番外編 風雲!たぬき食堂③
一行がたぬき食堂でランチした翌日の、夜。22:00ごろのこと。
「今日も一日お疲れ様ぞ俺」
たぬき食堂のウェイターが食堂の暖簾を閉まっていると、そこに来客がやってきた。
「申し訳ありません、もう店じまいでして」
「そこを何とか頼めないかい?この黒菜をお宅に調理してもらいたいんだが」
「あなたは…」
来訪者は先日3人でやってきた魔族と思しき男性。他2人は人間だったがこの男性は明らかに魔族だったので印象に残っている。
「黒菜ですか。ウチのシェフは黒菜の調理はやったことがないので…それにもう厨房も片付けに入ってしまって…!」
ドン、と魔族の来訪者の腕が、ウェイターの顔の横から手を壁にドンと突き、ウェイターに迫る。
「そこを何とか頼めないか?たぬき食堂の料理をもう一度味わいたいのだよ」
「…シェフに確認してきますので、お待ちいただけますか?」
その逞しい筋肉質な腕に、ウェイターはつい拒否ができず、慌てて様子で店内に入っていく。サガの特技、筋肉チャームの効果はすごい。魔力なぞ使わずに純粋にその筋力のみで魅了してくるから、恐ろしい。その様子を、店の裏からトッシュが観察していた。
(あのウェイター…)
シェフに確認します。ウェイターは確かにそう言っていた。しかしおかしい。店の裏から店内を探るトッシュは、得意の気配探知により店内に人の気配が全くないことがわかっている。というより先日のランチの時点でそれはわかっていた。トッシュが感じていた違和感だ。
そしてカークスが感じた違和感。カークスはシシカバブを注文したのだが、届いたのはドネルケバブだった。カークスらダークストーカー一族の祖先が魔界に落ち延びたとき、魔界に持ち込んだ秘伝書の中には料理のレシピ本もあった。そのレシピは個人のメモの延長といったもので、内容はわりと誤記が多い、シシカバブとドネルケバブが入れ替わって掲載されているのも、その一つだ。つまりダークストーカー一族でないたぬき食堂がシシカバブをドネルケバブと間違えるのはおかしい。
最後に、サガが感じた違和感。腹持ちがあまり良くないのだ。常人よりも代謝が激しく、消化力も高いサガの胃が、食後にものすごい物足りなさを感じていた。どんぶりに盛られたお刺身と酢飯を食べたはずなのに、まるでサラダしか食べてないようなその腹八分目感。
そして、確かめるために今、3人は再びたぬき食堂へとやってきた。否、4人だ。
「じいさん。アンタが何を隠してるかは知らんが付き合ってもらうぞ」
「それは願ったりじゃよ。ワシはこの店に寄り付くことができんかったからのう。感謝するのじゃよ」
カークスと、たぬき食堂を案内した老人もまたこの場所へと集まってきた。