一人じゃ危なそうな名前でいいじゃない。それもらったよありがとう」

「あぁ…気に入るんだ…。ていうか、アンタらはクラウスのことどこまで知ってるの?」

「全部さ。彼は気に入った女の子を弄んで飽きたら手下に輪姦まわさせて写真撮ってそれを弱みに売春させてるのさ。一番最近だと大人しそうなメガネの女の子が餌食になってたね。ていうか今遊んでる子もだしメガネ好きなのかな。もみ消すのも大変さ」

「大変だってんなら、アンタなら止められるだろ。ジャスティス」


 あえてジャスティスと呼ぶトッシュの嫌味を、彼女はあっさりと躱す。


「さっき言っただろう?人間に絶望した若者は私たちの同志に相応しいのさ。彼にはぜひそうなってもらいたい」


 ナイトウは学力優秀、不良として名を上げるほどパワーもある。割と優秀な人材だろう。ネクロマンサーの同志になればきっと頼もしいに違いない。


(それじゃいけない。俺がここに来たのは学生生活をただ送るだけじゃない)


 この黒森峰高校は人権学習と称して魔族への差別を助長してることを、トッシュは事前にそれを知らされている。その上で、この学校の意識を変えるために、生徒の魔族への偏見を無くすためにトッシュは送り込まれている。ナイトウには人間に絶望してはいけない。この王国社会を支える未来の柱の一人。ならばトッシュがやるべきことは…。


「そう、じゃあ俺がやるよ。悪い人間にはめっ!して、この学校での信頼を手に入れてやる」

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