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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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61話 悲嘆、姉の傷②

 体を締め付ける圧迫感、鼻に着くのは不快な腐った肉や血の臭い。ミサキは村に襲来した大きなアンデッドの内部に取り込まれていた。自分を締め付ける冷たく臭い肉の触感に混じり、それとは別の冷たく硬い感触を腰に感じる。金属の腕が自分の腰に腕を回している。同時に体温を持つ左手は遠慮なく下腹部を弄っている。この狭い空間で、腐肉に拘束している自分に何者かが密着している。その温もりは人の持つそれだ。


「取り戻したぜェ~…アカネちゃん…」

「…人違いなんですけど」


 暗いからか。この人物は自分を姉と間違えている様子だ。明かりがあれば、種違いの姉だ、人違いだとわかりそうものだが。


「へへへ…つれないこというなよ…63日間も一緒に暮らした仲じゃないか…おまえの体で俺の指と口が触れてない場所はないってのによぉ…」


 63日間。つまり約二ヶ月。この期間が意味することは。ミサキがずっと一緒にいたアカネが二ヶ月間も行方が分からなくなっていたその理由。


「おまえ…!おまえお姉ちゃんに何をした!」

「何をしたって…あれれ?…おかしいねぇ…そういやせっかく切り落とした手足が生えてるねぇ…お腹の中のお子さんもいなくなってらぁ…しょんなか。また切ってあげる。また妊娠させてあげるね…」

「!!!!」


 そうか。こいつがそうか。こいつが姉を傷つけた。なんで姉が村から出て行ったのかわかった。見られたくなかったんだ。傷物にされてしまった自分を。わたしを悲しませないために。


「おまええええええ!」


 その生きている男の吐息が近い。ねとっと舌がミサキの頬を舐める。ミサキは怒りにまかせ、その舌を…噛み千切る!


「んがああああ!」


 同時に自身を捉える肉の檻が大きく揺れ動く。檻の内部に、まるで熱せられた真鍮製の牡牛が発する悲鳴のような、おぞましく不快な声が響いている。いや、それは悲鳴そのものだった。


「GYAAAAAAAA!」

「突然何事!?」


 その外部で、トッシュにも見せたことの無い秘密の必殺技・裏暗黒新陰流の技をかましたのに平然としていた巨大アンデッドが藻掻きだす。このアンデッドの肉体は死肉を凝縮しまるでゴムのように攻撃を弾き、腐ることで生成される毒素が武器を痛ませ破損させることで雷華閃の威力を殺し、そもそもアンデッドであり神経もすでにその機能を失って痛みを感じるはずのないアンデッドが、なぜ痛がる様子を見せているのか。


「ペッ!汚いものを口に含ませやがって!」


 ミサキは噛み千切ったその男、ラファエルは舌を吐き捨てる。暗くてよく見えなかったが、ビチャっと肉壁に当たったそれは、そのまま肉壁に取り込まれたように感じた。


「ぐぐぐ…今の内だ…この腕を受け取ってくれ…」

「は!?」

「時間がない…!奴が、ジーク社長がまた俺を支配する…」


 先ほどと男の様子が違う。状況から察するにこの男も自分と同じく囚われたのだろうと理解する。悪いことをしてしまったと、ミサキは少し申し訳なく思うが、仕方のないことだ。世の中には緊急避難や正当防衛という言葉もある。自己弁護に勤しむミサキに、ラファエルは魔量を込めた義手を外し、ミサキの手に渡してきた。


「ちょ…こんなの渡されても…!?」

「おのれ…感覚を失ったオレが性的快感を得るためにこの人間と感覚を共有したことが裏目ったか…」


 また支配されてしまったのかと不安に思ったその直後、今度はラファエルの言葉が発せられる。


「その腕を…爆発させるんだ…魔力が籠って…」


 だが抵抗はそこで終わってしまう。再度完全に支配されてしまったようだ。


「フヘヘ…ブチ犯してやるぜアカネちゃん…!」

「…」


 ミサキの手には魔力が込められているというメタルアームが一本。しかし四肢は肉に埋め込まれ動かすことはできない。そして感覚が共有されているという目の前の男は、もう迂闊な行動はしないだろう。


(この腕を…ただ爆発させるだけなら私がそもそも死ぬ…どうすればいいの?目の前のこいつがうまいこと使えばよかったんだろうけど、まあできないから寄越したんだろうし…ていうか爆発ってどうさせればできるのさ?)


 かちゃかちゃ、とズボンを止めている金具を外す音がする。暗くて良く見えないのが幸いだ。両足の間にぶら下がる…いや、今は立ち上がっているのか?その汚いものを見ないですむのだから。


 ミサキは魔術の才能は無い。ただの一般村娘に過ぎないのだが、何か方法があるに違いない。そしてこの状況から生還する方法は、一つ思いつく。


(手首のスナップで手前に投げることはできる…ある意味私を縛る肉の壁が盾になってくれるから、それを信頼してこの男の足元で爆発させるといいのかしら?)


 しかし爆発のさせ方がわからない。が、この男がどういう意図でこのメタルアームを渡してきたのか、それはこの男を支配しているアンデッドもきっとわかっているに違いない。アンデッドの腐った脳歪んだ精神でも、それくらいの理解力はあるはずだ。


「来ないで!このメタルアームを爆発させるわよ!」

「むむむ…!」


 ブラフである。爆発のさせ方などわからない。が、お前に犯されるくらいなら道連れだという気迫を見せつけることで、牽制をする。が、これだけでは膠着するだけだ。ここでミサキは博打に出る。


「ていうか爆発させていいか!それ!」


 手首のスナップで、目の前の男の足元に落とす。30cm程度しか離れていないのだ、その程度の距離なら手首だけで十分である。


「はわわ…!いけない離脱!」


 男から何かがずるっと抜けた音がした。瞬間、男は足元のメタルアームを拾い、その魔力を発動させる!死肉の外壁は無敵の防御力を見せているが、内部までその装甲は纏っていない。その魔力が発する熱線がアンデッドの内部を穿つ!


 そしてその好機を、この男ギラビィは逃がさない!その内部で起きた魔力が外部に向けて放出され漏れ出す。内部からの熱で死肉の壁は焼け、炭化する。それすなわち脆さをもつということ。


「そこだ!裏暗黒新陰流!鳴神月!」


 裏暗黒新陰流外伝、花鳥風月終章・月の巻『鳴神月』


 魔王軍に入る前、ギラビィが師事した黒衣の騎士が魅せた裏暗黒新陰流・花鳥風月の4連剣戟。ギラビィはまだその連続攻撃はできないでいるが、単発ならば4種の剣技をすべて使うことができる。その中で最も威力を持つのが4連撃の〆、月の章、鳴神月である。懐に入り込み、下段からまるで三日月の如く弧を描くように飛びながら切り上げるその技は、全身のバネを活用することで威力は裏暗黒新陰流最強!ただし隙が大きいため使いどころを謝れば手痛い反撃を受けることになる見極め、見切りが大事な技だ。


 こと、その使いどころに関しては今はベストの場面と言えよう。このアンデッド、その自慢の肉の壁で防御がおざなり、それどころか心ここにあらずといった様子で外部にまるで関心を示していないのだから、反撃が飛んでくる心配はない。


 斬り裂いた焦げ臭い死肉の中から、二人の人影が飛び出してきた。

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