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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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番外編 風雲!たぬき食堂④

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「お待たせしました。マグロカツ定食です」


 その後、店内に案内されたサガに料理が振る舞われる。王都の西部にあるキサタ市場でとれたマグロで作ったカツに、自家製タルタルソールをふんだんにかけて食べるとご飯に実に合う。合間合間に食べる付け合わせのキャベツが、カツによる胸やけを抑えてくれる。カツとキャベツの黄金ゴールデンコンビにサガも舌鼓。


 ガチャリ、とそこに新たな来客が二人やってくる。ウェイターはサガの連れの二人かなと目を向けると、驚愕した。


「ジジィ…!」


 一人は確かにサガと一緒に来店した男。そしてもう一人は、ウェイターにとって因縁浅からぬ男。


「ポコネロス…もう貴様は料理人ではないのか」

「…ジジィ、俺は俺の能力を生かして客を幸せにしてるだけだ。この店に不満を持った客はいままで一人もいない」

「ならば自分の店を持てばいいじゃろうが。なぜワシの店でやる。このバカ弟子が!」


 そう、この爺さんはポコネロスの料理人としての師匠だったのだ!


「なるほどそういうわけなのね。で、自分の能力、幻術でうまい料理を食わせてると錯覚させてるわけか」


 カークスの指摘にポコネロスの顔色が変わる。


「表向きシェフではなくウェイターとして振る舞っているのは後ろめたさ故か?」


 店の奥からさらにもう一人、サガの連れのトッシュが出てきた。


「な!なんで店の中から!?」

「そんなの、調査のためよ。厨房にはマグロなんて無かったし油も無かったぞ、どうやってマグロカツを用意したんだろうね」

「ポコネロス。彼らはもうわかっておるのじゃよ。お主の店のカラクリが。じゃからワシもこうしてこの場におるんじゃろう?」

「くっ…」


 ポコネロスは料理の才能と同時に、驚異的な魔術の才能も持ち合わせていた。彼はその魔術の才能、特に秀でた幻術を行使することで、ただの野菜サラダをあらゆる料理へ錯覚させることで一流の評判を手にした。


 しかしその虚構はあばかれた。所詮は幻の名声。いつかはこんなときが来る。ポコネロスの師である老人は、そのからくりを解き明かす者を待っていたのだ。


「ワシはあの店にはたどり着けぬ。その理由は想像できるじゃろう?」

「だいたいはな。だから俺の術で行くさ」


 カークスのダークストーカー忍術の一つ、蜘蛛遣くもし。先にたぬき食堂に辿り着いたサガにくっつけていたカークスのペットの蜘蛛ゴライアスバードイーターの、そのケツから伸びてる糸を辿ることで、たぬき食堂に到達することを可能とする秘術。幻術は対象の意識を惑わす能力。故に意識全をく使わず、ただ糸を辿る行為のみならばその阻害を受けることは無い。おそらく爺さんと行動を共にすることでカークスも幻術の影響を受けると予測し、カークスも目を閉じ、たぬき食堂へと到達した。


「さぁ、お前が料理の道を捨てた理由はわからんが、もうこれまでじゃ。御三方、ポコネロスをひっ捕らえてくだされ」


 もはやここまでかと力なく項垂れるポコネロスの耳に、サガの声が届く。


「は?いや俺らは彼をウチのシェフにスカウトに来たんだけど」

「は?客を騙すポコネロスを断罪に来たんじゃないの?」

「あー。そういうことだったのね爺さんも目的は。ウチのボスはポコネロスさんをシェフとして雇うために俺らを遣ったんよ」

「で、彼のカラクリを知った上で、その方針は変えなかったのさ」

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「なん…だと…。幻術…だと…・う~む」


 サガたちはたぬき食堂のカラクリを魔王イクスへ報告する。魔王軍のシェフとしてスカウトする予定ではあったが、そのような騙しを行っているのならば話は別だろう。ちゃんとした料理を作れない者を、どうしてシェフとして雇うか。このスカウト話を中止にしようかと考えるイクス。その通信会議の場に突如乱入者が割って入って来た。


「待ちなさい!そのシェフは絶対に雇いなさい!」

「んが、ジャスティス!?」


 突如乱入する母の声にトッシュは間抜けな声を上げてしまう。


「トッシュ!アンタはジャンクなものばっかり食べてお野菜ぜんぜん食べないでしょ!このままじゃ9年後には尿管結石になるし19年後には痛風にもなるわ!そのシェフの力ならお野菜をおいしく食べられるでしょ!うちに必須の人材よ!」

「…まあ、健康管理には役に立つか。サガよ、スカウトは継続して動いてくれ」

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「というわけさ」

「この爺さんはどうあれ、ウチはアンタを必要としている。魔王軍専属シェフになってくれあないか」

「条件がある。この店があるニグォの山を守ってもらいたい。俺はそのためにここにいる」


 いつごろからか、ポコネロスの臀部にモフモフとした尾が姿を現していた。そして、その頭には丸いお耳が。そう、ポコネロスはたぬきの獣人だった。


「この山に蔓延る害獣トラッシュパンダから、我がたぬき一族を守ってくれるなら、力を貸そう」

「よかろう。このニンジャ軍団長カークスが責任を持ってこの山を守ろう」

「そしてもうひとつ…ジジィ。アンタに俺の本気の料理を味わってもらう!」


 突如、たぬき食堂の店内が割れる!物理的にではなく、まるで何か別の空間が侵食するかのような現象!


「ばかな!これは空術!」


 トッシュはポコネロスが行使するハイレベルの空術に驚く。店内に出現したのは…厨房だ!


「ここは我が無敵の料理空間!あらゆる海や山から新鮮な素材を一瞬で転移させ至高の料理を調理する!さぁジジィ!俺は決して料理を捨てたわけではない!幻だけが俺じゃないのを証明してみせる!」

「よかろう!貴様の本気を味わってやろう!」

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 そして夜が明ける。たぬき食堂は爺さんの手に戻り、これからは小さな地元の個人食堂として活動していくのだろう。店内にはトラッシュパンダを駆除するためにカークスも一緒に残っている。


「爺さん、あの男が作った料理…あれは本物だったのか?」

「…そうじゃな。ワシはそうだと信じておるよ。あれはたしかに、うまかった」


 ポコネロスは料理を捨てていなかった。ポコネロスの料理する姿から、そしてその味からそれを信じることができた。かつてポコネロスを拾った際、最初に食べさせたのはチャーハンだった。ポコネロスはそれを黒菜でアレンジしたチャーハンを披露する。黒菜を用いたチャーハン、それは爺さんも食べたことがないものだから。

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「ポコネロス。我が魔王軍の料理部顧問としてその力を振舞ってほしい」

「承知した。この技術と幻術で嫌いな食べ物もおいしく食べさせてみせますよ」

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