64話 登校、王立黒森峰高等学校③
放課後。トッシュは探索も兼ねて暇つぶしに学校をぶらついている。トッシュは知らない場所が好きだ。知らない道の先に何があるのか知りたくて、子供の頃はつい道草を食って道に迷い半泣きになっていたものだ。しかしそれが世界の広げ方である。トッシュの地図が広がり、新しい世界へと繋がっていく。その探究心は外に限らない。建物の中もいけるところは全部行きたいと、そうやってあちこち巡り巡る。その結果、トッシュは知ることになる。この学校にいる意外な人物に。
その出会いは幸運か。世界を脅かす存在にいち早く知ることができたから。
その出会いは不幸か。世界はおろか、トッシュの学生生活すらも脅かす存在かもしれない。
「驚いたよ、まさかこんなところで出会うなんてね」
「!!!」
夕焼けが照らす廊下で、トッシュを見つけたのはパンツスーツ姿の、メガネをかけた女教師。その顔は忘れもしない。人類皆殺し宣言をした世界の敵、聖拳の勇者ジャスティス(大人ver)こと、邪聖拳ネクロマンサー!
「おっと、騒ぎは起こさないでくれ。私は今マーサ先生なんだ。この学校で算数の教師をやっていてね」
「なんで教師なんてやってんだよ…人類皆殺しにするんじゃないのかよ」
「先生にタメ口はいけないな。まぁいいか誰もいないし。…それをやるにもお金がいるものでね。コネで夏休み明けから働いているのさ。それに皆殺しってのも言葉の綾というやつだね。この学校に私と一緒に理想の社会を作ってくれそうな資質がある若者がいたら誘おうと思ってさ」
「それ絶対失敗するやつだろ、内ゲバで」
「フフフ。かもね。それならそれでかまわないよ。人間はやっぱりダメだとはっきりするだけさ」
「…」
「そう身構えないでくれるかい。私は闘うつもりはないよ。トッシュ、勉強は大事だ。お前が卒業するまで待っててやるさ。失った青春を謳歌してくれたまえ」
そう言って、マーサ先生は廊下の奥へと進んでいく。トッシュは校舎の探検をする意欲がすっかり失せていた。
「…イクスシェイドに報告しとくか」
アレが意識を戻した直後は話すときに「………」があったのに、随分饒舌になっていたというレビューを添えて、トッシュは家に帰って報告するのであった。