62話 復讐、生きる目的②
痛風いたい。いっぱいいたい
復活した大人ジャスティスに視線が集まる中、トッシュは一人首から上を失ったグランガイザスの残骸、首無しガイザスをチラ見する。その視線の動きに、トッシュに注視していたジャスティスは違和感を覚えた。
「おい、聞いてんのかいジャスティス」
意識がこっちに向いてないのでむっとしたマユがジャスティスを呼ぶ。
「あー………すまんねサン。で、何の用?………邪魔するならひっぱたくが?」
「いや、一人は寂しかろうから私も一緒に手伝ってやろうさねってね」
「へえ………そういやアンタもグレゴリオに犯されてたんだっけ。………まぁいいんじゃない」
「ありがとよ。あと私は今はマユって名乗ってるからそこもよろしく」
「あら見た目と違ってかわいい名前じゃないか。………じゃあ私も名前変えようかしら」
人間ブッコロ宣言のジャスティスについて行くと言い出したマユ姐さんに、トッシュはここで大人ジャスティスを止めなきゃならないと決心する。その気持ちの根元にあるのは嫉妬か、それとも…。
(やれ!ピクシー!)
トッシュが心で念じる破に応え、首無しガイザスの肉体が変異する!一瞬で変形したその肉体は、トッシュの能力を完全再現した魔王軍の新たな不死の軍団長ラン!その身に纏うは三騎士筆頭ピクシーの遺したスクラムハルバード!
(殺った!)
暗黒新陰流無音必殺の剣『百閉』!気配探知にかからないために最小限の動きで繰り出す気配無き太刀…ハルバードが、大人ジャスティスの右手に…捕まった!?
「危ないね………グランガイザス?いやちょっと違う………?」
その槍は大人ジャスティスに届かず、その聖拳に食い止められた。そのまま槍を引っ張り体勢が崩れたランを蹴り飛ばす!大人ジャスティスの聖拳キックで吹き飛ばされ、ランは王都の瓦礫の上で嘔吐する。
「ガハァ!馬鹿な!グランガイザスの本体ガイザスコアを完全に掌握したこの魔人騎士ランを一撃で…!?」
「チッ!」
その様につい舌打ちが出てしまうトッシュ。その舌打ちはいけない。トッシュが首無しガイザスをチラ見したから大人ジャスティスは何かあると警戒していたのだから。
その様子をずっと言葉を失って見守るサン。状況が全く理解できていない。なぜかジャスティスとは別に存在している、もう一人の憧れのお姉さま大人ジャスティスがなぜか人類ブッコロ宣言して、かっこよく成長した未来の自分が、その大人ジャスティスについて行く宣言して、今までジャスティスと思っていた少女ジャスティスはその二人に敵対心を隠さない。
「マユ!アンタまでなんてこと言ってんの!戻って来なさい!」
「ジャスティス…悪いね。別にアタシは人類の味方ってわけじゃないさね。いろいろ辛い思いしてアラサーになってんのさ。そこのサンみたいに助けてくれる人もいなかったしね」
マユはサンを恨めしそうに見る。サンもマユと同じ辛い経験をしているが、すぐに過去へ飛んだトッシュと出会い、時を超えジャスティス(少女ver)と再会している。マユのように追手を恐れ、王都のアンダーストリートで風俗嬢をしながら身を隠していたような過去はない。
「お姉さま…マユさん…そんな…」
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「イクスさんがふっ飛ばされた!」
時は少し戻り、封印が解けられたジャスティスが魔王イクスを吹き飛ばして黒焦げにした直後のこと。イクスと一緒にいた伊集院は急いで後を追おうとするが、それをもう一人の同行者、死神イクスデスが遮る。
「待ちたまえ伊集院くん。君は行ってはいけない。彼女には勝てないよ」
「おいおい…アンタのボスがぶっ飛ばされたんだぞ、助けにいかなダメだろ!」
「いや…ボクは別にイクス様の部下ではないよ。ボクには彼に協力する義理はあっても義務はないのさ」
「どういう意味だ…!?じゃあお前は誰の味方なんだ!?」
「君の味方さ、伊集院くん。ボクは死神。この世界の死を司る神の一柱として、この世界を守る義務を持っている。君とジャスティスを呼んだあの女神の同志というわけさ」
「死神って…マジの神ってことかよ」
伊集院はこの世界に自分を呼んだ白い髪の女神の話を誰にもしていない。それを知ってるということは、心を読んだか、過去を読んだか、あの女神の一派か。
「伊集院くん。勇者ジャステイスが何をしようが、それは神の意思でもある。誰にも止められない。そして、君がここで戦う敵はグランガイザスでもジャスティスでもない。あの空の向こうからやってくる侵略者…宇宙海賊ネオデビルクロス。こんなとこで命を散らしてはいけないのさ」
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「あいつ…グランガイザスの本体を掌握したって言っていたね……危険……かな、殺しておくかな」
復活したランに止めを刺すべく動きだす大人ジャスティスだったが、その歩みを、3人の女性が止めた。
「………アタシのデッドコピーか」
それはグランガイザスの切り札、案内人と呼ばれた3人の勇者量産計画の完成品。そのジャスティスの力を持つ3人に加え、さらにジャスティスの心を持つ少女ジャスティス、魔王イクス率いる魔王軍幹部、まだ聖女のサン、そして…。
「トッシュ……」
勇者の子トッシュが、立ちふさがる。マユが同調したとは言え、戦力差は不利だ。
「ジャスティス…ここは引いた方がいいさね。アタシをここに飛ばした連れやアンタの産んだガキたちも来るかもしれない」
「しょうがないね………一旦退くとするよ」
踵を返してどっか帰ろうとするジャスティス。その背を向けた瞬間、死ねぇと言わんばかりに案内人たちが、少女ジャスティスが、魔神指令サガが、竜将フォーゲルが飛びかかる!
バチィ!
その瞬間、その場にいる全員の体に走る強烈な電流!マユの八卦龍拳雷にが全員をスタンさせる!
「例を言うわねマユ………私も名前変えようかしらね。後で考えよう」
一瞬で二人は姿を消す。まるで雷のような速度で。この日、人類の新たな脅威が出現した。