61話 悲嘆、姉の傷③
「NNNNHOOOOOO!逃がさねぇ~!」
飛び出してきた二人を取り戻すべくすかさず開かれた胴体の穴からうじゅるうじゅるした触手めいた何かが飛び出してくる。その追撃は、追われる二人に恐怖を感じさせる。その触手に囚われたら、今度こそただでは済まないと。そう思わせるのに十分な、醜悪なモノ。
だが、それだけである。恐怖体験こそあれど、実際の被害には繋がらない。ゾンビジークはすぐにその穴を閉じるべきだった。その焦りが、彼の敗北を決定させる。
ラファエルはすかさず、メタルアームに十分すぎるほど宿っている魔力を臨界させ、ゾンビジークの穴へ放り投げる。ラファエルはそのゾンビジークの外部装甲の硬さをご存知なかったが、外部で爆発させると自分やミサキに爆風による被害が及ぶため、ゾンビジークの内部で爆発させるべく。
ラファエルとミサキが触手に捕えられるより先にダイナマイトと化したメタルアームはジーク内部に転がり、触手に捕まったと同時にジーク内部で爆発が炸裂する。その爆発の形はラファエルのコントロールにより爆発は上下に向くように調整をしている。その威力はまるで針のようにゾンビージークの上のお口と下の後ろのお口をまるで一本の杭で繋ぐように炸裂する。頭頂部に空いたその穴目掛けて、すかさず、上昇技で宙にいたギラビィが今度は対地技をその頭部の傷目掛けて振り下ろす!
「風雷剣!」
重力を味方にし威力を増した、まるで雷撃の如き剣がゾンビージークの頭頂部の傷から縦に斬り裂く!しかし胸部あたりでゾンビジークの表皮の毒素で限界に達した魔剣ファックソードは折れてしまうが、十分だった。その一撃がトドメとなり、ゾンビジークの肉体は崩れ落ちる。ドロドロとその形を保てなくなり溶け出すように、そして地面に残る黒いシミへと変わった。最後にのこったのは、それは人の頭部だったのだろうとギリギリ予想できる形状を持ったぐっちゃりした肉の塊。それがずるずると、ミサキへと這い寄る。その口と思わしき穴から這い出るはっきりとした不快な声。
「アカネchang…アカネchang…」
妄執に囚われたジークが発する声は、ちゃんとした声だが、ゾンビジークがぐちゃぐちゃした腐った肉が肉が這いずる音よりも気持ち悪い。
「うるさい!」
ぐちゃ、とミサキは触るのも嫌なので手近にあった大き目の石を使って叩き潰す。
「アカネちゃん…?それって君のお姉さん…」
ミサキの危機を察知して駆け付けたビラビィは、ジークが読んでいた名前を知っている。山賊に攫われ、今はローシャ市で療養しているミサキの姉の名前だ。
「…うん、たぶん、こいつ姉をさらった山賊のゾンビだと思う…。はっ、それよりもあの人!あの人も被害者なの!すぐに助けないと!」
ミサキは自分と一緒に囚われていた男を思い出す。その男のおかげで助かったのだから。急いで治療しないとと焦る。なんせその男の舌を噛み千切ってしまっているのだから。
「大丈夫ですか!?」
「だ…だいじょぶ…」
「大丈夫には見えないよ!すぐに村に…」
舌が痛いし足りないのだろう。うまく喋れないようだ。すぐに村に戻って治療をしないとと焦るミサキを、その男が制止する。
「待って…アカネちゃんは…君のお姉さんなのか?」
「…え?」
「俺は…君の姉を傷つけた山賊だった…俺は…被害者じゃない…加害者なんだ…」