65話 信頼、って大事①
(先輩かっこよかったなー)
ナツキは昼休みに見たクラウス先輩の活躍を思い出す。女の子たちから大人気で、なにかするたびに歓声があがるそのかっこよさ、濡れる!しかもかっこいいだけではない。すっごい優しい。ナツキに合図を送ったあのあと、ボールがあさっての方向に飛んで、一人の女子に勢いよく当たった。その子は背の低い、内気な、ナツキと同じようにメガネをかけているが気の強いナツキと反対のいかにも図書委員タイプの子だ。ボールが当たって驚いたのだろう、ビクビクしているその子にやさしく手を差し伸べるそのやさしさはまさしく慈愛の化身。まぁその子が先輩が離れたあともビクビクしていたのは仕方のないことだろう。クラウス先輩と手を繋いだとあっては、そりゃあ周囲の視線が痛い痛い。
(ボクもバレたらやばいなぁ…ウフフ)
言葉とは裏腹に、余裕が見て取れるナツキの態度。あれは夏休みのことだった。夏休みの課外授業があり、研修室で人権授業を受けていた。夏休み中に複数回開催され、必ず1回出ないといけないそれはクラスも学年も貴族平民も同じ場所で授業を受ける。人権授業を謳うだけあって、区別はしないというわけだ。人権授業の内容は、王国民は貴族平民と大きく分かれているが平民の中にも階級があるのだが、階級の違う人を差別、特に最下層の人たちを差別するのはやめましょう、差別していいのは魔族だけですと教えているものである。その課外授業で、空いていたナツキの隣に遅れてきたクラウス先輩が座って来たのだからびっくりだ。
そして緊張のあまりナツキはオナラが発動してしまった。爆笑に包まれる教室。人権授業で学んだことを学生たちは生かすことなく笑いながら犯人捜しを始める。あのあたりが怪しいなぁ~と、ナツキの場所に視線があつまったその時だ。
「いや~隠しきれないかぁ~許しておくれ」
クラウス先輩が、自分が屁をこいたと名乗りを上げたのだ!優しすぎるだろコンチクショウ!神かよ!かっこよさに優しさがプラスされその魅力は1+1が200になる!10倍だぞ10倍!惚れるには十分すぎる!
授業後、クラウス先輩と二人きりになって…二人きりになるもの至難だったが、先輩に声をかけようとしたナツキを察してくれたからできたことだが、お礼を言って、じゃあお詫びに一緒に遊んでよと言われて、それから夏休みの間に何度か会って、なぜか告白されて、お付き合いを始めることになって。…きゃー!
ナツキは今日もクラウス先輩と一緒に帰る約束をしていた。この日ナツキは学校に残ってプリントの整理をする委員長の職務があり、帰るのが遅くなる。危ないからと、一緒に帰ろうと言ってくれたのだ。一緒に歩いていくのは周りの目もあるので、こそっとクラウス先輩を送迎する馬車に後から合流する形で。
だからクラウス先輩と会うのは学校の外のはずなのだが、なぜかその日、クラウス先輩が下駄箱にいた。後者の中には生徒はほぼ出払っており、ナツキは自分を待っていたのかと一瞬期待したが、それは違った。クラウスは学校の外に出ようとしたところを絡まれていたのだ。同じ1年の不良生徒、ナツキのご近所さんのナイトウに。
「てめぇ!ナツキに何をするつもりだ!」
「何って…君は何を言っているんだ?」
「とぼけてんじゃねぇ!」
もう本当にいい加減にしてほしい。どこで知ったのかはわからないが、きっとナイトウはクラウス先輩と自分の関係に気付いたのだろう。こんなバカなのに自分より学力あるのが余計に腹が立つ。まぁ学力が無ければ不良のナイトウはすぐに退学だからさもありなん。
「ナイトウ!何やってんだよ!」
「ナツキ…!お前…!」
「ナツキくん…君の知り合い…あぁ、彼がナイトウくんか」
「すみません先輩!ナイトウお前先輩から手を離せよ!」
「ダメだ!今回はお前の言うことは聞けん!」
いつもはナツキが怒ったらすごすご引き下がるナイトウだが、今回は引かない。ナイトウが自分を好いてることはわかってはいるが、だから今回は頑ななのだろうか。続けてナイトウが言い放つ。
「ナツキ!お前は騙されてるんだ!」
「…はぁ!?」