64話 登校、王立黒森峰高等学校①
NTRはいい。心を豊かにする
王立黒森峰高等学校。王国に存在する高校の中でも上から2番目の偏差値を誇るエリート校である。王国の貴族たちがコネで進学するが、平民は試験で良い成績を出さなければならない。王国の未来を支える原石たちが在籍している高校にトッシュは留学することになった。
「後期からウチのクラスに魔界からの留学生が来るんだっけか、やばくね?」
「肌が青色の魔族とか来るんかね、なかなか慣れないよねぇ」
「チッ、何が魔族だよ舐めたマネしたら全殺しにしてやんべ!」
このクラスはトッシュが入る黒森峰の平民クラス。ト貴族クラスに入れると後々問題になるかもしれないと学校側の判断である。もし学生に何かあっても平民なら大丈夫だろう、と。そして、この黒森峰は校則が割と緩く、ガラの悪い生徒も少なくない。そんな生徒を集めたクラスでもある。ちなみに偏差値1位の同心学舎高等学校はガチガチの校則で男子は坊主が強制されている。
(なにが魔界の留学生だ…この不良クラスでいじめられてしまえ)
という校長の嫌がらせでもあった。
「はいお前たち静かにしなさい。えー以前から行っていた魔界からの留学生が今日からこのクラスにやってきます。入って来なさい」
ガラガラ、と扉が開く。慣れない学ランに身を包んだトッシュが緊張した顔でクラス一同の前に立つ。
「えー…名前はトッシュって言います。えー、事情があって人間なんですけどちっさいときから暮らしてました。えーロクに勉強できなかったんで、え、今回の留学でいろんなことを学べたらいいなと思ってます…えー、よろしくお願いします」
えーが多いな…とクラスの一同が思ったことだろう。そんなスラスラとみんなの前で話すなんてよほど訓練してないとムリてなものだ。まばらな拍手が数秒あり、担任がトッシュの席を案内する。窓際の一番後ろに急遽用意した席。そこへと向かう道中、机の横から右脚がトッシュを遮るように出されていた。その顔はニヤニヤとトッシュを舐めた目だ。おそらくこのクラスでも柄の悪い生徒なのだろう。他の生徒と比べてえらく長い学ランだ。所謂長ランというやつだろう。トッシュは一応その辺の下調べはしてきた。
(舐められないためにここは大事よな)
トッシュは、右足を大きく振り上げ、その長ランの奴の机の上に足を乗せる。
「!?」
長ランが驚く間もなく、トッシュはそのまま机に乗り上げ、左足で長ランの顔面を踏んず蹴る。
「ぶべ!」
後の机に長ランの後頭部を押し付け、そのまま踏み抜いて次の歩みを進めようとすると、長ランが抵抗を見せ足を掴みに来た。それをいち早く察知し、トッシュは左足を戻して避ける。バランスを崩して地べたに尻もちをつく長ランを、机の上で直立で見下ろす形になる。
(こんなもんでいいか)
トッシュは満足し、自分の座席までふわっとジャンプし、鞄を机の横にかけ、椅子を引き出し、着席する。周囲の生徒も驚きで無言である。
「え、えー、はい。じゃあそう言うわけだから、くれぐれも問題は起こさないように」
そそくさと担任が教室から出ていく。長ランが立ち上がってトッシュに近寄ろうとした瞬間、トッシュの隣の女子が話しかけてきた。
「すごいね君!あんなジャンプしてさ!何か運動やってたの?あ、ボクはナツキっていうんだ。よろしく!」
眼鏡をかけた女の子は、どっちかというと気が強そうな雰囲気だ。黒い髪は肩までの長さで、長い前髪も中央で分けて肩まで届いている。図書委員というよりは委員長タイプに分類されるだろう。トッシュが返事を返そうとするが、さっきの長ランが割って入って来た。
「ナツキィ!こんな奴と話してんじゃねぇよ!」
「はぁ?なんでアンタにそんなこと言われないといけないわけ?アンタが嫌がらせするのが悪いんじゃあないか」
「ぐぐ…俺は1年の番格として舐められないためにだな…」
「知らないし。何言ってんのか意味わかんないんだけど。トッシュくん、休み時間になったら学校案内しようか?」
やっと話せる、とトッシュが返事をする。
「あー、じゃあお願いしようかな」
「てめえ!なんで断らねぇ!」
「こらナイトウ!トッシュくんに当たるな!もう授業始まるから席に帰れ!」
「ぐぐ…!」
すごすごと引き下がるナイトウと呼ばれた長ラン。
「ごめんね、アイツ家が近所で昔からこうなんだよ。ほんと迷惑でさ」
「幼馴染ってやつ?」
「そういうやつ。はぁ」