64話 登校、王立黒森峰高等学校②
お昼休み。10分の休み時間ではいけない学校の遠くまでナツキはトッシュを案内しようとする。
「待てィ!」
そして乱入するのはナイトウだ。休み時間にクラスメイトから聞いた話でこの子がナツキに惚れているというのは既に分かっている。そら自分以外の男と一緒じゃ不愉快だろう。が、ナツキは賢そうな見た目通りにこのクラスの委員長であり、委員長として校内を案内するお役目があるのだ。
「もういい加減にしろよナイトウ!ボクの邪魔をいつもして!」
「だったら俺が連れて行ってやんよ!それでいいな小僧!」
高1の子供に小僧呼ばわりされてトッシュはムッとした。別にナイトウの案内でも構わないのだが、無礼な口の利き方は見過ごすわけにはいかない。トッシュはトン、とナイトウを軽く押しのけて、こう言った。
「いや、遠慮する。ナツキさんお願い」
「テメ…!ぐぅ!?」
直後、ナイトウの腹部に激痛が走る!腹部を抑えて蹲る!その原因はトッシュが接触した際に気でナイトウの肉体を操作し、尿管内に0.5mm程度の石を作ったためだ。八卦龍拳のちょっとした応用である。
「おや?お腹が痛いのかな?ナツキさん、じゃこいつを連れていくついでに保健室案内してくれる?」
「全くお前はなんか変なモノでも食べたのか?ほら歩けないわけじゃないだろ行くぞ」
ナツキがナイトウを足で軽く小突いて、歩行を促す。1年で1番の不良のくせに、ナツキには何されても手を出さないから本当に分かりやすい男だ。ナツキもその好意に気付いてないとは思えないが…とトッシュはふと思う。
「ここが保健室だよ。保険の先生はいないね…まぁいいか、後は自分で言っときなよ」
「うぅ…」
最早声も出せないナイトウである。尿管結石は本当に痛い。
その後、校舎に併設されている体育館へとやってきた。ちょうどバスケをやっている生徒たちで盛り上がっていた。その中でひときわ目立つのが、3年のジャージを着ている金髪の男子。3Pやらダンクやらアリウープやらで獅子奮迅の大活躍に、周囲の女子たちが黄色い声援を上げる。バスケをやってる男子も、その先輩をやるなお前ーとかちょっとは手加減しろよーとか、その金髪に馴れ馴れしく話すことで俺はこいつと仲良しなんだよと周囲にさりげなくアピールしている。もちろんそんな浅い考えは女子たちにはお見通しなわけだが。
「あー、やっぱかっこいいなぁクラウス先輩…お父さんは王国に二人しかいない超爵で、気さくな性格で、髪はサラサラしてて、イケメンで、モテるんだよなー」
と、トッシュにクラウス先輩を紹介するナツキは、他の女子とは違う余裕が感じられる。興味が無いというわけではない。思いっきりかっこいいと言っているが、他の女子の憧れがこもった声色とは様子が違う。
「へー…ナイトウに匹敵するイケメンさんだね」
「冗談でも怒るよ?」
茶化すトッシュにちょっとキレ気味のナツキ。トッシュはおちょくるのをすぐにやめる。ふとクラウス先輩がこちらに視線を向けた時だ。クラウス先輩は確かにこちら、というより隣にいるナツキに向けて片目をバチコンと閉じて合図を送ったように見えた。ナツキの前にぞろぞろ湧いている女子たちは、あれは私にしたのよいいや私よとてんやわんや。そんな騒ぎを見るナツキの目には、優越感のようなものが感じられた。
(あー…そゆこと…)
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